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民族移動が我々にもたらしてきたこと

民族移動の歴史と経済と幸福の関係が面白かったので紹介する。

出口治明さんの著書『全世界史』の一節に、民族移動の歴史に関する記述があった。簡潔にまとめると次のようである。

「今から三千年以上昔、海の民と称される人々は、気候変動の影響から食料を求めて南下し、当時、東地中海で影響力を持っていた遊牧民のヒッタイト人を滅ぼして、彼らが築いた文明を次々破壊していった。
そして、新たに登場するフェニキア人という小さい民族が、異なる言語の人達と円滑に交易をするために、アルファベットとという文字を誕生させた。

ここには、民族の移動によって文明が破壊され、新しい文明が創造された歴史が書かれている。

これを「新しい文明が生まれて良かった」と考えるか、「今まで栄えていた文明を破壊されるなんて良くない」と考えるか、どちらの意見が多いのか私には分からない。

ただ読み進めていく中で、「民族移動が人の生存に良い結果をもたらすかは分からないが、試してみる価値はある」と思うようになった。

歴史に「もしも」の考えを持ち込むと、ありのままの事実を受け入れていないようで少し憚られるのだが、もし民族移動が起きずにヒッタイト人が生き残り続けていれば、今よりもっと幸福を実感できるようなマシな世界になっていた可能性はある。

ただ、仮の世界線がどうあれ、少なくとも民族移動が人類に与える影響がとてつもなく大きいことは歴史から分かる。

一方は、移民の受け入れによって経済力を維持あるいは向上させている国がシンガポールや英国をはじめ多く存在していて、かたやもう一方は、ヒッタイト滅亡のように、それまで栄えていた文明が一気に崩壊している。

この歴史と今の自分の生活に何の関係があるのか考えてみたが、私は民族移動で多くの人が富を生み出し、経済が刺激されて国が豊かになることで、幸せを実感できる機会は増えると考えている。つまり私にとって、移民によって国の経済力が向上することは良いことだ。

現代の世界の各国の経済状況を見ると、ロシアや北朝鮮のように、純血を重んじる思想を持った国々は、独裁と情報統制で世界から孤立し、交易の機会を失って貧しいままの状態が続いている。
また、そのような国の幸福度が高いと言う情報も全く聞かず、少なくともロシアの幸福度は日本より低い。

豊かさと幸福の相関はまだはっきりしていないが、幸福度で上位10位にランクインしている国々の大半は一人当たりGDPでも上位の国が多く、国際的に見ても豊かだ。

当然、幸せの感じ方は人それぞれだし、幸福度ランキングに関しても、あくまでアメリカとヨーロッパ諸国が中心となって作成しているので、これらの国々が上位に来るようなバイアスがかけられている可能性はあるだろう。

しかし、現状貧しくて、かつ幸福も実感できていない人が多いのだとしたら、豊かになることを目指してみても良いのではないかと思うし、豊かさを実現するための手段として民族移動を試す、つまり、移民を受け入れることを試してみても良いのではないだろうか。

実際、移民受け入れによる効果は世界各国で報告されている。

例えば、OECDが発表した『2000 年代半ば以降(2006-2018)の OECD 諸国における移民の財政への影響』という資料によると、移民は政府から受ける支出以上に税金や拠出金(保険や年金の掛け金など)で貢献しているという報告がされた。

具体的に言うと、移民の拠出金は大多数の国で国防費や公債費などの資金調達に貢献していて、これら公共財に対する政府支出の分担を完全にカバーするのに十分な額だという。

2017 年、純粋な公共財への資金提供に対する移民の貢献は、分析対象となった 25 か国で合計 5,470 億米ドル(約79兆51億円)に達した。
つまり、移民が移住した国で払い落としたお金が、国の歳入を増やし、予算の拡充に役立っているということだ。

また、移民の純財政貢献総額というのも出ていて、これは調査対象国の約 3 分の 1 でプラスのまま。約半数の国では、本国生まれと比較して移民の方が一人当たりの寄与が大きいとされた。移民が財政に貢献している額は私たちのような本国生まれより大きいのだという。

もちろん課題もあり、この移民による純財政貢献総額は、2006 年から 2018 年にかけて一貫して小さくなっていて、ほとんどの国で GDP の -1% から +1% の間に位置する。国のやり方によってはマイナスに作用してしまうこともあるのだ。

この額は移民人口の規模や構成、受け入れ国の公的予算の構造などに依存し、景気循環によっても変化するようだが、つまるところ、国の側も移民が経済に貢献してくれるような仕組みを整えなければならないことが、この資料から読み取れる。

ここまでの民族移動に連なる移民受け入れの話は、なにもロシアと北朝鮮に限った話ではない。日本にも言えることだ。

日本は人口の減少がこの先長く続いていくことが分かっていながら、移民の受け入れに非常に消極的な国として知られる。
理由は私もはっきりとは分からないが、一説によると、日本列島が海で隔てられた島国で、歴史的に海外からの圧力を受けたことが少ないことから、国内が村社会の様相になり、自分たちと全く違う存在の人に対する警戒心が強くなったとされている。

このまま移民を拒否し続ければ、経済力の向上に向けて取れる選択肢が狭くなるので何とか改善しなければならないが、日本が移民を受け入れやすい国になるために現状取れる対策はいくつか提案されている。

大きく以下の4つ。

  • 法改正:「現在の奴隷制度」との悪名も高い「外国人技能実習制度」に関する法律やブラックな労働基準法を改正する。

  • 行政サービスのデジタル化:各種手続きをスマホから行えるようにしたり、マイナンバーを使った本人確認をネットサービスの会員登録などでも使えるようにする。

  • コミュニティのサポート:宗教に根付く生活を尊重するような環境を提供したり、母国との最低限なマナーの違いを共有できるコミュニティを創設して、移住後の不安をなるべく取り除く。

  • 経済政策の評価と社会保障プログラム:移民が入ることで経済効果がどう変わるのかを評価する。また、健康保険など移民が利用できる社会保障プログラムを設計し財政への負担を管理する。

これら4つを整えることができたら、海外の方も安心して移住先に日本を選ぶことができるだろう。

では最後に大事な点、「新しい民族を受け入れ、豊かになれば、幸せになるか?」と言う話に触れて終わろう。

2023年現在、幸福度ランキングや研究機関による分析など、幸福に関する研究は世界中で行われているが、未だ人種や性別関係なく人類全員を幸福に導くような唯一無二にして絶対の考え方は見つけられていない。また、仮に見つかったとしても、それを全員が理解し、実践することはほぼ不可能だろう。

なぜなら、その幸福論を理解できる読解力を全員が持っているわけではなく、私も含め、人は信じたいものを信じるからだ。
また、理解できたとしても、その人がいまの幸福観で満足しているのなら、これを矯正するようなやり方は、人の自由な意思を妨げることにつながる。それでは宗教と同じだ。

万が一に、人類全員が同じ幸福観を持って生きるようになったとしても、環境の変化が起きたとき、生き物として全員が同じ行動しか取れないと、変化に対応しきれず絶滅する危険がある。

そう言う意味でも、幸福感が人それぞれ異なっていることは、個人の心の安定を図るうえで、また生物的な観点で言えば「種として生き残る」ためにも、様々な幸福のカタチがあっていい。

なので、住んでる国が目指す幸福のあり方に概ね同意できるなら、移民の受け入れでも税制改革も目指してみたら良い。
逆に、国の目指す幸福のあり方に同意できないなら、国民としての義務を最小限に果たしながらひっそりと暮らすか、実力をつけて別の価値観を持つ国に移るか、自分で国を一から作るかになるだろう。

では結論をまとめる。

  • 民族移動がたくさん行われた歴史を見る限り、それで文明が消えることはあるが、代わりに新しい文明が生まれたりして、人類の生存が危うくなるような事実は見られない。

  • 統計的には、国によって結果はまちまちであるものの、全体的に財政面の課題が解消あるいは緩和されたケースが多く見られ、豊かさと同時に幸福が実感できている国が多い。

  • 経済的に行き詰まり、幸福感でも行き詰まっているのなら、民族移動を促してみる価値はあると思う。

何かの参考になれば嬉しい。
以上。


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