【第12話】ベランダからの小窓

「え、外に出ていいんですか?🤩」
「はい、1日だけですけどね」

僕が入院してから、子どもたちとはまだ一度も会えていません。想像さえしていなかった、まさかの外出許可に喜びを隠せない僕は、さっそく妻に連絡しました。しかし、妻からはこんな切ない返事が……。

「えー?子どもたち2人とも風邪ひいてるよ」
「おー、マジかーヽ(´▽`)/」
(一瞬で諦めたヤツ↑)

主治医の話では、今、僕の白血球はきちんと機能していなくて、感染症のリスクが高いとのこと。抗がん剤治療が始まると、さらにそのチカラが落ちていくらしく「常在菌」と呼ばれる、誰もが持っているような菌でも危険になる場合もあるのだとか。とゆうことで、僕自身のために、鼻水くしゅくしゅしている保育園児たちとは会わない方がよいのです。

もちろん、子どもたちだってすべてを理解してくれているわけではないし、僕だって、目の前に居たら、誰にとめられても絶対に抱き上げてしまいます。

(よし、家で一緒に眠ることは諦めよ。でも、せめて遊んでいる姿だけは見たいな…)

妻に相談してみると、「その日は朝から保育園に行くから、保育園の先生に相談してみる」とのこと。

当日、10日ぶりに外出できた僕は、妻に連れられて保育園に向かいました。到着すると、先生方が「さぁ、こちらへ」と庭園を通って、ある部屋のベランダへ案内してくれます。

外から見える窓には黒ビニールが一面に張られ、ところどころに赤やオレンジの小さな窓。その小窓から室内の様子を覗いてみると、遊具を持つ子どもたちが丸見え。まさに、マジックミラーみたいな感じです。

子どもたちが「パパー」ってなることもなく、僕の希望も叶えてくれる、本当に理想とした空間がそこには出来上がっていました。

先生方の優しさに感謝し、彼らの様子を見ていると、とても楽しそうにあそんでいます。その姿をこんなに近くで見ることができて、僕の涙腺は崩壊。2分で十分でした笑。

実際にはそんなにも長くなかったのかもしれませんが、別の子が気が付いて「あー!窓から誰か見てるー」と指を差してくれたので、庭園で先生と話していた妻に合図して助手席へ戻ります。

先生方へ直接伝えられなかったお礼を妻に託し、10日ぶりの自宅へ戻ることにしました。その時、これまでの日常の風景が頭に浮かんできます。子どもたちを膝に乗せ、今日あったことをおしゃべりをしていた時のことです。

「きょうはほいくえんでなにしたのー?」
「きょうはね、〇〇がおててかんだ」
「そか、いたいよーっていったらいいよ笑」

(本当に他愛もない日々が、どれだけ有難い日々だったのだろう…って、なんか臭いドラマみたいだな笑。でも、本当にそうなんだろうな。よし、家に着いたら妻にあのコトを白状して謝ろう)

その時、僕は一つのことを決めていました。世のパパたちは、一度は挑戦して、成功したり失敗したりしたことがあるはずの、あのコトです笑。

2023.11.11

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