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末梢動脈疾患のリハビリテーションに関して②

今回は、末梢動脈疾患(以下, PAD)のリハビリテーションにおける自分が考える課題と工夫について書いていこうと思います。

末梢動脈疾患リハビリテーションの実状

前回の末梢動脈疾患のリハビリテーションに関して①でPAD患者に対する運動療法について記載しましたが、実際に3-6か月の期間運動療法を監視下で提供できる施設は全国的にも少ないと思います。

実際に私の勤める病院でも外来での監視下運動療法を導入している症例は少なく、リハビリ依頼が出るのはほとんどが血行再建術を終えた症例です。さらに、介入期間は1-2週間程度と短期間であり、マンパワー不足などの理由から監視下での外来リハビリに移行することはできていないのが実状です。

また、近年の医療費適正化政策が入院期間の短縮に拍車をかけており、私たちリハビリスタッフが病院で患者様に関わる時間はより短くなっております。そんな中、注目されているのが非監視下で実施ができる在宅運動療です。

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血管疾患の在宅運動療法

2000年以降より血管疾患に対する在宅運動療法に関する研究は行われるようになってきました。報告の中には連続歩行距離の延長といった点で、その有用性を示すものも存在しており¹、監視下運動療法の代替手段としての考え方が強くなってきています。国内のガイドラインでも監視下運動療法を行うのが難しい場合に、内服薬併用在宅運動療法を行うことをエビデンスレベルBとして推奨しています²。その一方で、在宅運動療法への参加率の低さや継続率の低さは課題として挙げられています。ただし、病院から在宅ベースのリハビリへ移行するための構造化された戦略は未だ確立されておらず、電話コーチング³やウェアラブルデバイスの活用など各施設で独自の取り組みが行われているのが現状です。

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自分が行っている工夫

私はこれまでPADのリハビリテーションに携わっていく中で、入院期間中はスタッフからの外発的動機付け(他者からの評価や称賛、監視など)により、運動療法が継続出来ていても、退院後は元の生活習慣に戻り数年後に再発してしまう症例を多く経験しました。この経験から疾病の再発予防には運動習慣や生活習慣における行動変容が必要であり、私たちリハビリスタッフができるのは、行動変容の’きっかけ’を作ることであると感じました。そして、そのきっかけ作りに有効に作用するのが結果の可視化個別性のある介入なのではないかと考えています。自分の場合、術後のリハビリテーションに関わる機会が多いため、術後の介入における工夫を紹介したいと思います。

具体的な工夫点が以下になります。

①結果の可視化

PADを患う方のほとんどは下肢の虚血痛が日常生活動作の主な阻害因子となっております。そのため、血行再建術を行ったことで疼痛が減少すると、当人の中での問題は解決されるため、リハビリに対する意欲が減退する傾向にあると感じております。しかし、これまでの研究で慢性的な動脈閉塞は機能的側面に影響を及ぼすことが明らかとなっており、ADLが自立している症例でも、筋力の低下や歩行速度の低下している症例が多く存在します。そのような患者本人も気づかない機能的変化を明らかにするため、術前より身体機能計測を行い結果のフィードバックを紙面にて行っております。

以下がその例になります

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②個別性のある介入

まずは対象者のライフスタイルを知るところから始めます。PADは50代以上が好発年齢であるため、患者さまの多くは退職された方ですが、中には現役で仕事をしている人もいらっしゃいます。また、私の働く地域では畑を所有されている方が多く、1日のほとんどを畑で過ごす方も多くいらっしゃいます。このように、対象者の生活リズムはバラバラで、それぞれに大切にしている時間などが存在します(お孫さんの迎えなど)。ですので自分は、①総活動量、②生活リズム、③運動を行うタイミング、④運動の制限因子に注目しながら平均的な1日のスケジュールの聴取を聴取しております。

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また、運動指導を行う際は対象者に個別のパンフレットを作成します。パンフレットの使用は運動指導にける内容理解の促進や運動継続を補助するツールといわれています。また、患者さまが自宅にパンフレットを持ち帰ることで、それを見たご家族が運動を促してくれた例も多く存在するため、一石二鳥の効果があると考えております。さらに、表紙に患者さまの名前を入れるとより受け入れが良くなる印象がありますのでぜひ試してみてください!

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個別性の高い介入は患者様からの信頼を得るための手段でもあり、結果的に医療者と患者様の相互理解(アドヒアランス)の向上につながると考えています。少しでも参考になる点があれば、明日からの臨床に生かしていただけたら幸いです。

以上、自分が考える末梢動脈疾患リハビリテーションの課題と工夫でした! 次回は、今回血管疾患に対する行動変容アプローチについてより詳しくまとめていきたいと思います。


参考文献

1)McDermott MM, et al.:  Home-based walking exercise intervention in peripheral artery disease: a randomized clinical trial. JAMA 2013; 10:57-65

2)8) 宮田哲郎(班長):末梢閉塞性動脈疾患の治療ガイドライン(2015 年改訂版). http://www.j‒circ.or.jp/guideline/JCS2015_miyata_h.pdf

3)McDermott MM, et al.: Effect of a Home-Based Exercise Intervention of Wearable Technology and Telephone Coaching on Walking Performance in Peripheral Artery Disease. The HONOR Randomized Clinical Trial. JAMA 2018; 319:1665-1676

4)Normahani P, et al.: Wearable Sensor Technology Efficacy in Peripheral Vascular Disease (wSTEP) A Randomized Controlled Trial. Ann Surg 2018; 268:1113-1118


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