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寿司と愛⑤~寿司のすべて~

「これこれ、懐かしいなぁ!」

俺はオヤジの書斎から一冊の埃(ほこり)だらけのボロボロの本を見つけた


小さい頃


オヤジは寝る前に


絵本ではなくこの本を俺によんでくれた


興味もなかったし、つまらなかったが


朝早くから河岸に向かい

夜遅くまで営業をしているオヤジが

俺と一緒にいてくれたのはその本を読んでくれる一瞬時間だけだった


その本とは


<寿司のすべて>

というタイトルのもので


ものすごく分厚い本であった



表紙を開くと

包丁の使い方から


服装、姿勢、言葉遣い


から


各ネタごとに


どうやって仕事をするのか


そんなことが事細かく書いてあった


そしてその本には無数のメモが書かれており


うっすらと、親父が話してくれた記憶がよみがえり


なぜか涙が出そうになった


・・・・・

・・・・・


「どうして僕にこの本を毎日パパは読むの?」


そう、ガキの時にオヤジに聞いたことを覚えてる


その時にオヤジは


「ああ、パパが唯一尊敬してる人が書いてる本だからだよ」


「ふーんそうなんだ」


その時は、その意味がわからなかったが


自分が


人生を寿司に捧げ


オヤジ以上の寿司屋を作るにあたって


なぜかそのとき読んでた本がフラッシュバックしたので


書斎まで来て


あの頑固なオヤジが尊敬する人が書いた本を探し当てたのだ


そこには


俺でも知ってる寿司屋の名前があった


銀座 久十兵衛
創業者 今田壽治

であった

銀座 久十兵衛は

銀座御三家と言われた高級寿司店で

日本の高級寿司の代名詞のようなものだ

※銀座御三家とは、久十兵衛、与志乃、奈加田の3つ。今日に至るまで北大路魯山人や志賀直哉、バラク・オバマなど国内外の要人に利用されてきた。また、のれん分けにより鮨かねさかの金坂真次、すし縁の遠藤尚人、鮨竜介の山根竜介、寿し処寿々の藤居陽一郎など多くの寿司職人を輩出した。



その日に直接 銀座久十兵衛 本店に訪問し

その翌日から無給で修行をはじめるのだが


その判断、そして行動力は


振り返ってみたら


正しい選択だっただろう


ミシュラン3つ星である


鮨 さえき田を


オヤジの寿司を


超える第一歩になったことは間違いない




「よし、やっぱり気持ちを見せれば働かせてもらえるものだな、明日からごぼう抜きでやってやる」


そう言って

俺は久十兵衛を出て帰ろうとしていたのだが



今までの人生で


見たこともない


美しい女とすれ違った





身長は170㎝近く


スラっとのびた足にピチピチのスカート


そして大好物の大きく膨らんだ乳房

明るめの髪は大きくかきあげられ自信にあふれた表情

そして

クロコダイルの光輝くエルメスを持っている

『うっひょーーすげえいい女!やっぱり銀座すげえや!エッチしてぇ』

そう、心の中で叫び振り向くと


その女は久十兵衛本店から目と鼻の先にある


club nanase

という店に入っていった


女の子がいるclubなんて興味もなかったし

その時は寿司のことしか考えていなかったが

俺は

その女と、いつかまた出会う予感がしたことは今でも覚えている


(つづく)










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