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LR

緑と黄色の幾何学模様の靴下だった。
気に入って、ちょくちょく履いていたのに、どうして今まで気が付かなかったのだろう。

ある時、突然気が付いた。
靴下の左右それぞれに、アルファベットのLとRが小さく縫い付けてあったのだ。
つまりこの靴下には、右左があったのだ。

左寄りにLの付いた方が左足用、右寄りにRの付いた方が右足用らしい。
ただ、長い間愛用していながら、違和感を感じたことは一度もなかったので、左右の構造的な違いは皆無か、有っても小さいのに違いない。

気が付いた以上はしかし、ちゃんと履かないわけにはいかない。
ずぼらな自分にはちょっと面倒ではあるが、履くときにはしっかり、左右を確認することにした。

最初のうちは特に、なんの変化もなかった。
ところが、左右を意識してしばらく経つと、なんとなくではあるが、心地よく感じるようになったのだ。
多分、暗示効果なのだろう。
以前は左右など意識せずに履いていたのに、日による違いなどは感じたことが無かったのだから。

そんな調子で日々は流れたのだが、ある日唐突に、はっきりと快適感を自覚することになった。
それは公園のブッシュの遊歩道を、少し速足で歩いている時だった。
不意に、足に羽が生えたように感じたのだ。
スキップしたくなるほどだった。
そして、人目の無いのを幸い、実際にスキップしてしまった。

右左のあるメリットがやっとわかったと思ったのだが、家に着いて、靴下を脱ごうとして、びっくりした。
左右が逆になっていたのだ。
詐欺に引っ掛かったような気がして、その後はまた左右を気にしなくなった。

最近また、新たな発見をした。
ある時気が付くと、靴下が両方ともRになっていたのだ。
どういうことかといじっていて、訳がわかった。
この靴下は、リバーシブルだったのだ。
左も右もLとRが裏表になっているのだった。

この靴下の真相は、結局わからずじまいなのだが、ひとつだけはっきりしたことがある。
僕はこの靴下に、おちょくられているのだ。

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