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竜舌乱

頭のてっぺんに何か生えてきた。
ロゼット状の多肉っぽい奴だ。
パイナップルみたいで、なかなかカッコいいから、放っておいた。

そのうち花茎が生えて来て、ぐんぐん伸びる。
さすがに心配になって、植物に詳しい友人に相談した。

「これ、リュウゼツランじゃないかな?
ちっちゃいけど、形から見たら間違いないよ」

「これから大きくなるのかな?
今でさえ結構大変なのに、でっかくなったら、俺、持たないよ。
まあ、大きさにもよるけど…」

「矮小化された新種かもしれないから、大きくなるという保証は無いよ。
盆栽みたいに、このまま花を咲かすかもしれないしね」

「リュウゼツランの花って確か、100年に1回しか咲かないんだよね?」

「よく知ってるね。
100年に1度だけ咲く“センチュリープラント”と言われたりもするけど、実際には30から50年に1度くらいだよ」

「最近結構あちこちで、その希少な開花が話題になってるよね。
それで俺も、知ったんだよ」

「うん、当たり年なんだろうね」

「最初は面白がってたけど、やっぱり邪魔臭くなってきたんで、そのうち引っこ抜こうかと思ってたんだ。
でも、そんなに貴重な花なら、咲くまでは待ってみようかな」

「別に、勝手に生えてきたリュウゼツランに義理を売ることはないと思うよ。
好きなようにすればいいさ」

とりあえず、花の咲くまでは、そのまま放置することにした。

花茎が1メートルくらいになると、黄色い小花が集まって扇のようになったのが、ぱっぱっぱっといっぱい開いた。
頭が重い。
おまけに不安定だ。

鏡に映してみるとしかし、花はリオのカーニバルの頭飾りみたいで、見ているだけでわくわくしてくる。
ほかの人にも見てもらいたい気もしないではなかったが、外に出て、ただ歩いただけで、人が集まってきてしまう。
面倒臭いので、花が終わるまでは部屋に引き籠ることにした。
宅配サービスをうまく活用すれば今は、人に会わなくてもなんとかなる。
便利な時代になったものだ。

やがて花は終わった。
引っこ抜こうかと思ったが、すぐに待てよと思い直す。

花がまた咲くのは少なくとも、30年以上も先だろう。
それまで僕は生きていられるだろうか?
自信は無い。
でも、もう一度また咲くものなら、今度こそはみんなに見せてあげたい。

それに、もしかしたら、狂い咲きってこともありうる。
数年もしないうちに、唐突にぱっと咲いたりすることも、無いとは言えない。

僕は今、リュウゼツランのプランターとして、生きられるだけ頑張って生きてみようと思っている。

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