ぼくのペントハウス
幼少期に「傷だらけの天使」を見た記憶がある。
恐らくは何度目かの再放送だったのだろう。
子どもながらに憧れたのは、主人公のショーケンがオープニングで付けていたヘッドフォンとゴーグルだった。
ヒーロー物のコスプレと同じレベルで、よく真似したものだ。
それよりも憧れたものが、実はあった。
ペントハウスだ。
大人になったら絶対、ペントハウスに住みたいと思った。
大人になった今、ぼくはマンションに住んでいる。
屋上ではなく、6階だ。
屋上に通じるドアの開いていることがある。
テレビアンテナの点検か何かあるのだろう。
点検などとは関係なく、強風で開いてしまうこともたまにある。
そんな時に何度かこっそり、屋上を探ってみたことがある。
残念ながら、ペントハウスを設けられるような作りにはなっていなかった。
もちろん、現実問題として、そんなことは許されないだろうけど。
夢の中で「傷だらけの天使」を演じていることは、珍しくない。
「あきら~」などと叫びながら、悪さをしている夢なんて、しょっちゅうだ。
ところが今朝は、少し趣を異にしていた。
夢には見なかったのに、目を覚ましたら「あにき~」になっていたのだ。
ベッドの上には、例のヘッドフォンとゴーグルを装着したぼくがいる。
起き上がる。
ワイルドな朝食をしなければならない。
ぼくはヴェジタリアンだから、木暮修みたいに、缶詰のコンビーフを丸ごとかじったり、ソーセージを歯でむいたりはできない。
代わりに、ニンジンとキュウリとリンゴを丸かじりした。
朝食を終えると、ゴミの袋を持って玄関のドアを開く。
きょうは普通ゴミの日なのだ。
あれっ?
変に見晴らしがいい。
そりゃそうだ。
玄関前の廊下が無くなっていたのだから。
そして、両隣の部屋も無くなって、ぼくの部屋だけが小屋のように、ぽつねんと建っていた。
周りは草ぼうぼうだった。
茶色っぽい草だ。
丈は結構あるものが多い。
それは髪の毛だった。
どうやら僕は、頭の上にいるらしい。
頭のてっぺんハウスだ。
その頭がぼくの頭であると判明するまで、時間はかからなかった。
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