カタマリ君
藤原君の悩みは尽きなかった。
何もかも藤原鎌足のせいだ。
歴史の授業で、フジワラノカタマリと言い間違えたのが、運の尽きだった。
みんなに笑われ、カタマリ君とあだ名をつけられたばかりではない。
以来、「鎌足」という単語を目にすると、極度に緊張が高まる。
緊張が高まれば高まるほど、「鎌足」はカタマリを呼ぶのだ。
大化元年六月、中大兄皇子・中臣カタマリらが蘇我氏を打倒して…
藤原のカタマリ、飛鳥時代の中央豪族。
初め、中臣鎌子、のちカタマリ、藤原氏の祖…
この藤原家の血を、藤原君は受け継いでいるのかもしれない。
だとしたら、呪われた血だ。
では、藤原紀香さんはどうなのだろう。
藤原君は紀香さんに、ひそかに思いを寄せていた。
「寄せていた」と過去形にしたのは、もはや「ひそかに」ではないからだ。
堂々と思いのたけを告白したのである。
そして振られた。
少なくとも藤原君自身は、振られたと信じている。
こんな次第だった。
「紀香さん、実はぼく…」
「あのさあ、あたし、君の恋人でも友達でもないのよね、今のところ。
名前で呼ばないでくれる?」
「あっ、ご、ごめんなさい、藤原さん…」
「あのさあ、あたしが一番嫌いなことって知ってる?」
「い、いえ…」
「自分の名前を間違って言われること。
ものすごく不愉快なのよね。
あたしフジワラじゃないの、フ・ジ・ハ・ラ!」
紀香さんのその一言で、すっかり固まってしまった藤原君なのだった。
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