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アメリカ在住日本人が感じる日本と韓国のメーカー戦略の違い

BTS、Galaxy、チーズダッカルビなど日本でも韓国製の商品や食文化が一般的になってきました。でもこれは実は日本だけでなく、ここ20年程で韓国のメーカーは一気に世界のブランドとして確固たる地位を確立してきています。本稿では日本でまだ韓流ブームが起こる前からアメリカに在住する筆者が、日常生活から垣間見えた韓国メーカーの躍進の様子と、同様のチャンスをみすみす逃した日本のメーカー戦略、さらには日本復活への道筋について考察したいと思います。

ITバブル絶頂期

私がアメリカに移住したのは今から25年前の1998年。当時勤めていた外資系半導体企業の本社があるシリコンバレーへ転籍したことがきっかけです。当時のサンフランシスコ界隈はまだY2K前のITバブル絶頂期。アパートの家賃も半年毎に$500ずつ上がるわ、新築の家が売り出される際には整理券が配られるため、一週間以上も前から会場にテント張って並ぶような人も沢山いました。

アメリカの白物家電事情

そんな中、私も何とか頭金を工面して半ば勢いで新居を購入したのですが、入居後まず初めに購入しないといけなかったのは冷蔵庫や洗濯機などの白物家電。それまで住んでいたアパートでは備え付けだったので余り気にしていなかったのですが、いざお店に行って見渡すとそこにはGE, Fridgeair, Kenmoreなどアメリカのメーカーのものばかり。しかもMade in USAだからか全て巨大!冷蔵庫のドアなど金庫のようで、両手でないと開かないんじゃないかという印象さえ受けたのは衝撃的でした。

時代を先取りしていた日本製

当時は日本では「指一本でも開けられる」とか「左右どちらからでも開けられる」など各社様々な進化した製品を発表してた時期だったので、新三種の神器の時代を彷彿させる白物家電に今更大金を注ぎ込まないといけかったのが、非常に口惜しかったのを鮮明に覚えています。

もちろん日本とは生活事情が違うので、大きさや利用シーンを考えると日本のものをそのまま持ってくれば良いというわけではありません。しかし日本の白物家電に見られるきめ細かい配慮がされた機能設計やデザインは、明かにアメリカのものより優れていました。よって(幅や奥行きなどの規格を)アメリカの市場に合わせた商品さえ開発すれば、車や家電製品のように市場を独占できたはずですが、それらを見かけることは一向にありませんでした。

韓国メーカーの躍進

誰しも優れた消費者体験を求めている

そんなことを考えていた時から7、8年経った頃、また別の家へ引っ越しすることとなり新たに白物家電を買い揃える必要に再度迫られました。そこで前回購入したのと同じ家電量販店に行ったところ、驚いたことに売り場はサムソンやLGの製品で溢れかえっており、アメリカのメーカーの製品さえブランド自体は残っているものの中身はほとんど韓国製品のOEMになっていました。結局のところ優れたデザインや使い易さなどの消費者体験は誰でも求めているということが、韓国のメーカーが市場のニーズをしっかり調査してそこに合わせた商品を開発することによって証明されました。

今や白物家電は韓国メーカーの独壇場に

日本メーカーが逃した勝機

ではなぜ日本のメーカーは先行の利があったのに、韓国のメーカーにまくられたのか?これは日本と韓国の市場規模と、マインドの違いに起因すると思います。

大きすぎた国内市場規模

幸か不幸か日本の人口は韓国の約2.5倍と、国内の市場規模には歴然とした差があります。しかし新しい冷蔵庫を開発するための研究開発費や生産管理費についてはそれほど差がつくものではありません。その回収ポイントが日本の場合国内市場だけでまかなえて、メーカー各社もその売上規模で満足していたのではないでしょうか?それに対して韓国の場合、国内市場が小さいため海外で成功しないと割に合わないため必然的にグローバル化に対する取り組み方が日本のメーカーより強かったのだと考えられます。

その結果白物家電の北米市場は韓国メーカーの独壇場となり、一方日本のメーカーは国外のマーケットにそこまで必死に取り組んでいなかったというツケがまわって、中国企業に買収されるケースまで出てきてしまいました。

アメリカで感じる日本の失われた30年

ただご存知のように、このパターンは白物家電に留まらず、その後車、家電、携帯、半導体とほぼ全ての分野で日本のメーカーは韓国メーカーにシェアを奪われています。アメリカ人の韓国製の家電や車に対するイメージは、既に日本製と遜色ないと言われています。実際アメリカで現在売っている日本のテレビはソニーだけだし(東芝のは実質Hisense)、日本のメーカーは携帯市場からはほぼ撤退済み。車もKIAやHyundaiが手頃の価格で売られているのと比べ、日本車はトヨタ、ホンダ、スバルは健在だけどあとは日産がギリギリ残ってるぐらいで三菱はほとんど見かけなくなっている状況。

これがアメリカに住んでいて肌で感じている日本の本当の失われた30年の象徴です。

日本復活への道筋

では令和の時代、日本のメーカーはこの負の連鎖から脱却するにはどうしたら良いのか?

世界からスキルと人脈を吸収する

まずは働く人のマインドを「働いてれば給料は降ってくる」から「いつまでも仕事があるとは限らない」というように意識改革をを行わなければいけません。日本では雇用法の名の下、企業のニーズにミスマッチしたスキルを持った人材を解雇することが難しくなっています。しかしこれではいつまで経っても経営は改善しませんし、個人としても自分が必要とされていないと感じる仕事を続けていてもモチベーションが上がるはずもなく、負の連鎖が続いてしまいます。

情報化社会の中では、知的好奇心と貪欲に学ぶ姿勢を持っているアジア諸国の若者にはすぐに(既に?)追いつかれ、追い抜かれてしまいます。逆に企業には今あるアドバンテージを活かして自分のスキルを磨き、国内・海外などと分け隔てなくビジネスチャンスを開拓していける人材が求められます。終身雇用の時代はとうに幕を閉じているという現実に目をむけ、転職も積極的に行い知見や人脈を広めることが鍵となります。

グローバル市場で勝負する

次にそういった人材を社内外から集め、世界で学んだスキルと人脈を使ってトップダウンで即決できるような野心溢れるような人材をリーダーに据えて
企業のグローバル化を推進しなければなりません。

今まで国内市場だけでなんとか回ってきた商売も、これから人口と共にローカルの市場が(TAM:Total Addressable Market)目減りするにつれてビジネスモデルを変えずに持続させるのが厳しくなってくるのは目に見えてます。そこで初めからグローバル市場を意識した商品開発や経営戦略を、大企業だけでなく中小企業や町工場まで描けるようになることが日本の復活には欠かせないと思います。

日本のアドバンテージ

前回の記事にも書きましたが、日本人には相手を思いやる心や道徳的教育が他の国と比べても非常に高く、デザインやアイデアは十分世界レベルで戦えるスキルを持った人がたくさんいると感じています。

なので各企業や業界が英知を結集して、世界で一番を狙った商品を作れば今からでも十分勝機があると思います。そのためには目先の市場や課題に捉われず、大きな目標を持って挑まなければなりません。その一端を担えるよう私もシリコンバレーから発信し続けたいと思います!

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