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国立大学の格差の問題

 ヌルい高等教育分析の予行演習として、この問題を扱ってみます。

国立大学とは?

 そもそも国立大学は、名前は国立ですが2003年に国立大学法人という、私立大学などを運営する学校法人に準じた民間の法人に変わっています。一般には国立大学の教授などの教職員が公務員だという誤った認識を持たれている方もいるかと思いますが、今は労働法規や雇用保険も適用される民間人です。公立の小学校・中学校・高校の教職員との根本的な違いにまず触れておきます。

追記:刑法などの触法行為に関しては、みなし公務員の扱いになります。

国立大学のグループ

 国立大学は現在3つのミッショングループに分けられています。

 もっともらしいミッション名がつけられていますが、言いたい事は以下の様な事だと解釈?します。

1.全世界の教育研究をリードして、バンバン研究して論文作ってね大学
 (世界トップ大学と伍して卓越した教育研究を推進)

 北海道大学、東北大学、筑波大学、千葉大学
 東京大学、東京農工大学、東京工業大学
 一橋大学、金沢大学、名古屋大学、京都大学
 大阪大学、神戸大学、岡山大学
 広島大学、九州大学

2.日本でのリーダー的な地位を築いて、全国に世界に発信してね大学
 (分野毎の優れた教育研究拠点やネットワークの形成を推進)

 筑波技術大学、東京医科歯科大学、東京外国語大学
 東京学芸大学、東京芸術大学、東京海洋大学
 お茶の水女子大学、電気通信大学、奈良女子大学
 九州工業大学、鹿屋体育大学、政策研究大学院大学
 総合研究大学院大学、北陸先端科学技術大学院大学
 奈良先端科学技術大学院大学

3.地方をリードして、どんどん活性化させてね大学
 (地域のニーズに応える人材育成・研究を推進)

 1,2のミッションに入らないその他の国立大学

飴と鞭

 それぞれのグループのどこに入るかは、それぞれの大学に任されていますが、そのミッションの到達によって飴と鞭が使い分けられます。

 ミッションの達成度が高い大学は、国に貢献しているとして、運営交付金という税金を原資とした補助金が飴として増額されます。ミッションの達成度の低い大学は、国への貢献度が低いとして鞭として運営交付金が減額されます。まあ、税金が原資ですから、無駄使いにならないようにする事に越したことはありませんが。

 運営交付金は毎年一定額が公平に減額されています。これは、国立大学法人になった2003年の時点で、「将来は私立大学みたいに自己収入と補助金で運営してね」と言われているので、運営交付金の基幹は、将来的に私立大学の補助金レベルまで減額されるものと思われます。

 ただ、財務省の言うままにひたすら減額すると、倒産する国立大学が続出します。そこで、国際的な研究開発の競争で戦っている大学や、地方の活性化に貢献している大学には国家プロジェクトとして別途交付金を手当する方法を考え出しました。

 その為に、税金から交付金を支出する事に意義があると認められる仕組みとして、上に挙げたグループに分類して、ミッションを定義して政策的に評価する事になったのです。

 しかし、ミッションがアバウトですよね。下のミッションは達成しやすいですけど、上のミッションを達成できる大学はかなり限られます。国立大学の序列化がこうして行われたのです。

実際交付金はどうなってる? 

 昨年度までの5か年の交付金の割合について、以下の発表記事の別紙3に記載されています。

因みに、ミッションの3が表では【重点支援①】、ミッションの2が【重点支援②】、ミッションの1が【重点支援③】にあたります。公式文書では、序列を逆にしているあたりが芸が細かいですね。

 ミッションの分類の大学を見ると、ほんとに1,2で大丈夫なの?っていう大学もあります。実際常に減額されている背伸びし過ぎている大学もあるにはありますが、東京大学も近年は減額されていたりして、意外にも公正な評価がされているという感じもします。

 問題なのは、3のミッションですら常に減額され続けている大学です。別に病院収入などが見込める医学部や、外部資金を集めやすい理工系学部のある大学などはまだましですが、学費収入以外には収入が見込めない教育系単科大学などはかなり絶望的な数字です。

交付金以外の収入は?

 収入に占める交付金の割合の減少を補う為に、医学部のある大学は病院収入に頼ります。理系学部のある大学を中心に、寄付金という名目で大学の研究に民間からの投資が行われていて、直接民間と大学が共同研究する事も増えています。また、日本学術振興会や科学技術振興機構などの、税金を間接的に大学へ研究資金として配分する組織が複数存在していて、個人やグループの研究内容を評価して、その研究に資金を配分しています。用途が限られますが収入としては重要な部分です。

 国際的な研究競争をしているミッションの大学では、以上の収入のおかげで直接の税金である交付金の収入は半分以下に減少していて、実質は私立大学への補助金と同率の収入割合に近づいています。それに対して、学費以外の収入を多く望めない大学もあり、収入面での、大学間の格差がどんどん広がっています。

どーなっていくの国立大学?

 無理をして上のミッションに入った大学は、このまま減額が続くとミッションの変更を迫られる可能性もあります。

 また、下のミッションでも減額が続く大学は、大学の存立自体の問題に発展する可能性もあります。単科大学であれば近隣の総合大学との合併が現実味を帯び、元々総合大学である所は、他の経営状態の良い総合大学の法人の傘下に入るのが現実的な解決先かなと思います。

 実際、それほど厳しくない岐阜大学でも名古屋大学の傘下に入りました。一応、便宜的に新たに国立大学法人を設置して、その傘下に名古屋大学と岐阜大学が入るという手法を使っています。

国立大学に未来はあるか?

 実際に、地方の国立大学がそのまま存立するには厳しい時代に突入していると思います。国立時代の後半から予算や人員の削減で疲弊していた所に、いきなりの国立大学法人化で民営化され、基礎的研究の分野は壊滅的です。

 ミッションにより、地方国立大学は応用研究を主体にする必要に迫られており。今後地方国立大学から、ノーベル賞級の基礎的研究をする研究者は出てこないと思われます。選択と集中は、現在の国の財政から理解は出来ますが、大規模な総合大学でしか基礎研究が行われない状況は、結果的に未知の発明や発見の機会を失して、長期的な国力の低下に繋がっていくでしょう。

 国際的評価でも、一部の大学を除いて多くの大学が低下している事から、国立大学の未来は一部の大学だけが生き残るいびつな形になっていくでしょう。国立大学の衰退は、日本の教育研究の能力を徐々に蝕んでいく危険なサインだと思います。




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