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『た子の足跡日記』ー有料老人ホームにてー クロックスのサンダルが何故あんなに人気なのか分からない。 軽量で履きやすくて値段もリーズナブル。色も色々でお洒落だ。 私も、流行に負けて買って試してみたことがある。 でも私には合わなかった。 何もない平坦な床にさえ突っ掛かって転びそうになってしまうのだ。 私の歩き方の問題なのかもしれないが。 入浴のためにちゃんとゴムのサンダルが用意されているのに、それでも殆どのスタッフが個々に買い求めて履いているのがクロックスのサンダルだ。 「こ
『た子の足跡日記』ー有料老人ホームにてー キミさんが言うには、柿畑さんは何でも話を聞いてくれるのだと言う。 「あなた、悩み事があったら何でもカキバタさんに相談するといいわよ。 別に答えが返ってくる訳じゃ無いけど、すっきりするから」 と、言うので私は、 「どうやったら柿畑さんに会えますか?」 と、質問してみた。 キミさんは、 「カキバタさんよ」 とだけ言った。 怪しい。 私はキミさんがその柿畑さんに電話とかで話を聞いて貰っているお友達か、下手したら変な宗教みたいなものかも
『た子の足跡日記』ー有料老人ホームにてー 介護業界に入って昔の歌をいくつか覚えた。 カラオケはレクリエーションの定番だからね。 ランコさんはとっても陽気なおばあちゃんだ。 シルバーカーを押している。 片足が悪いからシルバーカーを押して一歩前に出ては、もう一方の足を引きずるように前に進む。 歌が大好きでいつも楽しそうに歌を歌っている。 その歌い方には特徴がある。 強弱があって、へんなところで突然ボリュームアップする。 例えば『リンゴの唄』 ”♪リンゴは何にも いわないけ
『た子の足跡日記』ー有料老人ホームにてー! トメさん百歳、小さいおばあちゃん。 居室には孫や曾孫から届いた手紙や写真が沢山飾ってある。 トメさんから広がる家族が、とっても温かく感じてうらやましい。 トメさんにはトメさんそっくりな娘さんが三人いて、娘さん達はとても仲が良い。 週に一回は二人、または三人で面会に来ている。 娘さん達が面会に来ると居室からはいつも 「ガハハハ・・ガハハアハハ・・」と、楽しそうな笑い声が聞こえて来る。 確かにトメさんは可愛くて居るだけで和むけれ
『たこの足跡日記』ー有料老人ホームにてー ミツエさんは電動車椅子に乗っている。 正義感が強く、社会的に弱い立場に立って色々な活動をして来た。 その経験を生かして、施設の内外に何か不具合は無いかと見回りに余念がない。 「今、カーテンを調べているの」 と、他人様の居室に遠慮なしに入って行って、レールは曲がっていないか?留め金はちゃんと付いているか?等々をチェック。 チェックはするだけで、だからどうって訳でもない。 床にきしみがないかチェック。 床にきしみがなくても、ある
『た子の足跡日記』ー有料老人ホームにてー 老人ホームでの楽しいエピソードを綴っています。 マツさんは写真を撮られるのが大嫌いだ。 理由は知らない。 大抵の方は「写真撮りますよ~」と言うと、にっこり笑ってくださるのだが、マツさんは逆に怒ってしまう。 なのでマツさんには「写真撮りますよ~」とは言わない。 「マツさん、ちょっとこっち向いてくださ~い」と言って振り向いたところをササッと撮るのが精一杯。 それでもカメラを見ると「止めて~」と言って怒ってしまう。 元々マツさん
『た子の足跡日記』ー有料老人ホームにてー とってもおちゃめなおじいちゃんがいた。 『とんがりコーン』というお菓子が大好きでよく食べていた。 【明太マヨ】【バター醤油】など、色々な味があることを教えてくれた。 『とんがりコーン』を食べるとき、わざわざ人差し指にはめていた。 昔そんなCMを見たような気がする。 ある時『とんがりコーン』がベットの下に4,5個転がっていた。 最初は落としたのかと思い(あら、勿体ない)と、拾って捨てた。 次の日も同じようように落ちていたので(
『た子の足跡日記』ー有料老人ホームにてー ミワコさんは朝ご飯を口にするなり開口一番 「今日もまずいな~」 と、お隣のお友達に言う。 お隣さんは 「そうだな~」 と、相槌を打つ。 こうして和やかに朝食が始まるのである。 『不味いな~』と言いながら、美味しそうに食べて、必ず完食。 私はそのギャップが面白くて好きだった。 ミワコさんの家族がある日あんパンを差し入れに持ってやって来た。 小さな丸いあんパンが5個一袋になっている。 ミワコさんはその一袋を家族の前でいっぺんに
『た子の足跡日記』ー有料老人ホームにてー キヨシさんは戦時中、腸の病気で大変苦しい思いをされたそうだ。 たまたま掛かった医者が有能だったため、奇跡的に一命を取り留めた。 その命の恩人である医者にその時こう言われたそうだ。 『何でも温かい物を食べなさい!』 なので『何でも温かい物を食べる』を頑なに守り通している。 これが功を奏したのか、キヨシさんは100歳を超えている。 そして現在では温かい物を通り越して熱い物になっている。 食事は全て食べる直前に何でもかんでもレン
『た子の足跡日記』ー有料老人ホームにてー タロウさんは森のくまさんみたいな大男だ。 車椅子に乗って自操しているのだが、車椅子はおもちゃみたいに見える。 いつもお腹を空かせている。 「何か食べるものちょうだいな」 と、手を差し出してくる。 慣れるとそれは挨拶みたいなもので、差し出された手にグーを乗せて 「はい、空気!」 と、渡してやるとニヤリと笑い、そのまま何処かに消えて行くのが常である。 そんなタロウさんの毎日の日課は、施設内をうろちょろして何か口に入るものを探すことで
『た子の足跡日記』ー有料老人ホームにてー サトさんは、目の前の他人のことを「おめえさん」と呼ぶ。 「おめえさん達はえらいなあ。こんな婆さんの世話をしてくれて」 と、いつもスタッフを労ってくれる。 サトさんの趣味は凄い。 道端に落ちている石や棒切れを拾って来たり、その辺に生えている草を取って来てはオブジェを作っている。 箱庭みたいにして並べたり、マジックで何か描いて並べてみたりしている。 散歩から帰って来て、にこにこしている時は大抵シルバーカーの中やポケットに拾った物を