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名調査員の足元

『たこの足跡日記』ー有料老人ホームにてー


ミツエさんは電動車椅子に乗っている。

正義感が強く、社会的に弱い立場に立って色々な活動をして来た。
その経験を生かして、施設の内外に何か不具合は無いかと見回りに余念がない。

「今、カーテンを調べているの」
と、他人様の居室に遠慮なしに入って行って、レールは曲がっていないか?留め金はちゃんと付いているか?等々をチェック。

チェックはするだけで、だからどうって訳でもない。

床にきしみがないかチェック。
床にきしみがなくても、あるような気がするところをチェック。
なんでもこの道(廊下)は、神社へ続いているらしいのだ。

車椅子をカチャカチャ操作して、狭い所に強引に入って行き、そこに一体何があるのか、何がしたいのか分からないが、とにかくチェック。

または、そこに入れるか、入り込んで出られるのかチェック。
そして出られない時は職員を呼ぶ。
「ミツエさん、そんな所に入り込んだら危ないですよ。
それに壁に傷がついちゃいますよ」
と、注意するが、それは無視。
壁に傷はOKなのか?と、いつも疑問に思う。

散歩と偽り外出。
側溝にひびが入っていないか等、細かいことに気を遣いながら、カチャカチャ電動車椅子を操作して、砂利道をどんどん進む。
私は、車椅子の方が心配になる。


そんなミツエさんから
「ねえ、ちょっと見てくれる?」
と、逆に調査の依頼が来た。

ほらみたことか、カチャカチャカチャカチャ乱暴に車椅子を動かされているから、車椅子の調子が悪くなっちゃたんじゃないの?

「ほら、ほら、ここ、ここ、私の足元早く見て」

「はい、足元がどうかしましたか?」

「ほら、ここにエビがいるでしょ」

「えっ!海老ですか?」

「そう、エビ、ここにエビが居ると思うんだけど、早く見てくださる?」

一応ズボンの裾をパタパタさせてチェックする。

「エビなんて、居ないみたいですよ・・・」


「あら、そう」

ミツエさんは電動車椅子を器用にカチャカチャ動かして、以外にもあっさり去って行った。




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