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驚異のあんパン効果

『た子の足跡日記』ー有料老人ホームにてー

ミワコさんは朝ご飯を口にするなり開口一番
「今日もまずいな~」
と、お隣のお友達に言う。

お隣さんは
「そうだな~」
と、相槌を打つ。

こうして和やかに朝食が始まるのである。

『不味いな~』と言いながら、美味しそうに食べて、必ず完食。

私はそのギャップが面白くて好きだった。

ミワコさんの家族がある日あんパンを差し入れに持ってやって来た。
小さな丸いあんパンが5個一袋になっている。
ミワコさんはその一袋を家族の前でいっぺんに平らげてしまった。

そして言うには
「あんパンはうまいな~」

元々パンは好きだったらしいがこんなに好きだとは家族も今まで気づかなかったらしい。
たまたまこの日はお腹が空いていて何を食べても「上手いな~」と言ったかもしれない。
とにかくこれに気を良くした家族は、毎回面会時にあんパンを差し入れてくれるようになった。

さすがにいっぺんに一袋全部食べてしまうのは良くないという事で、スタッフが預り、おやつに少しずつ出すことにした。

ミワコさんはそのパンを食べては
「あんパンはうまいな~」
を連呼していた。

ある朝、ミワコさんは朝ご飯を食べて開口一番

「今日もうまいな~」

と、言った。

あら、今何と言いましたか?私は耳を疑った。
「今日もまずいな~」じゃないの?

あんパンを食べて、「うまいな、うまいな」と言い続けた結果、「まずいな」を忘れてしまったのではないかと推測する。

ええ~寂しいな。
私の好きな『今日もまずいな~』はもう聞けないのかとおもうと非常に残念で仕方ない。

「今日もうまいな~」

お隣のお友達は
「そうだな~」
と、相変わらずの相槌を打っていた。

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