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わかりあえるという幻想

日常で感じる不思議な現象

「なぜ、あの人は何度言ってもわかってくれないんだろう?」

「伝えたはずなのに、なんで伝わらないんだろう?」

これまで、こんな体験をしたことはなかったでしょうか?

なかなか相手に伝わらないとき、私達はイライラしたりストレスを感じることがあります。

しかし、そもそも『私たちはわかりあえないことが分かっている』と言われたら、みなさんはどう思われるでしょうか?

そんなことあるはずない!と思う人もいるかもしれませんが、実は最新の研究で、『私達はそもそもわかりあえない』ことがわかっているのです。

美容院でのある出来事

例えば、みなさんは美容院に行って、思ったよりも髪を短く切られた経験はなかったでしょうか? 私自身も以前「短めにお願いします」と言って、終わってみたら想像以上に短くて驚いたことがありました。

これは私にとっての「短さ」は、相手にとっての「短さ」と同じだろうと思っていたから起きた出来事になります。

私にとっての短さは「2センチ切る」ことかもしれませんが、相手にとっては「4センチ」を意味しているかもしれません。

私たちは人それぞれ違う環境や、体験をしてきているので、自分にとっての「短さ」と相手にとっての「短さ」が、同じになること自体が奇跡に近いのです。

シマウマの実験からわかる真実

これをもっと分かりやすくするために、シマウマの写真を見てみてください。

シマウマの縞は、白地に黒いシマか、黒字に白いシマのどちらですか?と聞かれたら、皆さんはどう思われますか?

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ここで面白いのは、人によって全く見え方が異なるということです。ちなみに、日本人にこの質問をすると、その多くが「白地に黒」と答えます。しかし、黒色人種など肌の色が黒系の人にこの質問をすると、「黒字に白」という人が多くなります。

信じられないかもしれませんが、私たちの肌の色で答えが変わることが分かっていて、肌が白系のほとんどの人は、白地がベースだと答えるのです。

脳のバイアスが世界の見え方に影響する

このことを専門用語で、脳のバイアス(バイアスとはもともと「偏っている考え方」という意味で、偏見などを生み出す根源になります)と言われますが、私たちは肌の色によって、見える世界が違うのです。

ちなみに、タイに在住している日本人のサーファーの方で日焼けで肌が真っ黒な方がいらっしゃったのですが、奥様が彼にこの質問をしたところ、「黒字に白でしょ!」と言われて、奥様が本当にビックリしていました(笑)

ですから、「白地に黒だ」と言っている人に、いくら「黒字に白だよ!」と言っても、暖簾に腕押しで、どんなに主張してもわかりあえることはありません。

うまくいく人達とそうでない人の違い

私たちは「当然相手もそう思ってるでしょ」という前提で、コミュニケーションすることがありますが、そもそも私たちはそれぞれ違う世界を見ているのです。

そして、「私たちはわかりあえる」という幻想を持っている人ほど、相手がわかってくれないことにイライラして、自分の意見を押し通そうとしたり、自分の正しさを主張したり、最終的には執着さえも生まれて、脳がストレスに感じます。

その結果、人間関係の問題が生まれてしまい、ひいては、幸福度まで下がってしまいます。

一方で、ビジネスやスポーツ、恋愛などあらゆる分野でうまくいく人達を見ていると「人はわかりあえない」という考え方をよく理解していることが分かります。

勉強した訳ではなく、これまでの経験として「人はわかりあえる」ということに執着しても、時間ばかりが過ぎストレスも多く、何の実りも得られなかったことを体験的に知っているからです。

相手に執着するよりも「人はわかりあえない」からこれ以上言ってもしょうがない、付き合い続けてもお互いにとってストレスになるから、別の形を探そうなど、より前向きな姿勢になりやすくなります。

そして、幸福度も上がり脳の状態もよくなるので、パフォーマンスが上がり、より素晴らしい成果を出しやすくなってしまうのです。

人によって共通点さえ変わって見える

もう一つ、脳のバイアスの例をご紹介したいと思います。
みなさんはバナナとパンダとサルの3つの中で、共通点があるのはどの2つだと思いますか?

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イラスト:福田玲子『なぜ、あなたの思っていることはなかなか相手に伝わらないのか?』より

おそらく多くの人は「サルとバナナ」と答えるかもしれません。しかし、実際に聞いてみると「サルとパンダ」と答える人も世の中にいるのです。

???と思われるかもしれませんが、この答えによって「関係性を求めるか?」「具体的なものを求めるのか?」という2つの脳のバイアス(考え方の偏り)のどちらを持っているかが分かります。

「サルとバナナ」と答えた人は、「関係性」を重視する人です。サルが食べるものはバナナなので、目には見えないつながりを大切にします。一方「サルとパンダ」と答える人は「目に見える具体的な特徴」を重視する人。サルとパンダは「動物」という具体的な共通点があるので、関係性よりも目に見えるものが優先的に情報として入ってきます。

どちらが正しい、ダメということはなく、どちらもその人にとってはそれが真実です。それぞれが見ている世界を表現しているだけですから、それぞれが正しいと言えるのです。

見えている世界が違うと、たまに意見が割れることもありますが、それぞれの視点があるからこそ、いろいろな問題に柔軟に対処できることもあります。生命の世界で多様性は生き残るために必須の力です。世界の見え方の多様性も、私達人間にとって大きな力になっていくことがあるのです。

わかりあえないから、わかりあおうする大切さ

私たちは「わかりあえる」という幻想にとらわれて、人間関係で悩むことがあるかもしれません。しかし、そもそも私たちは「わかりあえない」という真実を知ると心が楽になり、確実に人間関係のストレスが減っていくことがあります。

そして、わかりあえないからこそ、相手をわかろうとする思いやりにもつながることがあります。

わかりあえないことを生み出している脳のバイアスを今回2つ紹介しましたが、実はまだまだたくさんあります。詳しくは先月発売したばかりの『なぜ、あなたの思っていることはなかなか相手に伝わらないのか?』(アスコム)という書籍にも掲載させていただきましたので、ご参考になれば幸いです。

現在、バイアス関連の本が話題となっていますが、脳のバイアスの入門編としてもお役に立てれば嬉しいです。

(全国でもビジネスの話題書として取り上げていただき、発売から約1ヶ月で4刷の重版となりました!脳の可能性を多くの人達に知っていただけるように書いた本ですので、とても嬉しく思っています。大人から子どもまでイラストを見るだけで、自分の見ている世界が分かる本になっていますので、ご家族や恋人、アスリートから会社の同僚やチームまで、いろいろな方にお役に立てると嬉しいです。)

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