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せっかくのIT投資をムダにする「部門の壁」

このテキストは、2020年7月に発売の書籍『売上が上がるバックオフィス最適化マップ』(クロスメディア・パブリッシング)の「第1章」をnote用に編集したものです。

IT導入を進めるときに、大きく立ちはだかるのが「部門の壁」です。

経費精算システムを使用する営業部、そのデータを受け取る経理部、というように、1つのシステムを導入すると、複数部署をまたいで運用されるケースが多々あります。そして、部署Aでは導入が歓迎されるが、部署Bでは歓迎されず、部署Bの発言力の強い人の意見が通って使われなくなってしまう――といった形でシステム導入に失敗することがあるのです。

このような事態を回避するには、理屈としては前項と同じで、「現場の理解を得ること」、そして「現場を理解すること」が必要不可欠です。

大切なのは、運用プロセスの具体的なイメージです。ITの活用や運用に関して、外部の人材を利用しない場合、新しく導入したシステムの設定や使用方法のレクチャーを行うのは、情報システム部門(情シス)の方や、社内でITに詳しい方になります。

ITに慣れている人物が、自部署以外の現場のルールや考え方を理解しないまま、システムを導入しようとすると、反発を招くことが多々あります。設定・導入する側は、「サービスを導入すること」がゴールと考えがちですが、真のゴールは「現場で新システムが問題なく運用できるようになること」です。旧システムがどれだけ不便そうなものであっても、利用し続けている現場には、それなりの理屈があります。その理屈を意識して、現場に合ったシステムを選ぶ視点も求められるのです。

たとえば、導入を検討する勤怠管理システムCとDがあり、システムCのほうが多機能で、Dと費用も変わらないとします。情シスの目線では、システムCを導入しようと考えるのが一般的でしょう。しかし、実際に使用する労務担当の目線では、システムDのユーザー・インターフェースが旧システムと似ていて、「こちらのほうが使いやすそうで、導入に苦労しなさそうだ」と感じるかもしれません。そんなときは、システムDの導入が正解となることもあります。

また、システムCを導入するにしても、こうした点を踏まえ、「現状のシステムと使用感が似ているDというシステムもあるのですが、このCを使いこなせれば、できることが広がりますし、最終的には時間や労力の削減効果も大きいはずです。慣れるまでは苦労するかもしれませんが、私たちも細かくサポートするので、Cを導入させてもらえませんか?」などとしっかりと説明し、現場の方々と合意形成する意識が大切なのです。

また、そもそも論で言うと、多機能・高機能であることが正義とは限りません。ITに詳しい方は、「現場はどう運用するか」というイメージを持たずに、多機能であることをよしとする傾向があります。しかし、現場目線で見ると「絶対に使わない機能」もあるものです。せっかく十徳ナイフを買ったのに、結局、2つか3つの機能しか使わないこともあります。それなら、使う機能だけのツールのほうがコンパクトで便利に感じられる可能性もあるでしょう。

実際、私たちの事例でも、細かい設定ができるシステムの導入時に、機能を制限するような設定をすることがよくあります。絶対に使用しないタブやアイコンで画面を埋めるくらいなら、選択肢を減らすのも1つの手です。マウスの移動距離・クリック回数が減れば、その塵も積もるとそれなりの時間になります。

現場目線では、機能の少ないシステムのほうが、多機能のシステムよりも高機能と言える結果につながる場合もあります。スポーツマンの夫が、店頭で触ってみて、納得して購入したパワフルな掃除機は、専業主婦の妻から見ると、重くて疲れてしまうので使いにくい掃除機であることもあります。このような部門の壁、自部署との違いを意識してリサーチや根回しをすれば、現場の理解も得やすくなるでしょう。

詳細は、本書を読み進めていただければ幸いです。


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