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ツールドフランス2024 第16ステージ(GRUISSAN - NÎMES) 考察

月曜日の休息日を挟んで、ツールドフランス2024もいよいよ3週目に入りました。週末のレースが激しかったせいもあって火曜日の第16ステージが来るまでの間が長く感じてしまい、前のステージの話をすると「あーあんなことがあったね〜。えっ、2日前だったの?」のような感覚になっています。

ここくるまでも激しいレースが繰り広げられていましたが、今年のツールはこの3週目が一番ハードな週です。そしてこの第16ステージがスプリンターたちにチャンスがある最後のフラットレースになります。

どんな展開だったのか、見ていきましょう。

第16ステージはピレネー山脈から南フランスに舞台を移しました。GruissanのビーチからスタートしてNîmeに向かう188.6kmで、途中にスプリントポイントと4級の山岳があるコースでした。ピレネーと比べると南フランスは暑そうで、スタート時点で31℃で33℃まで上がる予報と言われていました。そして風が強いことが有名でエシュロンが発生するという話がありましたが、Vismaのワウト選手やLottoのドゥリー選手はスタート前のインタビューで、「そうなってくれると嬉しいけど、多分そこまでじゃないよ。」と言っていました。

この日はLottoのファンヒルス選手とJaycoのハーパー選手が新型コロナ感染でDNS。プロトンにも徐々に新型コロナが蔓延してきているので、今後のレースに影響を及ぼさないか心配です。

このステージのファーストアタックはGroupma-FDJのキュング選手で、それにTOTAL Energieのデュジャルダン選手が反応。プロトンは全く無反応せずに二人を行かせます。そしてデュジャルダン選手がキュング選手に追いついて、デュジャルダン選手がキュング選手の方を見て「一緒に行こうぜ!」のような視線を送るや否やキュング選手は道端に用足しに止まってしまい、デュジャルダン選手は一人取り残されてしまいました。この日も風が強く188kmもあるので、少人数の逃げには興味がなかったのでしょう。

プロトンも朗らかムードで、スプリントに持ち込みたいJaycoとAlpecin(この日もほとんどシルヴァン・ディディエ選手)がプロトンをゆるーくコントロールします。スプリンターチームは全てスプリント狙いになっているだろうし、総合のタイム差が開いたことで今後の山岳ステージは逃げ切りの可能性もあるため、逃げのチームは翌日以降のために温存しているのでしょう。北西・もしくは北北西の22km/hの向かい風または横風が吹いている状態なので、ここで力を使うよりは翌日以降の方が良さそうですね。そんなこともあり逃げもないので、プロトンはいつものようにギチギチに固まって進みます。

こんな日はレース以外のところにフォーカスが当たることが多く、今回はUNO-Xのコート選手の髭が青くなっているのに注目が集まっていました。コート選手が「今インスタのフォロワーが14万6000人だけど、20万人越えたら髭を青く染める。」と宣言したところ24時間で20万人を越えて、髭を青く染めることになったということでした。わずか24時間で6万4000人増えるなんて、ツールドフランスが世界中のファンから注目を集めている証拠ですね。

で、レースはJaycoとAlpecinが変わらずコントロール。ヨーロッパはもう夏休みなので、観光地の南フランスはとても人が多く、賑やかな雰囲気です。この日は最初の1時間の平均速度が37.9kmで、30℃以上の暑さを除けば今大会で一番平和なステージでした。

ちなみに今回のNîmeのフィニッシュは最近のツールドフランスでは2008年、2014年、2019、2021年の4回使われていて、そのうちの3回の優勝者が今回の大会にも出場しています。
2008 カヴェンディッシュ選手(当時Columbia)
2014 クリストフ選手(当時Katsusha)
2019 ユアン選手(当時Lotto)
2021 ポリッツ選手(当時BORA)
こう見るとカヴェンディッシュ選手とクリストフ選手はかなり長い間活躍しているということですね。改めて尊敬します。

そしてプロトンは96.1km地点のスプリントポイントに向かいます。このスプリントポイントでは先頭はIntermarcheとAlpecinのトレインが激しい位置の取り合いをして、その後ろの位置取りも激しく、今までにない混戦した状態のスプリントになりました。多くの選手に前に入られてしまったグリーンジャージのギルマイ選手はまともにスプリントできず4位通過。ギルマイ選手の前はCofidisコカール選手、Alpecinフィリップセン選手、TOTALチュルジス選手の順に通過。ポイント賞2位のフィリップセン選手はポイントを加算して、3位のコカール選手は4位以降の差を広げました。

そのスプリントのカウンターアタックでTOTAL Energieのガシニャ選手がアタック。単独で走り続けます。後続はAlpecinのシルヴァン・ディディエ選手が単独でひたすら牽引します。ここ最近のフラットステージでは常に引いている印象です。そして引いている時間がめちゃくちゃ長い。Alpecinは第12ステージで2名失って総勢6名になっているので、この動きはチームにとってかなり助かっていると思います。

ガシニャ選手のアタックはテレビ移りと敢闘賞狙いだろうと思っていましたが、フィニッシュ後のインタビューでやはり「95%スプリントになると思って、逃げ切れると思ってなかったけど、前で走ればテレビに映ってアピールできるし、自分の自信になる。」とチームスタッフ泣かせの発言をしていました。SNSではちょっとスプリントしてステージ優勝するよりも、逃げて長時間TVに映っていたほうが宣伝効果がある、なんて発言をしている人もいたという記事も見つけました。一人で逃げてるとチーム名が出るだけじゃなくてバイクやパーツ、ウェアやヘルメット、シューズもズームで映してもらえるし、特に地元フランスのチームは国営放送でいい時間の放送なので、良いアピールになりそうです。

123.6km地点からはJaycoが入ってプロトンは少しペースアップをして、本格的なコントロールタイムに入りました。プロトンはガシニャ選手を1分40秒くらいでキープします。

156.2km、残り35kmを過ぎるとプロトンはスプリントに向けてペースを上げ始めます。今回も主要チームが前を牛耳って横一列並走のままペースが上がっていきます。タイム差はすぐに詰まり始めます。

その際、UNO-Xのウェレンショルド選手がパンク。そのあとすぐに同じUNO-Xのクルセット選手が落車。UNO-Xにトラブルが多発します。しかもパンクで復帰しているウェレンショルド選手が落車したクルセット選手にぶつかりそうになったり、復帰したクルセット選手がチームカーの後ろで復帰しようとした際に、チームカーがロータリーの出口を間違えてウェレンショルド選手をサポートしていたチームカーにぶつかりそうになったりと、UNO-Xパニックになっていました。結果、何事もなくてよかったです。これも来期からの新しいバイクスポンサーを発表したからでしょうか。(絶対違う)

プロトンは残り25.2km地点で逃げていたガシニャ選手をキャッチ。そのままの勢いを維持してフィニッシュラインに向かっていきます。今回はGroupma-FDJが積極的に引いていたのですが、誰でスプリントをする気になったのか気になりました。でも無理な逃げに臨むよりはスプリントに加わって、少しでも前の順位でフィニッシュするほうが賞金がもらえたりするので何かとメリット大きいですからね。

しかしフランスの都市部はロータリーが多いですね。今回もフィニッシュまでに10個くらい通過していたと思います。その度にプロトンは二つに割れて、また戻っての繰り返し。少し位置を後ろに下げてしまうと隊列が崩れたり、風を受けてしまうので、チームの結束力と位置取りのセンスが問われます。

この日はヴィンゲゴー選手を含めたVismaはワウト選手のためにプロトンの先頭で位置取りをしていましたが、UAEのポガチャル選手はプロトンの塊の後ろ付近で自由に走っていました。このステージではポガチャル選手はスプリントをしなさそうです。

残り10kmを切って各チームが先頭の奪い合い。残り3kmでUNO-Xが先頭を取り、後ろにAlpecin。この日UNO-Xはかなり積極的に引いていました。そして1.5kmの地点でグリーンジャージのギルマイ選手が落車をしてしまいます。動画を見るとプロトンの左から右に位置を変えようとした際に落車したようです。

そしてUNO-Xの選手が先行して、その後ろのAlpecinのトレインがしっかり入り、ギース選手とヴァンデルプール選手が発射台になり、フィリップセン選手の抜群のタイミングで発射されてステージ優勝。ハイペースだったので、あそこでAlpecinが3人並んでいて、ヴァンデルプール選手にあの先行をされたらもう勝てませんね。この優勝でフィリップセン選手がTDF2024の3勝クラブに入部しました。序盤は勝てずに苦戦していましたが、ここに来て完璧なスプリントを取り戻しました。フィリップセン選手はオールランダー系なので、他のスプリンターが山で苦戦している中でも消耗が少ないと推測します。

またUNO-Xもずっと先頭にいていい動きをしていましたが、最終的にはAlpecinに経験と力でステージ優勝を持っていかれてしまいました。それでもクリストフ選手を3位に導いていて、このステージはUNO-Xが最初から最後まで話題をさらっていったのは間違いないです。

今回スプリントで頑張っているUNO-XやLottoは比較的年齢層が若いチームなので今回のツールではうまくいきませんでしたが、実践でたくさん経験したと思います。そのためのクリストフ選手であり、そのためのカンペナールツ選手でもあると思っています。引き続き今後のステージレースのスプリントでも注目していきたいです。

一方、落車してしまったギルマイ選手は、チームメイトに押されながらフィニッシュしまいたが、肘を2針縫った以外には問題ないということです。ただスプリントに絡めなかったので、ポイント賞2位のフィリップセン選手とのポイント差が32ポイントまで詰められてしまいました。この後はフラットステージはありませんが、中間スプリントポイントが全部で4箇所あります。そのうち2つは山の合間にあるので、レース展開にどう関係してくるか。ただギルマイ選手は少なからず落車の影響があると思うので、このステージでは中間、フィニッシュともフィリップセン選手に追い風が吹いたように思えるので、今後の動向に注目しましょう。

そしてリーダージャージのポガチャル選手は、落車の影響で救済措置が適用されるので、チームメイトのポリッツ選手とゆっくり帰ってきて、一緒にハンドルを投げて、翌日に向けた余裕を見せていました。(笑)

ということで、今大会でもっとも平和な日(クルセット選手とギルマイ選手を除く)がフィリップセン選手の優勝で終わりました。これから4日間は再び厳しい山岳コースが続きます。前にも書きましたが、総合でタイム差が開いたので、逃げ切りの展開もあり得る気がしています。これまで全て殲滅されてしまった逃げの選手たちにもチャンスが来ると予想しているので、個人総合争い、ステージ優勝争い、ポイント賞争いとまだまだツールは動いていくので、最後まで勝負の行方を見届けられたらと思います。

今回も読んでいただきありがとうございました!今後の記事の励みになりますので、記事を気に入ってくれた方は「スキ」や「記事をサポート」していただけると嬉しいです。他にもこのnoteに走りに関することやサイクリングに関することを書いているので、参考にして楽しんでいただけると幸いです。

それでは、ツールドフランスも追い込み期に来たので、今週はフルガスで残りのステージを乗り切りましょう!

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