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ツールドフランス2024 第19ステージ(Embrun - Isola 2000) 考察

各チームの思惑がいろんな形で交錯してレースを厳しくしましたが、最終的にはすべてが無に返されてしまうという・・・。真のチャンピオンを証明するためにお膳立てされたような展開と結果を見て、どうやって書き出していいかしばらく悩んでしまいました。

そんな第19ステージを振り返ってみましょう。

第19ステージは距離は144.6kmと短いですが、カテゴリー超級のCol de Varsとフランスの舗装路で行ける最高標高地点のCime de la Bonetteを上り、最後にカテゴリーは1級ですが平均勾配が7.1%と厳しいIsola2000の頂上にフィニッシュする今大会最難関のコースでした。

このステージではGroupma-FDJのキュング選手とIsrael Premier Techのステュアート選手がDNSでした。キュング選手は最終日の個人タイムトライアルを待たずに、オリンピックの個人タイムトライアルに向けての準備のためでしょう。確かにこの山岳2ステージを走るのと走らないのでは、その後のダメージがかなり違いそうです。

このステージでは、残り142km地点で決まった逃げにVismaの山岳アシストのヨルゲンセン選手とケルデルマン選手が乗ります。後のインタビューによるとこの動きはヴィンゲゴー選手が攻めた時に、前で待つことでサポートするための作戦だったそうです。この逃げにはこの2人を含めて23名の選手が乗りました。

逃げの23名
ラポルト、ヨルゲンセン、ケルデルマン(Visma)
ヴァンウィルダー(Soudal Quickstep)
ヒンドリー(Red Bull-BORA)
ポウレス(EF)
アブラハムセン、コート(UNO-X)
ハイグ(Bahrain)
マデュアス(Groupma-FDJ)
バルギル、オンリー(DSM)
C.ロドリゲス(Arkea)
プロドム(Decathlon Ag2r)
クヴィアトコフスキー(Ineos)
フォルモロ、ラスカノ(Movister)
ヴァンモエ(Lotto)
ユールヤンセン(Jayco)
コカール(Cofidis)
チュルジス、ブルノド(TOTAL Energie)

プロトンはUAEのソレル選手が引き、その後EFが続きます。EFはカラパス選手を先頭に入れて山岳ポイント、ステージ優勝を狙いたいため、55秒ほどまで開いたタイム差をUAEに変わって詰めていきます。どこかのステージもこの方法で逃げに乗っていたため、どうやらカラパス選手は逃げができてからチームで引いて、逃げとのタイム差を縮めてブリッジして逃げに乗るスタイルが好みのようですね。確かにこの方法だと無駄にアタックをする必要なく一回で逃げに乗れるので効率がいい、ですがチームはかなりいいペースで引かなければいけないのでなかなか大変です。ここもチーム力のなせる業ですね。もしくはただ乗り遅れやすいだけなのか。

残り123.6km地点のスプリントポイントはコカール選手が1着通過、チュルジス選手が2着通過でコカール選手がスプリント賞3位以降の差を広げ、チュルジス選手は5位のLottoドゥリー選手との差を広げました。ポイントを取ったコカール選手はお役御免でそのままプロトンに戻ります。プロトンはEFヒーリー選手が先頭を引き、タイム差を44秒まで縮めます。

ヒーリー選手の引きが終わると同じくS.イェーツ選手を逃げに入れたいJaycoが先頭を引いてタイム差を一気に20秒まで縮めます。タイム差が詰まるとプロトンからカラパス選手とIneosベルナル選手、DSMバルデ選手がアタックをして逃げグループを追います。しかしVismaが引く逃げグループが速いのでなかなか追いつきません。先頭からはラポルト選手など多くの選手がドロップしていきます。プロトンからは少し遅れてS.イェーツ選手もアタックして逃げグループを追います。

Vismaが主導する逃げグループ10名と、カラパス選手率いる追走8名はそれぞれ人数を減らしながら残り117.8km地点で一つになり、絞られた逃げグループは9名になっていました。

先頭9名
ヨルゲンセン・ケルデルマン(Visma)
ヴァンウィルダー(Soudal Quickstep)
ヒンドリー(Red Bull-BORA)
S.イェーツ(Jayco)
カラパス(EF)
オンリー(DSM)
C.ロドリゲス(Arkea)
プロドム(Decathlon Ag2r)

その頃にはUAEのシバコフ選手とソレル選手が引くプロトンもだいぶ小さくなっていました。するとポガチャル選手がアルメイダ選手と何やら相談してこれ以上ペースを上げる必要がないと判断したようで、アシストを一人下げてソレル選手のみの牽引になります。逃げグループの離れ方からあまり大きくは開かないと判断したのでしょう。ここから1分30秒くらいをキープされていたタイム差が開き始めます。

この日の最初に1時間の平均時速は36.1 km/h。この時点でDSMのイーコフ選手がリタイアになりました。ここまで来ただけに悔しいリタイアでしょう。

Col de Varsの頂上はカラパス選手が1位通過して着実に山岳ポイントを獲得していきます。先頭は9名のままダウンヒルに入りました。プロトンは3分31秒差で山頂を超えたので、だいぶプロトンのペースは落ち着きました。

逃げグループは下りでタイム差を4分に広げて次の超級カテゴリーのCima de la Bonetteに入ります。Cima de la Bonetteの麓で逃げグループのオンリー選手とヴァンウィルダー選手、プロドム選手が遅れて6名になります。この6名は、ここでプロトンとのタイム差を広げておきたかったと思うのですが、UAEのアシスト陣が非常に強く、ポリッツ選手が4分差をキープして、ポリッツ選手が引き終わった後のソレル選手とシバコフ選手がタイム差を縮めていきました。先頭の6名は山が強い選手たちにもかかわらず、この牽引をされてしまったら逃げも消耗させられてしまいます。この時のプロトンがいかに速かったかがわかります。この牽引でプロトンは19人まで絞られました。

ヴィンゲゴー選手は当初このCima de la Bonetteで攻めて、前に合流する作戦だったそうですが、あまりのペースの速さに攻撃することができなかったようです。そして作戦を逃げの2名のステージ優勝に切り替えたということでした。ヴィンゲゴー選手本人も3週目で体調が上がることを期待していましたが、短期で復帰した身体には今年の激しい展開のツールの3週目は厳しかったようです。

残り57km地点では、逃げグループ6名はプロトンとの差を3分35秒差で、カラパス選手を先頭にCima de la Bonetteの頂上を越えました。UAEは一時3分33秒くらいまでタイム差を詰めてから少し開かせたので、この後のIsola2000でペースを上げれば先頭は捉えられると読んでいたのでしょう。その後プロトンは3分40秒差で頂上を越えます。

逃げグループは、プロトンと4分差で16.1km上るIsola2000に入りました。ふもとですぐにC.ロドリゲス選手が遅れて先頭は5名に。残り13.7km地点でヒンドリー選手が遅れて、4人になったところでヨルゲンセン選手がアタック。他のメンバーはついていけず、ヨルゲンセン選手はステージ優勝を目指し独走に持ち込みました。後続はカラパス選手、ケルデルマン選手、S.イェーツ選手が前を追います。

そしてプロトンも3分43秒差でIsola2000に入り、UAEが入り口からペースアップを始めます。シバコフ選手を発射台にA.イェーツ選手がハイペースを維持。プロトンもどんどん人数を減らして残り11kmで7名にまで絞られます。

プロトン7名
ポガチャル、イェーツ、アルメイダ(UAE)
ヴィンゲゴー(Visma)
エヴェネプール、ランダ(Soudal Quickstep)
ジー(Israel Premier Tech)

先頭ではカラパス選手がアタックすると追走はバラバラになり、カラパス選手、イェーツ選手が単独で前を追う形になります。一時ヨルゲンセン選手とカラパス選手のタイム差が25秒くらいまで詰まりましたが、カラパス選手が少し失速して、S.イェーツ選手に追いつかれて2人で前を追いました。タイム差は38秒。

先頭が残り8.7kmを走っているところで2分40秒ほど離れたプロトンからポガチャル選手がアタックを開始。ヴィンゲゴー選手とエヴェネプール選手が反応するが、ついていくことができない。それにヴィンゲゴー選手は追走するエヴェネプール選手の後ろにつくので精一杯な様子。この動きからヴィンゲゴー選手は、総合を逆転する力がないのでエヴェネプール選手から離れないようにして、総合2位を堅守する動きに切り替えたということになります。時折エヴェネプール選手からも離れそうになるくらいなのでかなり厳しい。

エヴェネプール選手だけだとペースが上がらず、後ろからアルメイダ選手とランダ選手、そしてケルデルマン選手が追いついて、ランダ選手がエヴェネプール選手を引いてタイム差をポガチャル選手との差を詰めていきます。

先頭のヨルゲンセン選手が残り6.4kmのところでS.イェーツ選手がアタック。カラパス選手はついていけません。まるで第18ステージのリベンジですね。ここもかなりハイレベルな戦いです。その間、ポガチャル選手は着々とタイム差を詰めていき、あっという間に追走のS.イェーツ選手たちを30秒圏内にとらえます。タイム差の詰まり方が同じ人間とは思えない、別の乗りものに乗っているような速さです。プロトンではエヴェネプール選手が再びアタック。ヴィンゲゴー選手だけがついていきます。

そしてポガチャル選手は凄まじい勢いでカラパス選手とS.イェーツ選手を抜き去り、ヨルゲンセン選手に迫ります。抜かれた2人もクライマーとしては1級ですが、レベルが全然違います。そしてポガチャル選手は残り2km付近でヨルゲンセン選手をキャッチ。そのままアタックをして置き去りにしました。このハイペースで走ってきてさらにアタックができる余裕があるのかーと別次元の力を見せるポガチャル選手に開いた口が塞がらない状態でした。

そしてポガチャル選手はそのままヨルゲンセン選手に21秒差をつけて、圧巻のステージ優勝。ステージ4勝目を挙げて、個人総合優勝をほぼ確定させました。ヨルゲンセン選手やS.イェーツ選手、カラパス選手などのトップ選手に4分差を与えながら全員抜きさってステージ優勝ってなかなか理解が追いつきませんでしたが、このくらい完膚なきまでコテンパンにして総合優勝することが、これまでのリベンジということなんでしょう。ポガチャル選手らしいスタイルですね。そしてIsola2000は合宿でも走っていて、アタックも計画通りだったということで、かなり自信があったようです。また第20ステージはタイム差があるから逃げ切りですね、とコメントしてしますが、知らぬまにまたアタックしているかも・・・。イエロージャージからの「ギフト」はあるのかないのかも見どころです。

2位は序盤から逃げてもう少しでステージ優勝が見えていたヨルゲンセン選手。ステージ優勝までは届きませんでしたが、ポガチャル選手が来るまでは完璧なレース運びでした。この経験が自信になって、今後のレースにも生きてくるんじゃないかと思います。そして3位がS.イェーツ選手、4位がカラパス選手でした。

カラパス選手はこのステージの頑張りで、山岳賞1位になりポルカドットジャージを手に入れました。もともと山岳ポイントを37ポイント持っていたカラパス選手は、最初に超級のCol de Varsを1位通過して20ポイント獲得。そして次の超級のCima de la Bonetteは山岳ポイントが特別に40ポイント獲得できるKOMで、そこも1位通過して40ポイント獲得。そして最後の1級のIsola2000を4位でフィニッシュして4ポイント獲得して合計101ポイントになりました。1級はトップでも10ポイントなので、Cima de la Bonetteを越えた時点でリーダーになっていたということですね。今まで逃げに乗って着実に稼いていたのが身を結びました。

最後の山岳の第20ステージは、2級1回、1級3回で、最高でも*35ポイントの獲得になります。第19ステージ終了後のポイントを見ると、2位で87ポイント持っているポガチャル選手しか逆転することができません。(ちなみに3位のヴィンゲゴー選手は59ポイント)ここにきてカラパス選手の山岳賞が濃厚になってきました。

*注 後から見たらTTにも2級が1回あったので、第20ステージと第21ステージで獲得できる合計は40ポイントでした。それでもポガチャル選手だけですね。カラパス選手のTTの目標はKOMまで全開ですね!

そして5位にエヴェネプール選手、6位にヴィンゲゴー選手がトップから1分42秒でフィニッシュしました。フィニッシュ後、ヴィンゲゴー選手が前に出れなかったエヴェネプール選手に握手を求めていました。その後ヴィンゲゴー選手は家族の元で号泣。レースが思うようにいかず、かなり悔しい結果だったということでしょう。怪我明けとはいえ総合優勝するためにツールに参加して、かなり精神的にも追い込んでいたんだと思います。そして元々予定していたステージで攻めることができずに守りの走りになってしまったことも影響しているのでしょう。この感じだと総合2位を維持するのがいっぱいだと思うので、第21ステージの個人タイムトライアルに不安が残ります。

逆にエヴェネプール選手は調子をあげていて、このステージでヴィンゲゴー選手が動けないのを見て、今後のステージでで攻めてくる可能性があります。ランダ選手も高いパフォーマンスを維持しているので、第20ステージではSoudal-Quickstepとして何か攻撃を仕掛けてタイム差を稼ぎ、第21ステージの個人タイムトライアルでタイムが稼げれば、この2ステージで2人のタイム差の2分は決して大きな差ではないです。総合2位争いが面白くなってきました。ここ2ステージでステージ優勝を狙ってきているVismaが、これにどう対応してくるか興味深いです。

あとこのステージではArkeaのデマール選手が制限時間に約7分間に合わず、タイムカットになってしまいました。各ステージでタイムカットになっている選手が出ている一方で、始めから残された選手全員で完走を目標に走っているアスタナとカヴェンディッシュ選手のタイムカットへのマネージメントは目を見張るものがあります。歴史的記録を作ったカヴェンディッシュが最後にシャンゼリゼを走れないのは残念ですが、ぜひニースのタイムトライアルで花道を飾って欲しいですね。

ということで、第19ステージもポガチャル選手の圧勝で幕を閉じました。総合逆転とステージ優勝の2重作戦をとったVismaの戦略をねじ伏せて、これまでやられてきた分のリベンジをした形になりました。Vismaもここまでやられると、総合2位を守ることや、第20ステージをどうするかについても戦略が変わってくると思います。ヴィンゲゴー選手をタイムトライアルに集中させたいけど、Soudal Quickstepも攻めてくるだろうし・・・悩ましい。またこの結果から来年のツールに向けたチーム編成も計画されていくんでしょう。ツール後に各チームが行う補強でどんなドリームチームが編成されるのか、今後の移籍情報も楽しみになってきます。

今回も読んでいただきありがとうございました!今後の記事の励みになりますので、記事を気に入ってくれた方は「スキ」や「記事をサポート」していただけると嬉しいです。他にもこのnoteに走りに関することやサイクリングに関することを書いているので、参考にして楽しんでいただけると幸いです。

第20ステージは逃げ切りステージ優勝になるのか、総合2位の行方は、山岳賞は守れるのかなどなど、まだ未確定な部分がたくさんあるのでエキサイティングなレースになりそうです!

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