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#10 機能の違いから考える、日印中のQR決済で求められるUXの違い🇯🇵🇮🇳🇨🇳

今回のnoteは、「QRを読み取って、自分で金額を打ち込んで支払う」際のユーザ体験について。

インドに住んでいて、お客さんがQRを読み取って支払いを完了したタイミングで、お店側の端末が「決済額の音声読み上げ」をする機能を持つプラットフォームが一般的だなと気づいた。
また、思い返してみると、中国もそうである。

一方で、日本の決済プラットフォーム(PayPayなど)はそのような機能を提供していないようだ。
以下で、読み上げ機能の有無がもたらすUXの違いと、日本にはそのような機能ない理由の考察を書いてみた。

【弊社紹介】
弊社(株式会社hoppin)はUXコンサルティング事業、および中国・インドのUXリサーチ事業を行う企業である。参考:会社サイト
後者について、具体的には、中国・インドの優れたUXを提供するサービスを、現地ユーザやサービス提供企業の役職者へのインタビュー調査を通して分析し、日本企業への示唆を出している。
また筆者の滝沢は上海に2回居住したことがあり、2023年現在はインドのバンガロールに居住している。参考:筆者執筆のYahoo!ニュース



サマリ

  • インドや中国の街のお店でQR決済をすると、支払い完了時に、自分の支払った額が店側の端末/スマホから読み上げられることがある。

  • 支払い金額を目視確認する時間が節約できるので、忙しい事業者にとってはありがたい機能だと思われるが、日本ではそのような機能は見かけない。日本のQR決済事業者(PayPayなど)では提供していないようだ。

  • インドや中国と比べると、日本ではそもそもQR決済の利用比率・利用規模がともに小さい。結果として音声読み上げ機能のニーズも小さく、日本のQR決済事業者が機能開発をする段階には至っていないではないか?

  • また、今後の「お客さん側のQR決済比率・利用規模」が上がったとしても、近代化されたオペレーションや音声読み上げを失礼と感じる文化的背景によって、音声読み上げ機能を便利と思う事業者の「比率」が小さいままの可能性も高い。

  • ないことが良い/悪いという話ではないが、日本では今後も広まらない可能性が高いように感じる。




インド・中国:決済額の読み上げ機能が使われている(ところもある)


インドや中国の街のお店(カジュアルなところ)でQR決済すると、支払い完了時に自分の支払った額が店側の端末/スマホから流れることがある。
支払い完了した瞬間に「50ルピー受け取りました!」と自動音声が流れるようなものだ。

以下は参考動画である。

こちら(お客さん側)も、忙しい店員さんにスマホの画面を一生懸命見せる必要がないので便利であるが、この機能の恩恵をより受けるのは、お客さん側というより忙しい小売業者の側だろう。
例えば、1人で屋台をやっており「調理と支払い対応とを同時並行でこなす必要がある」というような事業者などである。


バンガロールの個人商店に置かれているQRコード(筆者撮影)


忙しい時には、ユーザの決済額を目で確認する時間も短縮したいだろう。そのようなニーズに、決済プラットフォーム側が応えてるのだ。




日本:店員さんが目視で支払い額/完了を確認している


日本では、「QR決済完了後に、小売店側の端末がお客さんの決済(完了)額を読み上げる」ということは体験したことがない(おそらく)。

「ペイペイ!」の音声をはじめとして、「ユーザ側が支払ったということだけ」がわかる音声を「ユーザ側の端末が」発するものは一般的である。


ただ、PayPayやLINE Payなど主要なサービスを調べてみたものの、調べた限りでは「金額を店側の端末が読み上げる」ものはなさそうだ。

自分の体験上も、自分で金額を打ち込んでQR決済した後に、端末の支払い完了画面を見せることが一般的なように思う。


PayPayは金額を入力後に店員に見せることに最適化されたUI(参考リンク

特にPayPayの場合は、金額を入力した瞬間、お店の人が確認しやすいように画面が回転し天地が入れ替わるUIであり、目視が強い前提であることがUIからもわかる。
(厳密には、支払い完了後の完了確認より、金額打ち込み時点でのミスを防ぐことを目的としたUIである)




読み上げ機能が印中にあって日本にはないのは、QR決済市場自体が小さいから?


日本においても、ユーザが決済した額の音声読み上げ機能は、一部の忙しい小売店にとって「あったら良い機能」だと感じる。

また日本の決済プラットフォームが(インドはともかく)中国の決済プラットフォームをベンチマークしていないはずはない。
そのため、「そんな機能思いつきもしなかった」ということはなだろう。

…ということを考えると、日本の決済プラットフォームに音声読み上げ機能が実装されないのは、市場ニーズが少ないからだろうか。

バンガロールにて、道端のココナッツ屋さんにもQRコードが置かれている(筆者撮影)

つまり、そもそもインド・中国と比べると日本のQR決済の市場規模自体があまり大きくない(QR決済の利用割合も利用人数の絶対数も少ない)。




日本特有の理由も存在?


加えて、日本特有の(というか中国インドとは異なる)以下の2つの理由から、元々小さいQR決済市場の中での音声読み上げ機能のニーズがさらに小さ口なっているようにも思う。

  1. 日本の小売業のオペレーションは組織化/効率化されているため、「超忙しいからそういう機能を使ってまで時短したい」事業者の割合も少ない?(先述の「市場規模が小さい」の理由の一つでもあると言える)

  2. 機械が読み上げる決済額が他のお客さんに聞こえてしまうのは無礼では、というような考え方がある?
    →モノを買うお店のレジで店員さんが「xxxx円でございます」と言い、それが周辺の人に聞こえてしまうこと自体は比較的一般的だ。
    →ただ、「機械が大きな音で読み上げる」「空気を読んでボリュームを調整できない」という点にUXの致命的な悪さを感じられやすいのかもしれない。


また、市場規模の理由以外にも、音声読み上げという、目視に比べると不確かに思われる方法を、決済プラットフォーム側として推奨したくないという、ディフェンシブな考え方もあるのかもしれない。


上記に、機能の有無にみる、良いとされるUXの考え方について考察してみたが、上記はあくまで私の仮説である。日本の決済プラットフォーム事情に詳しい方のご意見や仮説などもぜひお伺いしたい。



お読みいただきありがとうございました!

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