戦争から愛がこぼれる「肉体の悪魔」

フランス文学の真髄に触れました。
どうかしてるくらいの心理描写が、間違いなく登場人物たちに命を吹き込んでます。
読んだあとちょっとした物思いに耽るのもフランス文学の魅力の一つかもしれません。

概要

第一次大戦下のフランスにおける15歳の「僕」と19歳人妻のマルトによる堕落物語

フランス文学らしさ

フランス文学は想像以上に人の内面を抉る傾向があります。

これはおそらくですが、フランス人の特徴として、陽気でありながら合理的、過激的でありながら保守的でもあるといったような二面性を確立しているのが根源にあると思います。
二面性には感情の振れ幅が大きくなる利点があり、また欠点として扱いきれない感情を生んでしまうことが挙げられます。

要するに、芸術の題材にするにはこれ以上ない国民性であると言えるでしょう。

他人事として言いますが、芸術的に生きる人を側から見ているほど楽しいことはありません。
他の誰かが喜んだり悲しんだりしてくれるのは、芸術の上であればこの上なく面白みがあります。

実はこの辺りは日本人とも通じるところがあるのではないか、と個人的には思っているのですが、どうなのでしょうか。
SNSでFacebookを使わずTwitterを使ってしまう国民性は、どちらかと言えばフランス寄りなのではないでしょうか。
逆に言えばフランスで最も使われているSNSがFacebookなのは、二面性の陰と陽でくっきり分かれている皮肉なのかもしれません。

ただこうして考えてみると、フランス文学が割と抵抗なく頭に入ってくるのは、既に日本社会で二面性を体験済みだったから、とも言える気がしてきました。

ただし気持ちの全ては分からない

あれだけ内面を抉ったにも関わらず、登場人物の全てを理解できたとは思えません。

そもそも主人公の呼び名が「僕」である時点で全てを理解するのは不可能です。

この話は一人称視点で進んでいくのですが、「僕」が何かしら感情が動かされたことについて、説明してくれるときとしてくれないときがあります。
そのせいで見えるものは見えすぎて、逆に見えないものは全くという読書体験になります。

ここのバランス感覚が本当に見事で、常に危うさを帯同させながら話を進めてしまえるのはもはや天才の所業です。

戦争から愛がこぼれる

この二人の関係性は「第一次世界大戦」というカオスの上に成り立っています。

マルトの夫が軍人でなければ「僕」が付け入る隙はありませんでした。
また第一次世界大戦という悲劇的な状況であったからこそ、周囲の人は不倫という悲劇を小さく見積もってしまっています。

結果行くところまで行った二人の関係性は、負けず劣らずのカオスで終幕しています。

今がそういう状況だから余計に思えることですが、戦争がいかに日常を激変させるのか、という事実を身に染みて感じます。

人間設計のしくじり

またこの二人は同時に幼すぎたこともあって、子供を作るという無責任な状況をもたらしました。

これに関して、まあ悪いは悪いですが、個人的にはちょっと納得がいかなかったので色々調べてみました。
というのも、個人的には感情に任せた行為は割と肯定派なので、それが悪い結果をもたらすのがどうにも不服だったというわけです。

それで調べたところによると、一般的にニキビが治まるのは25歳前後であって、その原因として自律神経の安定に伴いストレスが減ることが起因するそうです。
要するに、人は25歳になるまでは不安定な子供のままだということです。

ということは、25歳を迎えるまでは人は子供なのであって、その年齢に達する前に生殖機能をつけてしまった神様が悪い、という最終解答でよろしいでしょうか。

感想

やっぱり感情に任せて生きる人の人生は面白いですね。
憧れるわけではないですが、羨ましいと思う気持ちに嘘はつけないです。
そしてその芸術的な感情を繊細に描いたこの本が面白くないわけがありません。
訳者はこの本を「黒光りしているような小説」と表現していますが、個人的にはそれに血の味が混じっていたように思います。
子供と人妻の不倫の話、そこらへんのエロ本でありそうな大したことない話なのですが、その内面の切り取り方はどこにもない、唯一無二のものであると思います。

またこれは余談なのですが、三島由紀夫はラディゲを愛読書にしていたようです。
そこでふと思ったのですが、そういえば自分は三島由紀夫の本を一冊も読んだことがないのに気付きました。
三島由紀夫どころか川端康成も芥川龍之介も読んだことがないです。
海外文学にうつつを抜かしてる暇があったら先にまずこっちを読めよ、と思ってしまいました。
あまり詳しくはないですが、とりあえずで読むとしたら「金閣寺」か「潮騒」でいいのでしょうか。
日本を代表する作家さんなのでまず間違いないと思いますが、恐る恐るでこの辺りから触れてみたいと思います。

以上です。

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