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純喫茶で地元探し

今住んでいる街に引っ越してきたのは10年ほど前のこと。

駅の周りは住宅街で、住んでいる人は多いわりにロータリーも駅前の小さな商店街も寂れていて、引っ越してきてすぐにここは何もない街だと諦めた。
今は、駅から家までの道はさすがに慣れて、帰ってきたなという感覚はするけど、近所にスーパーやコンビニ以外にどんなお店があるか知らないし、高校時代から住み始めたこの場所に自分の地元という感覚はほぼない。

わたしのお気に入りのカフェは、最寄りから二駅行ったところにあると話したことがある。
今日は復職前最後の日。特別感は出したくないけど家にいるのも落ち着かないので、そのカフェに行こうと思った。

だけど今日は月曜日。
あのカフェは定休日だ。

どうしたものかと思いながら、なんとなく近所にカフェがないかネットで調べてみた。


最寄りの駅近くに素敵な純喫茶があったらしい。とても驚いた。
ザ・喫茶店というような、重厚感のある店構えとダークブラウンの木製の椅子やテーブル、いかにもタバコ臭そうな暗い店内の写真が載っていた。
少し緊張するけど、ここに行ってみることにした。

しかし、さらに調べてみるとどうやら、駅前の再開発の影響で、この店舗は取り壊されてしまったらしい。そのかわりに、すぐ近くにリニューアルでオープンしたという。
見つけた瞬間に、無くなっていることを知るなんて悲しかったが、店は引き継がれているらしいのでどんな感じか行ってみることにした。


お店は駅のすぐ近くにあったけど、わたしの家がある反対口だった。ふだんはこっち側に出ることすらない。
引っ越してきたばかりのころは、この寂れたロータリーのすぐ目の前に、これまた寂れたラブホテルがあってなんとなくウロウロ探索する気になれなかった。

今となってはそのホテルもなくなり、全体的に建物が減っていた。そんなことすらぜんぜん知らなかった。


お店の外観は、今時のカフェという感じだった。
あのレトロな雰囲気を見てからだと、ちょっと寂しく思った。リニューアルしたのは去年の冬頃らしい。もう少し早く知っていればあそこに行けたのにな。

中に入ってみても、日がさしていて明るく、タバコ臭いどころか喫煙スペースが設けられていて、最初に写真で見たイメージとはちがった。


でも、中身はきっと変わっていないのだろうと感じた。
それは、椅子やテーブル、食器は昔から使われているような味のある感じがしたし、きっと前の店舗で飾られていたのであろう看板が置かれていたから。
なにより、常連さんらしいお客さんがたくさんいたからだ。

わたしは昼前に入店したのだが、徐々にお客さんが増えていった。
「ママ」と呼ばれるわたしの母と同世代くらいの女性はみんなに挨拶して、いくつか会話を交わし、みんなよく笑っていた。
わたしも初めてだけど、明るく挨拶してくれたのでこんにちはー。と返事をした。
初めてで話しかけられるほどコミュ力はないけど、いつかわたしもママさんとおしゃべりしてみたい。


頼んだランチセットのチキンカツはチーズがたっぷり入っていて、ボリューミーだった。
家を出る前に、焼きおにぎりを食べてきたのを悔やんだ。もちろん完食したけど。みそ汁とごはんとポテトサラダが付いていて、家庭的な味がした。

食後のコーヒーは、サイフォンで淹れたもので柔らかく温かかった。ご飯もコーヒーも美味しかった。

お店の見た目は変わっても、変わらない接客と味にみんな虜になっているのだろう。

寂れた商店街に、みんなが集う賑やかなお店があった。
いや、寂れてるなんて言ってるわたしがこの街を知らなかっただけなのかも。

自分の住む街にこんな素敵な空間があったなんて、知らなかった。身近な場所に知らない景色が突然現れて、しかもずっと昔からそこにあったなんて不思議で、夢の中にいるみたいだった。
10年近く住んでいても注意して見なければ気づかないことはたくさんある。何もない街と諦めて探そうとしなかったことを反省する。

意外といい街じゃん。今さらながら愛着が湧いてきた。
そのうち、ここがわたしの地元だと言える日が来るのかな。

今度はデザートを食べに行きたいと思う。
そしてこれからももう少しこの街を歩き回ってみたい。


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