神を感じる古道で筑波山に登る
春の青春18きっぷで、つくばりんりんロードを走って以来、筑波山に登りたいと思うようになりました。
サイクリングの途中で寄り道した六所の滝と白滝。かつて、この滝にある神社をつなぐ、白滝道という古道があったそう。登るなら、この道がいい。
ただ、この白滝道、今はマイナーで山地図にも載っていません。そこで茨城在住の滝先輩・すずきさんに声をかけて、一緒に登ることになりました。
5月のとある週末、つくばエクスプレスのつくば駅で待ち合わせして、すずきさんの車で筑波山のふもとまで向かいます。
駐車場の名前になっている神郡(かんごおり)は、このあたりの地名です。由来はふたつあるそう。
地名にも歴史を感じます。
遠くからでもひと目で分かる、茨城県のランドマーク、筑波山。
険しさや孤高といった印象はなく、朗らかで親しみやすい山容です。平野のなかにドンッとあり、人の暮らしとつながっている感じ。
実際、筑波山は、山というよりレジャーランドのようです。
山腹までドライブコースがあり、ロープウェイやケーブルカーで気軽に登ることができる。登山道には多くの奇岩があり、見どころも多い。登りやすい百名山ということで人気もあり…なんとなく俗っぽい。
その俗っぽさが苦手で、遠くから眺めるのは好きだけど、別に登らなくてもいいかなぁ、と思っていました。俗まみれの私が何を言う、と我ながら思いますが。
でも、白滝道の存在を知って以来、ふもとから登ってみたくなりました。六所の滝や白滝の雰囲気が良かったことと、昔の人はどんなふうに筑波山を歩いていたのだろう、と思ったのです。
さぁ、ふたつの山頂を目指して歩きますよー!
…と、ここで突如、大仏さまが現れる。
六所大仏といって、個人が建てた大仏さまとか。田園のなかで、かなり異彩を放っています。
六所大仏を過ぎてまもなく、里と山の境目のようなところに、六所皇大神宮霊跡地(ろくしょこうだいじんぐうれいせきち)があります。
「跡地」なので社殿はありません。でも、どこかピンッとした空気を感じます。霊感ゼロの私が、柄にもないけど。
春にサイクリングで訪れたとき、充電いっぱいだったデジカメの電源が入らず、あれ? と思ったことがありました。今回は、すずきさんのカメラがそうなったとか。たまたまかもしれないけれど、不思議なことが起きても納得してしまう雰囲気があります。
白滝道は、ここから始まります。
筑波山は信仰の山。山そのものがご神域なら、この先は神様の領域となるのでしょうか。
昔の人は、畏敬の念を抱きつつ、足を踏み入れたのかもしれない。
…と勝手に想像します。
ここまで素人のいい加減な思い込みですが、ひとつ確かなことは、ここのトイレは丁寧に掃除されていて、本当にきれい。
トイレのお礼と登山の安全を祈願して、先へ進みます。
ところどころに手作りの道案内があります。
白滝道へ行く前に、六所の滝へご挨拶。
こぢんまりした滝ですが、雨続きだったので、しっとりとみすみずしい!
滑らかなでこぼこを流れる水の紋様が美しいです。
あとで調べたところ、六所皇大神宮霊跡地には磐座があるそうです。全然気付きませんでした。滝好きあるある、滝以外の情報に疎い。
六所の滝から踏み跡を辿り、白滝道に合流しました。
途中、何度か車道を横切って登山道を歩き、「筑波ふれあいの里」というキャンプ場を通り抜けると、又次沢渓谷です。白滝道から外れますが、水の音を聞くと、つい行ってしまう、滝好きあるある。
渓谷と呼ぶには、ささやかすぎる…。
それでも名前が付いているのは、地元に愛されている証拠と思います。なにより水の音を聞きながら歩けるのは嬉しい。
「筑波ふれあいの里」にも夫女ヶ石(ぶじょがいし)という巨岩があるようですが、こちらも目に留まらずスルー。そういえば案内が出ていたような記憶がうっすらと…。
そんな私が言うのもナンですが、筑波山は奇岩めぐりも見どころのひとつなので、岩をテーマに歩いても面白いかもしれません。
又次沢渓谷から白滝道に合流し、しばらく山道を歩くと舗装路に出ます。
矢印の方向に歩くと、まもなく白滝神社に到着。
神社に入ってすぐに白滝があります。
水量が少ないので、滝としての迫力に欠けますが、つるりと大きな岩がいい。森のなかにひっそりと、でも存在感があります。
かつて、ふもとから歩いて登る白滝道は人気で、大いに賑わったそう。でも山腹のつつじが丘まで車で行けるようになった頃から、ここを歩く人がすっかり減ってしまったとか。
大きな滝や渓谷がない筑波山ですが、この道は水を感じられて素敵なのにね。それに、ふもとから登るので、里と山のつながりを感じ、筑波山に抱(いだ)かれる感覚がありました。
山のない地域に暮らす私にとって、山は遠く離れた場所にあり、非日常です。でも実際はつながっているんだな、と腑に落ちる感じ。
昔の人々は、自分の住む世界から歩いて山へ登り、自然の創る造形を見て、神の存在を感じたのかな。神様は遠くにもいるし、暮らしとつながったところにもいる、そんなことも思ったのかな。
…などと想像するのは、岩の上に鎮座する社殿と、その前に根を張る大木のせいかしら。荘厳な気配が漂っていました。
六所からここまで、山地図に載っていないものの手作りの案内がありましたが、この先はありません。社殿の左側から踏み跡を目で追いつつ登っていきます。
そういえば春のサイクリングで会った方が「ここからの登りがキツい」と仰っていたっけ。…と考えつつ、この道は昔々歩いたことあるぞ、と思い出しました。
今から20年くらい前、実家の家族と筑波山へドライブしたときに、筑波スカイライン(当時。今はパープルラインと呼ぶそうです)で「白滝」と書かれた標識を見つけました。筑波山にも滝があるらしいよ、どれ行ってみるか、と車を停め、山の中に入ったもののヤブに覆われたけもの道。滝はどこだ? と家族でヤブを掻きわけて歩いたあの道。
いつのまにか「白滝」の標識はなくなり、ふもとから行くようになって、あの道はどこだったのだろう、とずっと考えていました。そうか、あれが白滝道だったのか。
長年の疑問が解けてスッキリすると同時に、当時、スカートとパンプス(ドライブだったので)で、なんの情報も持たず歩いた自分にびっくりです。
2本ほど車道を突っ切り、つつじヶ丘へ。
白滝道は、つつじヶ丘で終了となり、その先は一般的な登山コースになります。
つつじヶ丘は不思議なところで、謎のミニ遊園地があります。
子どもの頃から、この俗っぽさや寂れた感じが好きじゃありませんでした。しかし久しぶりに見て、切ないというか、愛おしいというか。
昭和は遠くなりにけり。
ここから、おたつ石コースと白雲橋コースをつないで女体山の山頂へ向かいます。
見頃は過ぎていましたが、ツツジがあちこちに咲いていました。
奇岩もたくさんあります。子どもの頃に遠足で歩いたときは「だから何だよ」と思っていました。雨が降っていて、うんざりしながら登ったせいかもしれない。でも今回は、自然の造形にも、それらに名前をつけて慕った昔の人々にも、心を動かされました。年を取ったのか、ふもとから登って気持ちが昂ったのか、どっちだろう。
見どころが多いコースですが、人も多い。白滝道では誰とも会わず、静かな筑波山が楽しめましたが、つつじヶ丘から先は賑やかでした。
賑やかなのはいいんだけどね。
ロープウェイで登って、下りは歩こう、という人も多いのかな。軽装の人が多くいました。
筑波山は岩場があって滑りやすく、山頂付近はそれなりに急なので、気軽な観光なら行きも帰りも文明の利器を使ったほうがいい。
…白滝道をパンプスで歩いた私が何を言う、ですが。
女体山の山頂に着きました。霞ヶ浦まで、気持ちよく見渡せます。
いったん御幸ヶ原(女体山と男体山の窪みのところ)に下りて、そのまま男体山へ。
男体山の山頂から、春にサイクリングした、りんりんロードがよく見える!
りんりんロードをサイクリングしたとき、筑波山のあちこちで桜が咲き、木々が芽吹き、山全体が笑っているように見えました。今回、登ってみて、滝や神社はもちろん、花や緑に何度も目を奪われました。
筑波山は、古来から人を惹きつける山なのでしょうね。人が集まるから俗っぽくもなるけれど、それだけ人が慕う何かがある。その一端を味わった気がします。
帰りは御幸ヶ原コースで下山します。
「つくばねの 峰より落つるみなの川 恋ぞつもりで 淵となりぬる」
小倉百人一首に収録されている陽成院の歌。その男女川(みなのがわ)の源流です。
流れはささやかなので、そこまで恋の淵は深くないだろうな、と思うのは野暮。
ケーブルカーに沿ってぐんぐん下山し、筑波山神社に到着です。
登山の無事を感謝して、神郡の駐車場まで、あともうひといき。
「日本の道百選」にも選ばれている、つくば道を歩きます。徳川三代将軍・家光の時代に筑波山の参詣道として開設されたもので、急な坂道に風情ある町並みが残されています。
つくば道をぐんぐん下りて、「そば心 ゐだ」という古民家のお蕎麦屋さんで、お疲れさまのお食事会。
個性的な店主に美味しい蕎麦の食べ方を指南してもらいながら、筑波山の締めをゆっくり味わいました。
筑波山を見ながら歩き、山に入り、振り返って、また眺める。筑波山という神域を楽しんだ一日でした。
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滝先輩すずきさんのHP「ぶらり滝めぐり」です。行き方が分かりやすく、滝めぐりの参考にしている人も多いと思います。(ただし玄人向けの滝が多いので、気安く参考にしませんように)
そして写真も素晴らしい。数々のコンテストで受賞されています。
今回の訪瀑記も書いてくださいました。すずきさん、ありがとうございました。またご一緒させてください。
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