見出し画像

全ビジネスマンに「ダイナミック・ケイパビリティ」が欠かせない理由

スタートアップ立ち上げ中、東工大修士1年の滝本です。
今回は、ダイナミック・ケイパビリティについて、
生みの親であるデイビット・ティース教授の論文から紐解いていこうと思います。

2004年のものですが、今なお、世界で最も注目されるコンセプトです。
本質的で残り続けている概念であり、
全ビジネスパーソンは知っておくべき概念です。NIKEやNetflixなど、外資系企業では実践されています。
概念を理解し、日々の業務の核の部分で生かすことで、大きく日本企業を変えていく鍵になるのではないかと考えます。

超難解な論文ですが、頑張って紐解いて書くので、
是非最後まで目を通していただけると嬉しいです。

ダイナミック・ケイパビリティとは?

そもそも日本語に訳すことが困難な概念ですが、Harvard Buisiness Reviewさんの訳で「変化対応的な自己変革能力」というものがしっくりくるでしょう。

つまり、環境の変化に対応するために企業が自己変革していく能力、という事です。
また、必要とあれば、他企業の資産や知識も巻き込んでオーケストラのように構成する能力でもあると述べられています。(例えが秀逸ですね)
さらに言い換えるとすると、「両利きの経営」が近い言葉だと思います。

複雑なようでそうでない、新しいようでの既にある概念も含んでいる、と少しわかりにくい部分があるのがダイナミック・ケイパビリティ論なんです。
だからこそ、理解する価値があると思います。

(この図のように深化と探索を両立するイメージ)

ダイナミックケイパビリティを図示

ダイナミック・ケイパビリティ:3つの軸

世界のビジネス環境は益々加速し、多様化している現代において、
世界で勝負する企業が持続的に優位性を獲得するためには、独自の技術、知識を持っていること以上のものが必要です。
筆者は、この鍵を握るものがダイナミックケイパビリティだと述べています。これを活用することで、独自の武器を継続的に創造、拡張、進化させていくことができるのです。

ダイナミック・ケイパビリティの重要な要素は3つ述べられています。

  1. 感知(sensing):機会や脅威を感知し形成する能力

  2. 捕捉(seizing):機会を捉える能力

  3. 脅威や変化の管理(transforming):企業の資産を強化、組み合わせなどをし、再構成する能力

出典:j's journal

経営者には、このようなマクロ的視点とこれからご説明するミクロ的視点の両方を持って、抽象と具体を何回も行ったり来たりすることが必要であり、企業の事業戦略や問題解決を行う際に、この視点を活用することでより持続的であるための意思決定ができると思います。

そして、会社員も例外ではありません。目指すべきは、起業家や経営者だけではなく、普遍的なこの概念を組織内で共有することが必要だと述べられています。

会社の全員がダイナミックケイパビリティを理解していると、問題が起きた時に、
「変革が必要なんじゃないですか?」などとより深い議論ができることで、組織が一丸となって、レジリエンスな組織ができると思います。
つまり、ビジネスパーソン全員が知っておくべき重要な概念なのです。

ダイナミックケイパビリティ:マクロとミクロの関係

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

1. 感知(sensing):機会や脅威を感知し形成する能力

感知とは?

変化のスピードが速く、世界的な競争が活発になっている現代では、既存の企業だけでなく、新たな企業にも市場へ参入する機会が開かれています。

この新たな機会や環境変化に伴う脅威(既存企業からしたら、新市場は脅威)を感知し、内部にいち早く伝達することが感知であり、持続可能な企業を作るためには必要です。

この感知が上手く行えておらず、失速してしまった企業の代表例を3つあげます。

GM:2013年倒産
DEC:1998年売却
IBM:1980〜90年代にメインフレーム事業では世界No.1であったが、PC事業に乗り遅れた

この企業らは、過去の成功へのバイアスにより、新規機会を感知することができなかった企業の例です。まさに、成功の罠に陥ってしまった企業と言えるでしょう。

感知のための仕組みとは?

人は、成功の罠にはまってしまうことがよくあります。
そこで、個人の能力だけに依存せず、経営層が関与する組織やシステムが必要です。
例えば、経営層と現場の人が定期的に集まる会議や、専門家を配置するなどです。もっと大きく経営戦略で考えると以下の4つになります。

・コアな部分の研究開発(R&D)活動を推進する
・顧客にニーズと市場の変化を認識する
・サプライヤーなど補完関係にある外部との連携を高める(オープンイノベーション)
・別の分野の視点や知見を取り入れる

このような仕組みを作ることで、環境に適応するための「感知」が企業に備わります。
それでは、次はseizing(捕捉)の説明に行きます。

2. 捕捉(seizing):機会を捉える能力

捕捉とは?

1の「感知」で機会を感知したら、それに対処する必要があります。
企業の場合、この対処方法は開発と商品やサービスを売る活動への投資
です。

しかし、成功した大企業の経営層は、先ほど書いた通り、イノベーション(新しいアイデア)を抑制する可能性があり、ビジネスを感じながらも投資をしないことがあります。
だから、投資判断スキルが非常に重要で、新しい領域に投資戦略を常に立てておくことが必要だと言われています。

これに対して、有名な経営学者であるチャンドラーは、成功した企業は「3つの柱戦略」を追求した企業であると主張しています。

(1)新技術への早期かつ大規模な投資
(2)製品固有のマーケティング、流通、購買ネットワークへの投資
(3)会社を機能させ、調整するために必要なマネージャーの採用と組織化

捕捉のための仕組みとは?

ティース教授は、機会を捕捉するための仕組みとして4つのものを提唱しています(先程のチャンドラーとはまた異なる意見です)

・ビジネスモデルの最適化
・企業の境界の明確化
・補完とプラットフォームの管理
・意思決定におけるバイアスを排除

これらについて詳しく述べます。

ビジネスモデルの最適化:
ビジネスモデルとは、企業がどのように収益を上げるかという計画です。これを時折見直し、必要に応じて改善することが大切です。
例えば、サウスウェスト航空は格安航空会社(LCC)というビジネスモデルを導入し、業界で新たな価値を生み出しました。

企業の境界の明確化:
企業がどこまで手を広げるか、またどの部分に特化するかをはっきりさせることが必要です。これにより、製品の開発から販売に至るまでのプロセスでの遅延や障壁を特定し、解消することができます。
これがうまくできると、いわゆる成功のジレンマを抜け出し、イノベーションから最大限の利益を享受することが可能となります。

補完とプラットフォームの管理:
企業は、大規模な生産を行ってコストを下げることで、競争相手に勝つことができます。
これは、自社のプラットフォーム上で他社の補完的な製品を利用することによって実現します。まさにオープンイノベーションをどう管理していくのかを議論すべきしょう。

意思決定のバイアスを排除:
最後に、意思決定の過程で偏見や誤りが生じることがあります。これを克服し、公正な意思決定を行うために、客観的なデータに基づいて判断し、意見を自由に交換できる環境を作ることが重要です。

これらの4つの要素をバランス良く取り入れ、適切に管理することが
「感知」をした後に社内に情報を浸透させ、変革への準備をする「捕捉」を行うことができるといわれています

3. 脅威や変化の管理(transforming):変革

さて、ついに最も重要な要素であるTransformingです。
新しい競争優位を確立するために、組織内外の既存の資源や組織を再編成し、変革する能力のことです。

まさに、この図の右側、探索の部分のことですね。
でも、この変革を行うためには、感知から捕捉をし、その基盤があるからこそ変革を行えるんです。
つまり、ダイナミックケイパビリティとは、全てのプロセスが繋がっており、組織全員が起業家精神を持つことが大事(ナレッジマネジメント)だとティース教授は言っています。

右側:変革

この変革の例を挙げるとすると

・産官学の連携プロジェクト
・自社の成長に必要な機能を持った会社の買収
・企業間連携

などです。
ただ、これらを実践したり、新しいナレッジやスキルを吸収するには、組織の基盤が必要なんです。
まさに、ここが「ダイナミック・ケイパビリティ」を学ぶべき理由と言えるでしょう。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

模範解答例はNIKE!

これまで、学術的な側面から説明してきましたが、
実例があった方がわかりやすいかと思い、「NIKE」を代表例としてあげます。

NIKEの対コロナ戦略

NIKEの対コロナ戦略がダイナミックケイパビリティを活用した模範解答です。さらっとご紹介します。

NIKEは「感知」のためにNIKEは自社で解決できない課題を買収によって解決している代表的な企業とも言えるでしょう。

NIKEが買収した企業

2018年に買収したZodiacが感知に大きな役割をもたらしています。
この市場動向調査のおかげかはわかりませんが、2019/8に需要予測と在庫最適化の機能を取り入れています。

そして、コロナの第一感染者が出たのが4ヶ月後の2019/12…

ナイキはいち早くパンデミックに起因する消費者行動の変化にサプライチェーンを適応させ、在庫を最適化。(これができるのが捕捉と変革能力がある証拠ですね)
デジタルサプライチェーンは大成功し、最大のライバルであったアディダスに大きく差をつけました。

NIKEとadidasの差

これらの一連の流れはまさに、
ダイナミックケイパビリティの教科書的実践だといえます。
外資系企業には学ぶべきことが多いことをひしひしと感じました。

終わりに

長くなりましたが、お読みいただいた方は、ありがとうございました。
今回述べた内容はあくまで私個人の見解ですので、「ここは違うんじゃない?」というご意見などあれば、コメントつけていただけたら嬉しいです。

日本の企業で、ダイナミックケイパビリティを実践できている企業はとても少なく、だからこそ伸びしろがあると思います。

市場を感知し、社内に情報を流通させ捕捉、そして、脅威や機会をManegingして変革していく。この一連の流れができる企業が、目まぐるしい早さで変化する現代において、持続可能な価値を保ち続ける方法だと私は考えます。

重ねて、最後まで読んでくださった方、ありがとうございました。他の投稿でも起業、アントレプレナーシップについて学んだことを発信していますので、ご覧ください!


お読みいただきありがとうございました!サポートは、起業資金として活用させていただきます!是非ともよろしくお願いいたします!