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【スポーツ心理学#9】金メダリストを生み出すコーチとそうでないコーチにはどんな違いがあるのか?

こんにちは。早川琢也です。

思いつきですが、読んで面白かった論文を紹介していこうと思います。覚書の意味も込めて、時々やっていこうと思っています。


今回読んだ論文はこちら。

Olympic coaching excellence: A quantitative study of psychological aspects of Olympic swimming coaches
オリンピックコーチングエクセレンス:オリンピック水泳コーチの心理的側面に関する量的研究

オリンピアンを扱う論文は、やっぱり目を引きますよね。多くのコーチの皆さんも、一流のコーチに必要な要素って気になると思います。

では、どんな研究だったか、どんなことが分かったのか、その上でこの論文の結果をどう扱えばいいのかについて紹介していきます。


どんな研究だったのか?

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・36人のオリンピック選手を指導した水泳のコーチを対象にした。コーチたちが教えた選手は総勢169人(うち90人は金メダリスト)。そのうち、一度でも金メダリストを育てた21人のコーチを世界トップのコーチ、残りの15人のコーチを世界レベルのコーチとして、2つのグループに分けた。


・ビッグファイブと呼ばれる性格(外向性、情緒安定、開放性、勤勉性、協調性)の診断、ネガティブな心理的側面の診断(マキアベリ主義、精神病質、ナルシズム)、感情知能(感情の認知、自分の感情のマネジメント、他者の感情のマネジメント、感情の使役)、について調査をした。この診断検査の上記の2つのグループで比較した。


分析の結果

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両グループのコーチの性格診断のスコアを比較した結果
・開放性、マキアベリ主義、ナルシズム、感情の認知、自分の感情のマネジメント、の項目でスコアに差があった。
・その他の項目では大きな差は見られなかった。



つまりどういう事か?(結果に対する考察)

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・世界トップのコーチたちは開放性が高かったことから、選手やコーチングスタッフと良好な関係を構築していたと考えられる。特に、信頼、尊重、感謝の気持ちが関係しているとされている。

・マキアベリ主義(どんな手を使ってでも結果を得ようとする考え方)が強いと、人間関係を悪くするリスクがある。世界トップのコーチたちはこのスコアが低かったことから、選手をコントロールしようとせず選手と信頼が構築出来ていた。

・世界トップのコーチたちはナルシズムのスコアが低かったことから、コーチとしてのエゴをコントロールして、選手のニーズを汲み取れていた。

・世界トップのコーチたちは感情の認知能力が高いことから、試合や練習中の選手の感情を理解することができた。

・世界トップのコーチたちは自身の感情のコントロールが上手いことから、プレッシャーのかかるオリンピックの舞台でも自分の感情を乱さずにコーチングができた。


この論文に対する個人的な考え

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まず、オリンピック選手を育てた水泳のコーチの性格的な傾向を調査したという研究のアイディアは面白いです。どんな性格面での傾向か分かれば、そこからコーチとして必要なことが見えてきます。


一方で、この内容を鵜呑みにしていいかと言うと、決してはそうは言えません。

まず、研究の考察部分の説明ですが、これらは過去の研究を参考に推論した物であり、実際に調査した水泳のコーチがやっていた事ではありません

あくまで、「この結果だから、こんな事が考えられるだろう」といった具合です。

あるグループにおける心理的な特徴に関する調査研究は、この点を頭に入れておく必要があります。


欲を言えば、もう少し被験者が多いと分析内容もより説得力を持ったかもしれません。しかし、統計処理の時に効果量を測定して有意差が意味のある違いだと説明していますので、特殊な対象(オリンピック選手を育てた水泳コーチは多くない)だと考えると今回の人数は落とし所かもしれません。


今後の研究として、
・コーチたちがどんな取り組みをしていたのか?
・その取り組みで選手たちがどのように成長したか?または心理面に変化を与えたのか?
・その取り組みは、競技レベルの高い選手だけでなく初心者や経験の浅い選手に有効なのか?

といった、この研究で明らかになっていない部分を明らかにする研究へ発展した時に、この研究の意義や価値は出てくると思います。

例えば、質問紙による調査した後に性格面に関係しそうな取り組みについてインタビューをすることで、実際に行っていた事を聞くことが出来ますが、この論文ではそのような記載はありませんでした。

この点について別の研究で検証出来たら、より効果のある具体的な取り組みも分かって、現場のコーチが使いやすい知見も得ることができます。


いずれにしても、オリンピックレベルのコーチに関する知見はなかなか得られませんし、そう言った意味でもこの研究の希少性や独自性は面白いと思いました。


早川琢也


参考文献

Cook, G. M., Fletcher, D., & Peyrebrune, M. (2021). Olympic coaching excellence: A quantitative study of psychological aspects of Olympic swimming coaches. Psychology of Sport and Exercise, 53, 101876.


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