[新型コロナウイルス影響インタビュー]第6回 ダイビングショップのオーナーの場合(後編)──政府には2月の段階で水際対策をちゃんとしてほしかった。新型コロナからの回復はダイビング業が一番遅れるだろうけど、この仕事が大好きだからあきらめない
友人知人に新型コロナウイルスの影響について聞く趣味インタビュー企画。第6回は石垣島のダイビングショップ「石垣潜水堂」のオーナーガイド・インストラクターの阿久津さん。後編の今回は、新コロ騒動が始まった2月から現在までの変遷と政府に言いたいこと、そして今後のプランについて語っていただきます。
(前編)からの続きです。
最初に新コロの恐怖を感じたのは春節
──新コロが流行してから今までの動きを教えてください。
最初にこれヤバいと危機感、恐怖感、不安感をおぼえたのは2月だね。中国の春節の時期。
──ああ~石垣島にはここ数年、しょっちゅう中国人が豪華客船に乗って爆買いしに来てたからね。
そうそう。それが春節で倍増するからさ。だからもう2月から不安と恐怖はずっと感じてた。それでうちらは2月の段階でマスクと消毒液を大量に買って食料品も多めに買ってた。2月に中国船が石垣島に入って来るだの来ないだのって騒いでたんだけど、結局は入って来なかったからよかったよ。
──もし入って来てたらと思うとゾッとするね。食料品が品薄になったりスーパーが激混みになったりは?
それはなかったと思うよ。もううちらは早い段階から買い物も配達に切り替えたからスーパー自体に行ってない。いつもマックスバリューで注文してる。ちなみに配達サービス始めてから最初に注文したのがうちらだったらしい(笑)。
──トイレットペーパーがなくなったりは?
なくなってないと思う。普通に買えてたから。
▲2015年7月。筆者と
──でも2月、3月は例年と同じくらいゲストが来て海に出てたんだけど、緊急事態宣言が出てから営業自粛中と。
そうそう。ただ、すごく気を遣ってはいたよ。常にマスク着用は当然で、仕事の時以外は自宅に引きこもってた。新コロで不穏な空気が漂ってたよ。でも3月下旬くらいから観光客が増えてきたような気がしたな。やっぱり都市部にいたらストレス溜まるからみんなこっちに来たがってたみたい。
でも緊急事態宣言が出ても神戸や埼玉は全然人出が減ってないというニュースを見た時は何やってんだよってちょっとムカついたよね。でも自粛要請と補償をセットにしないからこうなるとも思った。半端な規制で苦しんでいる飲食店や居酒屋さんのことを考えると他人事とは思えなかったよね。うちにも全く同じ状況だったから。
▲2020年3月。海の上ではダブルマスク
石垣島初の感染者
──県や市が観光客に石垣に来るなと呼びかけた時はどう思った? そうなると営業ができなくなるわけじゃん。
でもそれはしょうがないと思ったよ。特に石垣で感染者が出ちゃった以上はね(※4月13日、石垣島で初の新型コロナウイルス感染者が確認)
──だよね。石垣島自体小さい島だし、医療体制も脆弱だし、そもそも島だから逃げ場ないからもし感染爆発が起こったら終わりだよね。その辺の危機感も東京とは比べ物にならないよね。
そうそう。だから恐怖感と不安感がハンパなかったわけ。だから沖縄県も石垣市も島に来るなってしつこく言ってたんだよね。
──東京から具合が悪いのに石垣に行った女性がすごい叩かれてたけど、どう思った?
あれね。ふざけんなとは思ったよ。実はそのニュースが出る前にけっこう噂が出てて、どこどこの飲食店を保健所が消毒してるとか。単なる噂かなと思ってたんだけど本当でびっくりしたよ。
その後、新コロの流行を抑えるには2020年まで自粛しなきゃいけないってニュースが出た時は、「本当だったらダイビング業はもうダメじゃん。嘘であってほしい」って本気で思ったね。
で、ゴールデンウイークに入った頃にストレスがピークに達してさ。緊急事態宣言以降、海には出られないし、ほぼ引きこもってるからテイクアウトとか買い物にも行かないし、人ともほとんど会ってないから、もうほんとこの生活やだって思った。
──そりゃそうだよね。例年なら常連さんで毎日満員なのにね。
稼ぎ時なのに石垣市は観光客へ来島自粛を呼びかけてたし、東京便も全部運休になったからほんと観光客が全然いなかった。朝日新聞の記事でダイビング業者が嘆いてたけど、ほんとにその通りだと思ったよ。俺らみたいなダイビング業者はテレワークできないからね……。
──でも石垣市長は4月の段階で、GWは観光地閉鎖するから来るなって言ってたけど、結局GW中の5月1日~5月6日、石垣市内の宿泊予約者は1000人に上ったらしいね。
──沖縄県の緊急事態宣言は5月7日に解除されたよね。その後街の様子は?
だいぶ石垣島全体としては緩んでいるというか、みんな普通に町中を出歩いてるよ。飲食店も東京と同じくデリバリーやテイクアウトが増えてるけど、ぼちぼち営業再開し始めたという感じかな。でもまだ農家焼肉石垣島はやってないよ。
──そっか……あそこ安くてうまいから行きてえなあ。
▲農家焼肉石垣島の名物激ウマロース
▲2014年だから旧焼肉石垣島か
緊急事態宣言は解除されても以前厳しい状態
──緊急事態宣言の解除で八重山のダイビング業界はどうなの?
デニーさんはしばらくは県をまたいでの移動は自粛してって言ってるから、結局は解除されても同じだよね。それって沖縄県内でビジネスを回せってことでしょ? しかも石垣島は島内で回せってことだからそれ無理でしょって。飲食店ならまだいいけど、うちらは完全にアウトだから。
──そうだよね。メインは内地からのお客さんで島内のお客さんなんて滅多に潜りに来ないしね。じゃあダイビング屋も再開しない?
でも一応、八重山ダイビング協会自体は21日から段階的に再開してもいいとは言ってるんだよ。
八重山ダイビング協会が石垣市と協議の上策定した新型コロナウィルス完成防止対策ガイドライン→https://yda-diving.com/wp-content/uploads/2020/05/e17226e0bbb85de2ce80f11a387626b2.pdf
──石垣潜水堂も再開すんの?
いや、今の所再開の予定はない。そもそも予約が入ってないし、問い合わせが来ても全部断ってるからね。
──21日から再開しますって告知すれば予約入るんじゃないの?
どうかなあ。結局東京も大阪も緊急事態宣言が解除されてないでしょ? うちに来るほとんどのお客さんはその2つからだから、うちだけ再開してもほとんど来ないのよ。
──でも行きたいって人はいっぱいいるんじゃないの?
そうだけど沖縄県自体が観光客を受け入れる雰囲気になってないからね。それと今、内地から石垣に来るのって絶対勇気いるでしょ。見つかったらSNSで来るんじゃねえって叩かれちゃうんだよ? だからしばらくやらない。「いつ営業再開するんですか?」とか「6月から営業再開しないんですか?」という問い合わせは来てるんだけど、今のこの状況だとなんて答えていいかわからないから、「未定です」って返すしかない。
でも最近、海に出るダイビング屋もいるんだよ。しかも内地のお客さんを連れて。石垣在住のお客さんだったら様子見で始めるところあるけど、今いきなり内地のお客さんっていうのはフライングのような気がするんだけどね。
──内地から石垣に行ってる人いるんだ! びっくり。
数少ない飛行機に乗ってやってきてる。今来るのもすごい勇気いると思うんだけどね。ゴールデンウイークから本当に観光客見ないからね。「わ」ナンバーのレンタカーもほとんど見ないし。異常だよ。
▲2015年8月。この頃は阿久津さんの中でスパイダーマンのポーズが流行っていた
水面下で対立がくすぶってる
でもそれは例外中の例外で、緊急事態宣言が解除されてもやっぱりダイビング屋を含めて観光業はどこもすごく厳しい。だけどさっきも言ったけど、緊急事態宣言が解除されてぼちぼち営業を再開する業種も出てきた。だから今、石垣では観光業と非観光業との対立が目に見えないところでくすぶってるらしいんだよね。表面化はしてないけどね。
──美崎町(※石垣島随一の繁華街)ってどうなの?
最近行ってないからわかんない。集合型居酒屋はやってるらしい。
──阿久津さんの客ってほぼ昔から通ってる常連客だよね。最近Facebookに昔のゲストとの写真を上げてるけど、また常連客とワイワイ盛り上がりたいという思いは強い?
そりゃそうだよ。ダイビング後はほとんど毎回お客さんと呑みにいってたからね。ただそれもできなくなってるからね。八重山ダイビング協会からの要請で。コロナ用のチェックシートや、できるならお客さんは自力できてもらう、アルコールや次亜塩素酸を携帯して消毒をこまめにする、お客さんともにマスク着用、とかいろんな指針があるんだけど、その中に「夜はゲストには呑みに行かずコンビニで済ませてください」という項目がある。
──夜の食事、コンビニって……それじゃ石垣に行く楽しみの80%以上減だよ。
そうなんだよ。でもうちは随分前に八重山ダイビング協会から脱会してるんだけどね。加盟してるメリットないから。
▲ダイビング後、忙しいのによくゲストとの呑み会に付き合ってくれた阿久津さん。ゲストとしてもこれがダイビングと同じくらい楽しみだった
──八重山ダイビング協会から脱退してるんなら別に従う必要はないのでは?
そうなんだけど、やっぱりね、そういう指針って石垣市と一緒に作ってるわけだから無視するわけにはいかないのよ。それにおれもやっぱりお客さんがマスクしてないと嫌だしね。
──宿も大変だよね。
先日、石垣市長が6月からの観光回復プランを示したのね。その中で「宿は1週間以上滞在できる人のみ泊まれる」って言ってるんだけど、そんなやつどこにいるんだと。
──そうだよね。おれは石垣に行く時はだいたい2週間以上行ってたけどね(笑)。
たけぞうみたいな超ロングステイの変態客はめったにいないんだよ。
▲八丈島時代の2003年。ダイビングの後、よく温泉に連れて行ってくれた。末吉温泉 みはらしの湯にて
自分がダイビング屋ということを忘れそうになる
──今、困ってることや悩んでることは?
もちろん営業再開できないことと、いつ再開できるのか見通しが全く立たないことだよ。だってお手上げだからね。お客さんだって来る雰囲気にならないでしょう? これだけ自粛期間が長くなってくると、だんだん自分がダイビング屋ということを忘れてくるよ(苦笑)。
あと再開したいのは山々なんだけど、本当にしてもいいのかっていう不安もあるよね。4月にベルギー潜水医学会が「一度新型コロナに感染したダイバーは、回復したとしても、長期的な障害が残る可能性があり、潜水時の肺圧外傷のリスクが高くなる可能性がある」というリリースを発表したじゃん。
そんなこと言わると新コロ後のダイビング、恐ろしすぎるじゃん。何より新コロにかかったらダイバー生命を絶たれるかもしれないってのが一番の懸念だよね。
こういうの知ったらもう潜るのやめようと思う人も多いじゃん。だから、これってうちらダイビング屋にとってもヤバい。死活問題だよね。
──なるほどね。状況的に営業できるようになったとしても営業すること自体が…
恐いよね、まだね。だって感染したら一発アウトじゃん。
▲2015年。左端が筆者。この頃は4ヶ月で10キロ痩せて腹回りがすっきりしている。今はコロナ太りで見る影もない…つか早く石垣行きたい…
国は春節の時期にちゃんと水際対策をやるべきだった
──国や県に言いたいことは?
国に対して一番言いたいのは、中国の春節の時にちゃんと新コロの水際対策をやってほしかったってこと。あの時はマジで恐かった。それはいまだに思う。
──春節の時期は東京も増えるけど、石垣島の人の危機感とはレベルが違ったかも。水際対策だって、3月7日の段階でまだ「中国人入国社は指定場所で二週間待機し、国内の公共交通機関を使わないことを要請する」レベルで、中国全土からの入国を拒否したのは4月3日からだからね。遅いよね。
そうなんだよ。あと、さっき(前編参照)も話したけど、とにかく自粛しろって言うならちゃんと補償もしてほしいってこと。でもそれにも限界あるだろうとは思う。かといってお客さんが来ないとこっちが干上がっちゃうし。悩ましいところだよね。
石垣市に対しては、市のコロナ支援対策で、家賃を3ヶ月猶予してくれるっていう措置があったんだけど、申請するために、まだ緊急事態宣言が出てる最中に市役所やハローワークに行ってくれって言われてさ。この時期に濃厚接触させるなよと言いたかった。馬鹿げてるよね。
──やってることがちぐはぐだよね。
そうなんだよ。全部オンラインで済ませられるようにしてくれよと。なんでこの時期に行かなくちゃいけないんだよ。感染リスク高まるじゃんって。金融公庫で金を借りる時も、決死の覚悟で市役所に印鑑証明を取りに行ったよ。
──ほんといい加減印鑑証明とかやめてほしいよね。
あとイラッとしたのは、こないだ自動車税が来たこと。なんでこんな大変時期にしれっと送って来るんだよ。空気読めよ、ふざけんなよ、何が自動車税だよって。当然これも猶予の申請を出したけどね。
──あ~それおれの知り合いもキレてたな。補償や給付はクソ遅いのに税金の請求だけはめちゃ早いって。
アフターコロナのダイビング
▲阿久津さんが撮ってくれた私が魚を撮影しているとこ(2008年)
──新コロが落ち着いて営業再開になった後のダイビング業ってどうなると思う?
そもそも沖縄のダイビング業ってのはゲストが来て潜って宿泊してどこかで飲んでってのがワンセットの世界。3密の上に成り立っているレジャー。これって元に戻るのは至難の技だよなって思う。ぶっちゃけダイビング業だけの問題でないし。新しい様式のダイビング業ってどんなんだろね。難しい……。悩みの種は尽きない。
──確かにそうだよね……どれも密接につながってるからダイビング屋だけの問題じゃないもんね。
でも最近、ダイビング業全般の未来予想図を考えてみたんだ。
1.送迎無し各自自力での集合
2.ボートでサイドのテント張りはしない、もしくは密封空間を作らない(風通しよくする)
3.ボート上では2m以上間隔をあける(常にレギュで呼吸していればOK)
4.検温、血中酸素濃度測定は当たり前
5.ランチ飲み物マスクは持参
6.ログ付けは論外
7.一週間以上滞在出来る方のみ(石垣島)※島の宿泊施設が1週間以上の滞在者限定
8.島の飲食店は島民とそれ以外の客を分けるそうなので事実上ダイビング後のゲストと飲みは無し
って感じになるのかなと。
──あとさ、レギュレーターとかシュノーケルとか器材のレンタルも超濃厚接触になるじゃん。営業再開できてもマイ器材持ってる人しか受け付けない、みたいなことになるのかな? でも洗えば問題ないし、阿久津さんとこはレンタル器材の人、まずいないから関係ないか。
そうだね。今後器材はアルコールや次亜塩素水で消毒するらしいよ。おっしゃるとおり、うちは器材レンタルのリクエスト、ほぼ来ないので関係ないね。
回復が一番遅いのがダイビング業かも
あと、アフターコロナという意味では、今回の新コロで一番ダメージを受けてるのは飲食店って言われてるけど、実はうちらみたいなダイビング業が一番厳しいかもしれない。飲食店やパチンコみたいに直接感染する業態でもないし、メジャーな業種でもないから、その分、忘れられがちになっちゃう。
だから飲食店が復活するよりもダイビングはもっと後になると思う。ダイビング業界が通常に戻るのが一番長引きそう。
その上、うちは普通のダイビング屋よりもマニアックじゃない? まだシュノーケリングや体験ダイビングのお客さんは来るような気がするし、現に緊急事態宣言が出てる間もシュノーケリングの船を出した店もあったのね。でもうちはシュノーケリングも体験ダイビングもやらないから。
あとうちのお客さんって会社の社長とか製薬会社の人とか社会的立場のある人ばかりだから、世間が落ち着いても石垣に行くのはリスクが高い。もし新コロにかかったら言語道断ってバッシングされちゃうからね。だからうちはみんなが復活した後、最後の最後かな。
▲2015年、500本祝いをしていただきました。ザクも阿久津さん作。絵もうまいのだ ▼ボートの上でもランチタイムにお祝いしていただきました
──それまでいかにしてもちこたえるかだよね……。金融公庫の300万と持続化給付金の100万だけでどれくらいもちそうなの?
半年かなあ。半年なら細々とやればもつだろうけど、1年は間違いなくもたないね。借りた金は返さなきゃいけないからね。お客さんが来ないとお金を貯めることができないじゃん。それは他の業種も同じだろうけど、そのダメージがボディブローのようにじわじわと蓄積されて、飲食店よりも遅く効いてくるような気がする。飲食店は島内消費ができるからまだいいけどね。
──ダイビングは島内消費ができないからね。石垣市はダイビングショップが多いからこれから潰れるショップも出てくるかもね。
出てくると思うよ。ワクチンができるまで仕方ないかな。これでまた冬に新コロ流行がぶり返したら目も当てれないよね。
マジでそろそろ限界
──今後のプランは?
そんなもんないよ。こんな状況だと何のプランも立てられない。様子見だよね。同業者が営業再開したらするし。とりあえず前提となるのは東京と大阪の緊急事態宣言の解除。次は沖縄県の観光客受け入れについての指針。これが決まらないとどうにも動きようがないよ。ただこのままでは確実に潰れるから早く営業再開はしたいんだけどね。ほんとそろそろ限界だよ……。
──先が見えないってのが一番つらいよね。
そうなのよ。
──なんとか頑張ってください……。
頑張らないよ。頑張りようがないし(笑)。
──そうすよね……。
ただ、このダイビングガイドという仕事は大好きだから、石にかじりついてでも続けるつもりだよ。
──よかった~。マジでなんとか持ちこたえていただきたいです。再開したら久々に行きますので。
うん。待ってるよ。
▲2016年。嗚呼、早くまた石垣に行きたい……
【取材後記】
今回、阿久津さんの話をうかがい、やはり観光が主な産業の地域は他の地域とはまた違う難しい問題があるということを改めて感じました。一般生活では新コロ禍が落ち着き、大半の業種で営業が再開できても、旅行・観光・レジャー関連業が回復するのは一番最後だと思われます。政府・自治体にはここへの継続的な支援をする必要があるのではないでしょうか。
そして阿久津さんと話してて、石垣への重いがますます募りました。再開したらソッコーで行きますので、それまで何とか持ちこたえていただきたいと切に願います。
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