肩関節疾患に対する有効なアプローチについて

こんにちは。DNMJPコンプリーターの竹沢 侑也です。


前回の「肩関節疾患での痛みや機能は筋力や可動域に左右される?されない?」の記事はご覧になっていただけたでしょうか?

今回の記事は前回の続きのような内容になっておりますので、まだご覧になっていない方は先にそちらを読むことをお勧めいたします。


前回の記事で疑問が出てきました。

・結局のところ、肩の痛みをとる有効な方法はあるのか?ということ


肩峰下インピンジメント症候群の患者の痛みと機能を改善させるには神経認知的治療的運動と従来の治療的運動のどちらが良いか

※翻訳したまま載せていますが、神経認知的治療運動=認知運動療法として考えていきます。

可動域や筋力を重視するか、その人の感覚を重視するか という研究でしょうか。

肩峰下インピンジメント症候群(Neer stage I)および少なくとも3ヶ月続く痛みを伴う48人の患者を神経認知的治療的運動と従来の治療的運動のいずれかにランダムに割り当てられました。(1:1)

両方の治療は5週間にわたって週に3回、1時間のセッションで提供されました。
主要なアウトカム指標は、上肢の身体能力と症状を評価するためのQuick-DASH質問票:上肢障害評価法(痛みや日常生活動作の主観的評価)の短縮形でした。

他にも、安静時および運動中の疼痛評価のための視覚的アナログ尺度。参加者の満足度を推定するためのリッカートスコア(参加者の満足度)も測定しています。

治療の終了時とフォローアップ時に両方の治療グループは、従来の治療運動の影響を受けなかった安静時の視覚的アナログ尺度を除いて、ベースライン値と比較してすべての結果測定値の改善を経験しました。
すべてのアウトカム指標について、時間の経過に伴う変化は、従来の治療的運動グループと比較して、神経認知的治療的運動グループの方が大きかった。治療に対する満足度は、神経認知療法の運動グループの参加者の方が高かった。

神経認知リハビリテーションは肩インピンジメント症候群の患者の痛みを軽減し、機能を改善するのに効果的であり、少なくとも24週間は効果が維持されます。
Neurocognitive therapeutic exercise improves pain and function in patients with shoulder impingement syndrome

従来の治療的運動も効果はあるけど、患者の感覚を大切にする認知運動療法の方が痛みや日常生活の機能改善には効果的であり、満足度も高いといった報告です。また再発の予防にも効果がありそうです。

※認知運動療法の基本

・注意の集中
認知運動療法では、対象者が自己の体内や外部世界から得られる特定の情報を識別する能力を再獲得することによってはじめて運動機能の回復がおこるとしており、治療中における対象者の注意を集中させることが特に重要である。

・閉眼での訓練
治療中は閉眼し、意図的に視覚的情報を遮断するこ とで体性感覚(触覚・圧覚・運動覚)へ意識を向けやすくする。

・ 物体との関わり
認知運動療法の特徴は,治療場面において多くの治療器具(道具)を使用することである。

・動作や行為を強要しない
基本的にセラピストは対象者に動きを促すような指示を与えることはせず,「運動は知覚の探索」ということから、与えられた認知課題を解決しようとする段階に て対象者の随意的な運動(筋収縮)を得る。
認知運動療法の紹介.糸数 昌史.Rigakuryoho Kagaku 22(2): 297–300, 2007. Submitted Nov. 14, 2006.

DNMでは閉眼の指示(目を瞑るかはその人に任せます)や道具を使うことはしませんが、患者の感覚を重視する点や動作や行為を強要しない点は共通しています。

患者様の感覚を大切にすることで、不快感を与えない→防御性収縮を避けることも出来ます。

感覚を大切にせず、可動域や筋力の改善をセラピスト主体で行うことで可動域の改善は起きるかもしれませんが痛みに対してはあまり有効な方法とは言えない可能性があります。

患者の感覚を大切にすることに効果があるのはわかりましたが、

一つ疑問に思ったのは、エクササイズによって効果の差はあるのか?ということです。

以下の報告を載せます。

◆肩峰下インピンジメント(SIS)における肩甲骨安定化運動トレーニングの効果

肩峰下インピンジメント症候群の参加者の3次元肩甲骨運動学、障害、および痛みに対する2つの異なる運動プログラムの効果を調査することが目的です。

SISと診断され、肩甲骨のジスキネジアも示した参加者。
参加者は2つの異なる運動グループにランダム化されました
(1)運動連鎖アプローチに基づく追加の肩甲骨安定化運動による肩甲帯のストレッチと強化(介入群)
(2)肩甲帯のストレッチと強化運動のみ(対照群)

12週間行い6週間目と12週間目で3次元肩甲骨運動学、自己申告による肩の痛みおよび障害を評価しました。
対照群と介入群の間で、6週間のトレーニング後の肩甲骨外旋と後傾、および12週間のトレーニング後の外旋、後傾、上方回旋において有意差が観察されました。
すべてのグループが、自己申告による痛みと障害のスコアの改善を示しましたがグループ間に有意差はありませんでした。
Effects of Scapular Stabilization Exercise Training on Scapular Kinematics, Disability, and Pain in Subacromial Impingement.

肩甲骨の安定化トレーニングを追加すると肩甲骨の動きは良くなりました。
痛みや日常生活動作での機能も改善はしましたが、グループ間に差はないとの報告です。

肩峰下滑液包炎ではありますが以下の報告もあります。

◆肩峰下滑液包炎の同種の個人における手動理学療法の効果

明確に定義された外因性肩峰下滑液包炎を持つ個人を各グループにランダム化した。
1)上胸椎(他動的なモビライゼーション)
2)後肩(他動的なモビライゼーション、ストレッチング、マッサージ)
3)同種グループにおけるアクティブコントロール群
の介入の効果を比較。
治療期間は9回の治療からなる6週間とその後6週間自宅でのセルフケア1日1回の計12週間。
評価は(1)能動的な胸部屈曲/伸展可動域(2)受動的な肩関節の内旋(3)痛みの評価(4)肩の痛みと機能障害指数(記載はありませんでしたがSPADIのようなものかと思います)が含まれます。
データはベースラインで、6週間および12週間で分析されました。
肩の痛みと機能障害指数のスコアは、治療開始から6か月後に電子メールで調査されました。

20人の参加者が各グループで治療を完了しました。グループ間で差異は確認されませんでした。対象を絞った在宅運動を伴う上胸部(グループ1)および後部肩(グループ2)の介入は、試験終了後12週間および6か月のアクティブコントロール(グループ3)と比較して、疼痛を有意に減少させ、機能スコアを増加させ、後部肩の範囲を増加させました。
Effect of manual physiotherapy in homogeneous individuals with subacromial shoulder impingement: A randomized controlled trial

6週目と12週目の評価ではグループ間での差異は確認されなかったが、
試験終了後12週間および6か月ではグループ1.2と比較するとアクティブコントロールより改善したという報告です。


試験終了直後ではグループ間での差が無かったが、
アクティブコントロール群より介入群の方が長期的に見て効果があるのは、プラセボや専門家による介入といった安心感による鎮痛が考えられます。


他にもいろいろな報告を見ましたが今のところ介入内容によっての差がないといった意見が多いようです。


しかし以下のような報告もあります。

◆肩峰下インピンジメント症候群患者の肩の可動性、痛み、および機能障害に対する修正された後部肩のストレッチ運動の効果

後部肩のストレッチ運動(PSSE)は、後部肩の緊張(PST)を減らすことを目的としています。従来のPSSEは肩峰下の衝突の増加につながる可能性があります。位置変更は、肩甲骨および肩甲上腕関節の回転の不適切な制御を最小限に抑えるために提案されています。

肩峰下インピンジメント症候群(SIS)と肩の内旋非対称性を伴う合計67人の症候性患者をランダムに3つのグループに割り当てました。
1.修正クロスボディストレッチ(MCS)
2.修正スリーパーストレッチ(MSS)
3.対照群(モダリティ、可動域[ROM]、筋力トレーニングのみで構成され、PSSEは含まれない治療プログラム)を4週間実施。
痛み、PST、肩の回旋ROM、および機能障害が評価されました。

結果はすべてのグループで、痛み、PST、肩の回旋ROM、機能、および障害が改善されました。
MCSおよびMSSグループは、活動性の痛み、内旋ROM、機能、および障害に関して、対照グループと比較してより良い結果を示しました。
MCS、MSSでのストレッチンググループ間に有意差はありませんでした。

1、2、3のすべての治療は、SIS患者の痛み、肩の可動性、機能、および障害を改善しました。
ただし、治療プログラムに加えて変更されたPSSEは、活動による痛み、内旋ROM、および機能障害の改善において、治療プログラムのみ(PSSEなし)よりも優れていました。さらに、ストレッチは臨床的に重要な改善をもたらしました。
Effects of Modified Posterior Shoulder Stretching Exercises on Shoulder Mobility, Pain, and Dysfunction in Patients With Subacromial Impingement Syndrome.

実施内容は従来のクロスボディストレッチ、スリーパーストレッチをなるべく負担のない肢位に修正して行っています。

どのアプローチでも痛みや可動域、機能障害に対する改善に効果があったが、可動域練習や筋力トレーニングのみよりも、修正された肩後面のストレッチングを行ったほうが改善に効果的といった内容です。

従来のPSSEとの比較がないため断言はできませんが、肩の後面の緊張が軽減する上に負担のない位置で保持することで不快な感覚が減り改善に繋がったことが考えられます。


これらを踏まえると結論づけるのは難しいですが

今の段階では肩関節に関しては様々なエクササイズによる効果の差はあまり大きくないが、感覚を重視するような介入に効果がありそう

となります。


DNMJPのTwitterでもしつこいぐらい言っている

「優しさ」

「礼儀や立ち振る舞い」

などがなぜ大切なのかわかったと思います。

礼儀が悪かったり雑に介入してしまうと、患者は不安に思ってしまいます。

セラピストが威圧的だとそもそも「痛い」と言いづらいです。

もし「痛くない」と言っていたとしてももしかしたら遠慮していたり、
「このくらいなら痛みじゃないかな?」と思って痛くないと言っている方もいるかと思います。

信頼関係を築くために優しさや礼儀が大切になります。


新人のセラピストの方にとって肩関節疾患はかなり難易度が高いように感じるかもしれません。

おそらく凹むことは少なくないかと思います。

確かに肩関節の解剖や機能解剖学を勉強することは大切です。

しかしそれ以前にもっと簡単で機能解剖学を考慮するよりも効果的かもしれない方法があるということを覚えておいてください。

優しく、丁寧に、患者の思い(痛い、だるいなどの感覚)を全て聞き入れること。

これらを大切にしながら自分が今行っている介入をもう一度行ってみるといいかもしれません。

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