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キャリアプランの誤解

しばらく前からキャリアプランという言葉に違和感を感じていた。そもそもキャリアプランってどういう定義なんだろう?ということで検索をしてみた。

キャリアプランとは、仕事や働き方の将来像(キャリアビジョン)を実現するために作成する、具体的な行動計画のことを指します。将来像をかなえるために必要なスキルや経験を洗い出し、逆算して計画を立てると、いつまでに何をすべきかが見えてきます。

マイナビ転職

キャリアプランとは、自らが描く将来的な理想像を実現させるための行動計画のこと

カオナビ人材用語集

キャリアプランとは、自分が今後どのような経歴を積み上げていくかを考える中長期の行動計画のことです。まず、仕事や働き方など自分の将来の理想像をはっきりさせておく必要があります。そこから逆算して、必要な経験・知識やスキルを把握し、具体的な行動にまで落とし込んでいく作業までがセットです。キャリアプランは、転職や独立などを含めたキャリア全体の指針にもなります。

ラフールサーベイ

ついでの政府機関がどう定義しているかを見てみると、厚生労働省がこれ。

キャリア・プランとは3年後、5年後、10年後、さらに生涯といったスパンで仕事に関する目標を設定し、そこに至るにはどのようなキャリアを積み上げていくかを考えた計画のことです。転職はこのキャリア・プランに沿ったものであるべきです

厚生労働省・ジョブカード制度

さて、共通項として出てくるのが「将来像を設定し、逆算して行動する」ということでしょうか。いやいや、そんなことってそもそも可能なのだろうか。僕が個人として最も違和感を感じるのは「将来像」という言葉。その「将来像」が絶対不動なものとして設定可能であることが、キャリアプランという考え方の前提にあるような気がしてならないのである。

内閣府によると、ものすごくシンプルにまず平均寿命はどんどん伸びている。僕が生まれた1971年には男性の平均寿命は70歳くらいで、自分が大人になった1991年でも75歳くらいだった。さて、その時に「将来像」というと75歳くらいで天寿を全うすることを前提に考えることになる。ところが自分が70歳になる2040年くらいにはさらに伸びて82-83歳まで活きる想定になっている。厳密にいうと平均寿命より平均余命を考えるべきなのかもしれないが、要するに前提とする人生の長さがまずどんどん変わってきている。

平均寿命の推移と将来推計

あるいは結婚というライフイベントも変化してきている。楽天保険が厚労省のデータを元に女性の初婚年齢の分布の変化を示すグラフを作っていた。つまり、これに基づけば、2000年くらいに生まれた人は、自分が25-27歳くらいで結婚する可能性が高いと思っておけば良かったけど、いざ成人してみると初婚が35歳を過ぎるかもしれないわけだ。

女性の初婚年齢

必然的に出産年齢は上がり、子供も1人だけかもしれない。仕事と家庭のバランスの考え方もガラガラと音を立てて変わっていくことになる。

世界に目を広げてみよう。STARTUPDBの平成30年間の世界時価総額ランキングの変化は、世界が激変していることを物語っている。大学出た頃は日本企業で終身雇用で生涯安泰だぜ、と思っていたら、50歳になって世界を牛耳っているのはIT系企業であり、中国の企業になっている。自分が就職して磨いてきたその業界の専門能力が30年経ったら全く役に立たないものになることもある、ということだ。

平成元年と平成31年の世界時価総額ランキング

日本企業が中国に買収された例も数多くある。M&Aオンラインに次のようなリストがあった。日本でずっと生活できると思っていたら、中国に生活拠点を移さないといけなくなる人も出てくるかもしれない。となると子供の教育拠点も変えないといけなくなるかもしれない。本間ゴルフのバックオフィスメンバーは香港移住を求められたのではないか?あるいは日本人は退職し、中国人中心になっているのかもしれない。

技術的変化も激しいものがあるのはAIの進展によって職業そのものが消滅するものもあるというのは昨今よく言われている話出る。リクルートワークス研究所の坂本貴志の研究によりAIに代替されやすい職種がリストアップされている。その中に公認会計士や税理士という難関資格取得者も含まれている。「財務、会計、経理」は、自分の主たる職業領域だけに技術進歩を日々実感するし、電子帳簿保存法も毎年のように改定されることを踏まえ如実に実感する。

代替されやすい職と代替されにくい職

先述の時価総額ランキングの変化は、ドルベースなので円の弱さを反映している面もある。ウェルスナビのサイトに下記のようなデータがあった。要は世界に投資をしましょうと、日本企業だけに投資していると危ないですよ、ということを示している。日本経済自体が活力を失いつつあり、世界のマーケットから置いていかれているかを示している。この20年で会社どころか国そのものが沈没していっている可能性もある。30歳の僕の将来像はこれだ!と思っても、50歳になってビックリ!なんてことになるわけだ。

日本と世界の経済成長

さて、世界には人生が全く変わってしまった人もいる。2011年のシリアにおける反体制デモは、その後10年経っても収束しない内戦へとつながり、660万人(UNHCR)もの難民を生み出し、多くの人の人生を変えてしまっている。このAFPのサイトではその変貌ぶりを象徴するような写真が掲載されている。遠い国の話として片付ける日本人がほとんどかもしれないが、我々だって阪神・淡路大震災や東日本大震災を経験し、さらには南シナ海、台湾海峡、北朝鮮と、政治的には不穏な動きを抱えている。気候変動という全地球的な課題もある。

文部科学省のサイトを見ると高校生向けの教材に次のようなものがあった。

「将来の夢」を問われた時、「大人になったら、どのような人生を歩みたいか」ということを漠然と思い描いていたのではないだろうか。将来どのような人生を送りたいか、自分の生き方を思い描き構想する時、何に価値を見いだし、どのようなことを実現して生きていくのかということを、意識的に考えていくことになる。そのためには、まず自分自身を知り、自分の潜在的な能力を見いだすことから始まる。そして、思い描いた人生を送るためには、具体的な計画が必要となってくる。このように、自分自身を見つめ、自分のリソース(資源)を見いだし、自分の生き方を問い直し,将来を見通し自分の人生を考え続けること、それがライフプランニングである

(文部科学省・『高校生のライフプランニング』)

ここでも「思い描いた人生を送る」ことができるような書き方をしている。残念だけれど、そんなことはほぼほぼ不可能なのだ。ただ、最後に書かれている「自分自身を見つめ、自分のリソース(資源)を見いだし、自分の生き方を問い直し,将来を見通し自分の人生を考え続けること」というのはその通りだと思った。

未来は固定的ではない。未来は見通せない。見通せないからこそ、見通す努力をし、さて今日はどうしようか?と考える。僕らができることはそういう苦闘をくり返すことだけではないだろうか。

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