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女の子は誰だってお姫様になれる◇嫌われ松子の一生(2006)

お姫様なんか別に興味ないというなら、かわいい奥さんでもいい、肝っ玉母ちゃんでもいい、ロック歌手でもいい、バリキャリでもいい。なんかよく分かんなくなってきたけれど、肩書が何であれとりあえず「愛される存在」。女の子は──いや”子”じゃなくても、女はみんなそういう存在なんだと思う。

   

2006年公開の映画「嫌われ松子の一生」感想文です。
最後に見たのがかなり前なので、間違いがあったらすみません。

ジェットコースターのような映画

教師だった松子の転落人生を描いたストーリー。こんな人生あるかよ、というくらい残酷で波乱万丈な人生を、明るい音楽とビビッドな映像でポップに見せる。公開間もない頃に見て、どうしようもなく惹かれた映画だった。

その理由は、今までにないほどに展開が早すぎ、上下に揺さぶられる幅もジェットコースターのごとく。そして中谷美紀がキレイだったから、などという理由だけではない。まだ若く未熟だったにも関わらず(だからこそ?)、松子の思考回路に同調してしまう自分がいた。

ショッキングな出来事とそれに反応する松子、といった感じで印象的なシーンが散りばめられ、そこを詳しく説明することもなくどんどん話が進んでゆく。それでも「どうして自分は愛されないの」「どうしてこんなに頑張っているのに幸せになれないの」という松子の苦しみが痛いほど伝わってきた。

これはひとえに中谷美紀の演技の賜物だろうか。監督の演技指導が相当厳しかったというのを当時の映像で見た記憶がある。ちなみに、翌年の映画「自虐の詩」もよかった。中谷美紀=幸薄役と決まっているのかなと思うくらい、たしかにハマリ役だった。

で、見ている最中は松子に共感する余裕などないが、終わってからの余韻がすごい。なんかよく分からないけど切ない……と同時に、「嫌われてないじゃん、松子めっちゃ愛されてたやん」って分かってジーンとする。

救いがないようで、ギリギリ最後に「良かったね」とは思えるのだが、今では本当に良かったのかな? とも思う。映画としてはいいけれど、やっぱり生きているうちにハッピーエンドを迎えたいじゃないですか。

悲劇のヒロイン症候群

松子って何だったんだろう、って考えた時に「悲劇のヒロイン症候群」だと思った。この言葉、自分でひらめいたつもりが、念のため検索したら既にあった。まあ、あるよね。

松子は生まれてから死ぬまで、ずっとたくさんの人に愛されていた。なのに、刹那的に味わうことはあれど、しっかり受け止めて考えを改めるまでには至らず生涯を終えた。

現実世界で松子みたいな人生を歩んでいる人はごく稀だとは思うが、犯罪を犯すとかここまで極端ではなくとも、どの人生にもそれなりの波はある。ただし、人生の分岐点で、どちらを選択するかで変わってくる。松子は常に落ちる方を選んでしまった。

1.生徒が財布を盗んだ時に思わずかばったこと。
2.数ある仕事の中から風俗を選んだこと。
3.ダメ男に尽くし、自殺したらその友人かつクズ男と不倫したこと。
4.逆上してヒモ男を殺したこと。
etc.

殺人を除いて、単体の事象としては別にこれらのことが特別悪いこととは思わない。でも松子の行動を見て思うのは「自分は愛されない」というのが根底にあったのではないだろうか。

(1)で思わず「自分が財布をとった」とウソを言ってしまったのは、みんなが険悪になるのを見るのが嫌で、早くその場をおさめたかったから。(2)で風俗を選んだのは「その道しかない」あるいは「てっとり早くお金を稼ぐのはこれしかない」と視野が狭かったから。(3)ではどうしようもない男に寄り添う自分に酔っていたから、など。

これらは私の適当な予想ではあるけれど、悲劇のヒロインにありそうな思考回路だと思った(原作では書かれているのかな)。こう書くのは、私にも心当たりがあったからだ。
松子ほど波乱ではないけれど、当時、何もかもがうまくいかないと感じていた私にとって、松子の選択は分からなくもなかった。振り返ってみると、ちょっとした問題に遭遇した際、「アカン方」を選んでしまったことは多々あった。

人生は選択の連続 どっちを選ぶか

「愛されない」「うまくいかない」「どうせ私には……」という思考が松子の根底にあったとして話を進める。

思考はあくまで思考であって、現実はそうじゃなかったかもしれない。
財布を盗んだ生徒のことを正直に言って、その後に更生させればよかった。そうしていれば、松子は退職せずに済んだし、生徒はその後ヤクザにならなかったかもしれない。
少ない給料でも自分に合った仕事を探せばよかった。しっかり自立した独身の男で自分を好きになってくれる人だっていたはず。そうすれば、男に振り回されて傷つけられることもなかったかもしれない。
その時々の行動の裏にある考え方さえ違っていれば、別の人生が用意されていたはずだ。

今この瞬間から幸せになれる、たぶん

当時はまあまあ卑屈だった私も、年をとるにつれマシになってきた。が100%抜けたわけじゃない。きっと、多くの人は私と同じく多少の「松子成分」が配合されている。松子成分のパーセンテージが低いほど良くて、きっと同じ局面に立たされた時に松子と真逆の選択をする人ほど幸せなのだ。

全ての出来事はたんなる事象であって、意味づけをするのは本人のみ。とすれば、映画では松子=不幸な側面から映し出したけれど、もしかしたら、同じ出来事を最高に幸せな描写にさえできるのかもしれない。

「女の子なら誰だって、お姫様みたいな人生に憧れる」 by 松子

たぶんなれる。それがドレスで着飾ってお城に住むことではないかもしれないけれど、同等の幸福感はきっと得られる。それは本人の考え方次第だ。

憧れて終わるんじゃなくて、生きているうちに手に入れようよ、と小さな松子に教えてあげたい。あと、自分にも。



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