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メモ 出世したければ、権力者に不愉快な真実を告げない方がよい

外交において重要な職務の一つが情報活動です。世界の情勢がどのように動いているのかを正確かつ迅速に本国へ報告することは、外交官の責務です。もちろん、交渉も彼らの重要な仕事ですが、情報の収集や分析などの業務が適切に行われていなければ、利害が対立する相手と交渉を有利に運ぶことはできません。

しかし、外国に赴任した外交官は時として本国を欺くための報告をすることがあります。それも小さな嘘をつくのではなく、まったく事実に反する報告を堂々とするのです。17世紀にフランスで活躍した外交官だったカリエールは、そのような事態が起こる根本的な原因は、本国にいる君主が期待通りの報告しか受け付けなくなるためであると説明しました。

17世紀、スペイン国王に仕えたオランダ駐在大使のドン・エステヴァン・デ・ガマレは自分の仕事が本国でまったく評価されていないことに不満を募らせていました。当時、スペインはフランスと激しく対立しており、オランダ南部からフランス北部にまたがって広がるフランドル地域では激しい戦闘が繰り広げられていました。彼は外交上の責務を果たすため、オランダで戦地の情報資料を収集し、分析を加えた上で、その成果を書簡で本国に報告していました。

ところが、彼の熱心な勤務は評価されず、その代わりに新参者が彼を差し置いて次々と出世しました。彼は帰国してマドリードを訪れ、大臣の地位にある親類に自分が評価されない理由を質問しました。すると、その大臣は次のように答えました。

「国王の覚えがめでたくないのは、ひとえに、あなた自身のせいである。あなたが立派な交渉家で、忠実な臣下であるのと同じように、立派な廷臣であったならば、あなたほどに仕事をしなかった連中と同じように昇進したであろう。しかし、実は、あなたの率直さが、あなたの出世の妨げになった」(邦訳、カリエール、127頁)

確かに、ドン・エステヴァン・デ・ガマレはフランス軍が戦いで勝利を収めたときには、その事実をありのままに報告していました。フランス軍がどこかの要塞を攻囲すれば、そのことを誰よりも素早く報告して、援軍を出さなければ陥落してしまうかもしれないと提言しました。しかし、このような望ましくない報告をもたらす部下をスペイン国王は疎ましく思っており、その苦労に報いようとは考えませんでした。

要領よく昇進した大使は、フランス人が虫けら同然であり、フランス軍は使い物にならず、フランスが何らかの勝利を得たときでさえ、フランスは叩きのめされたと断言していました(同上)。国王は、このような望ましい報告をもたらす部下のことを高く評価しており、どれほど報酬を与えても与えすぎることはないと考えていました。

この親類の助言を参考にしたドン・エステヴァン・デ・ガマレは、それから嘘の報告書ばかりを書くようになり、想像の世界でフランスを打ち負かすことに尽力しました。やがて、彼は自分が望むように出世することができました(同上、128頁)。もちろん、このような勤務態度が蔓延すると、もはや本国は正確に状況を掴むことができなくなり、常に判断と措置を誤るとカリエールは警告しています(同上、129頁)。

参考文献


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