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論文紹介 アフリカで米軍の対テロ作戦はどのように進んでいるのか?

2007年にアメリカ軍はアフリカを作戦地域とする地域単位の統合軍を新編し、アフリカ軍(AFRICOM)と命名しました。この部隊の活動は日本であまり注目されておらず、中東を作戦地域とする中央軍(CENTCOM)、ヨーロッパを作戦地域とする欧州軍(EUCOM)、東アジアから南アジアを作戦地域とするインド太平洋軍(INDOPACOM)に比べると、調査研究が十分に行われていません。MorreとWalker(2016)の研究はその空白を埋める上で重要だと言えます。

Adam Moore & James Walker (2016) Tracing the US Military’s Presence in Africa, Geopolitics, 21:3, 686-716, DOI: 10.1080/14650045.2016.1160060

著者らはアフリカ軍が他の地域のアメリカ統合軍に比べて特異な点が多いことを指摘しています。大規模な軍事施設が少なく、作戦基地の位置を頻繁に変えていることもその一つです。著者らはエチオピア、ケニア、セーシェルなどで政治的、軍事的な要求に応じて、複数の基地が開設されたり、閉鎖されていることを指摘しており、特殊作戦部隊のための秘密の施設が置かれていることにも言及しています。

そのため、アメリカ軍が発行する公式資料だけに依拠するアプローチでは解明できることに限界があります。対策として著者らはアフリカ軍の調達業務の資料に注目しました。アフリカ軍の後方支援や作戦は民間警備軍事会社への依存度が高いため、著者らは調達業務に関する資料を系統的に収集し、分析することで、アフリカ軍の作戦を支援する企業やその活動を特定することができると論じています。著者らはこのアプローチでアフリカ軍の態勢を分析し、特に重要な作戦基地の位置を特定しました。

アフリカ軍の作戦部隊を支援する基地の位置

著者らの分析によれば、アフリカ軍の基地の多くは無人機の運用拠点として運営されており、その部隊の規模は数十名程度に抑えられていることが多いようです。アフリカ地域で最も古いアメリカ軍の基地はキャンプ・レモニエ(2006~現在)ですが、これはアフリカ軍が欧州軍から分離される前の2002年に建設された恒久的な基地であるため、その存在はよく知られています。2番目に古い基地と特定されているのはセーシェルの首都ヴィクトリアであり、ここは2012年に閉鎖されました。3番目に古い基地はエチオピアの南部にある都市のアルバ・ミンチであり、ここは2011年から2015年まで運営されていた基地です。ただし、推定で2011年頃から現在までシゴネラ基地でもアフリカ軍の基地として運営されていたのではないかと分析されています。そこはイタリアのシチリア島にある基地であり、北アフリカ諸国に対する作戦行動を支援する上で有利な位置にあります。

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