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【書評】『ニュースの未来』(著:石戸諭) ~新旧メディアを渡り歩いた著者が見出した、変化の時代に継承すべき「基本」~

 「DXの時代だ!」と言われても、「何をすればいい?」と頭を抱える人は意外と多いのではないか。

 「DX」。デジタル・トランスフォーメーションは、ビジネスの場における今年最大のバズワードの一つだ。だが、「正直あまりピンと来ない」という人も多いだろう。

 オンラインで出来ることは急速に拡大した。この変化の中で、仕事も根本から変えないかもしれない。だが、「自分個人は何をすべきか?」を考えてみても、よく分からない人は多いのではないか。

 これから紹介する『ニュースの未来』は、上記関心を持って読んでも、学べる点が多いと私は思う。この本で語られるメディア業界は、取り扱う情報のオンライン化の相性の良さから、もっともDXの流れを早く受けた先行事例の一つだ。そして、新旧メディア両方を体験した著者の語る葛藤とその先で掴んだ原則は、業界を超えた普遍性があると感じる。


  著者の石戸諭さんはノンフィクションライター。先日行われたニコニコ動画での選挙特番での鋭いコメントでその名を知った方も多いかもしれない。
 彼は新旧メディア両方をよく知る人物としても知られる。キャリアを毎日新聞の岡山支局からスタートさせ、記者としての基本を叩きこまれた。その後、新しいメディアであるインターネットニュースに魅力を感じ、黎明期のバズフィードジャパンに2015年参加。だが、新メディアにも、限界を感じて、退社。現在では、雑誌や書籍を中心に幅広くフリーランスで活躍している。新旧両メディアを体験し、かつ独立したキャリアは珍しい、と同業者も語る(参考)

 本書『ニュースの未来』に描かれるのは大きく二つ。一つは、新旧メディアを渡り歩いた石戸さん自身の体験を元にしたメディアの比較論。そして、経験を経て、石戸さんが目指す「良いニュース」の姿だ。

 メディアの比較論、特に、ネットニュースへの期待と、飛び込んでから味わった失望は、興味深い。

 当時、新聞で働いていた著者は、速報性が強く求められる中で表現の限界を感じていた。「1,000字であれば大原稿」と言われる厳しい文字制限。そして、それをさらに縛る「速報」的な書き方のルール。

 石戸さんは新しいインターネットメディアの表現の可能性に期待を抱き、転身する。しかし、ネットニュースも、「広範な観衆に対して、山ほどの安っぽいコンテンツを見せることが利益に繋がる」メディアだった。良質な一本のルポルタージュも、芸能人のニュースも同じ1PVとカウントされる。

 むしろ、歴史が浅い分、より質は低い側面もある。例えば、ヤフーのトップニュース。6~8の記事が乗せられる欄の影響力は絶大で、「新聞の一面以上」とも評される。だが、その記事を選ぶ人物の経験はオールドメディアに劣り、未経験者の場合すらある。著者は、最終的に独立の道を選ぶ。

 このようなインターネットへの過剰な期待と失望は、他業種にもみられるものではないだろうか。例えば、2000年代に「インターネットの意思を体現する」とまで期待されたGoogleが、現在は独禁法の訴訟を抱えるように。

 本書のもう一つのパートは、文章術としての「ニュースの基本」だ。このパートは、文章を書く上でも役に立つだろう。例えば、良いニュースの五大要素として「謎・驚き・批評・個性・思考」を含むことが重要と語る。詳細は本に譲るが、文章のテーマと構成を考える上で頭に止めておきたくなる内容だ。

 だが、これは同時に、石戸さん自身が経験したメディア環境が変化する中で、改めて重要性を痛感した要素でもある。特に著者が重視しているのは最後の「思考」だろう。ネットメディアの粗製乱造は、「思考」停止の方向に人を導く。それは、分断すら生み出しかねない。

 そこで著者が引くのは、過去のノンフィクションライターの名手たちが生み出したさまざまな表現だ。投手江夏豊のたった21球に迫ったスポーツノンフィクションの名手、山際淳司。あるいは、三人称を突き詰めた「テロルの決算」、一人称の「私」を突き詰めた『一瞬の夏』等の幅広い表現に挑戦する沢木耕太郎。それは、読者により複雑さを伝えるための挑戦でもあった。
コロナウイルスに代表される複雑な問題に対して、表面的なニュースでは物事の「機微」まで突き詰めることは出来ない。だからこそ、深い取材と的確な表現で「良いニュース」を作るための基本に立ち返る必要がある。


 著者の「先人から学ぶ」姿勢には、強い普遍性を私は感じた。変化の時代にこそ、あえて、基礎に立ち返る。なぜなら、その基礎こそは、変化する時代と切り結ぶ中で、先人達が練り上げた鋼の刃だからだ。これは例えば「DX」のような異業種の事象においても通じる原理原則だろう。

 過去を正しく継承することこそが、未来に繋がる。

 逆説的に響くが、これこそが著者の見出した『ニュースの未来』だろう。

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