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2021年9月6日

1日1話、実話怪談お届け中!
【今日は何の日】9月6日:黒の日

さて、本日の1話は――

「砂利の敷地」

 前田は庭先の舗装を専門とする建設会社に勤めている。その会社は田舎の農家を主な取引先にした老舗である。

「おぉ、調子良くてらな。おめんど、時間あったらおらの家の庭っこも見でけろや」
 ある住居の庭を舗装している最中、近隣の住人の一人が声を掛けてきた。
「おお、おお。へば、あどで伺います」
 小さな集落では施工している様そのものと口コミが営業活動になる。社長はニコニコして住所を訊いた。
 工事がひと段落すると、社長は前田を連れて言われた住居へ向かった。
「こごなんだけど。この砂利取ってまる、この石っこも要らねえ。駐車場さしてまってけろじゃあ」
 依頼者が指示した敷地の面積はなかなかに広く、大量の砂利があったため、なかなかの諸費用が掛かりそうだった。農家の小金持ちが相手とあっては、そこそこに美味しい仕事になりそうだ。前田は社長の顔色を見た。
「……ああー、悪ぃばって、これは無理だ。今、手足らないのさ。他さ頼んだほうがいいべの」
 社長が依頼を丁重に断ったことに、前田は驚いた。

「社長、なして断った?」
 施工場に戻ってから、前田は社長に訊いた。
「おめよ、あっこ墓場だや。昔からある家ってばよ、平気で庭さ墓作るんだね。掘ったら骨出でくるんだ。まんず、それだげでも気分悪ぃ。そいにな、さっきたわぁんどで話してらときな、わらし、いたべ」
 確かに依頼者の説明を受けている間、砂利の上の小さな石に腰掛けた子供の姿が前田の目にも入っていた。
「あのわらし……目ん玉、真っ黒だったや」

 工事が終わった後、前田はもう一度、件の砂利の敷地へ一人で向かった。
 子供はまだそこにいた。
 確かに子供の眼窩は真っ黒だった。
 今もまだ、その敷地は舗装されずに残っている。

――「砂利の敷地」高田公太『恐怖箱 百聞』より

☜2021年9月5日 ◆ 2021年9月7日☞

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