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田舎、村、集落の本当にあった怖い話!『村怪談 現代実話異録』著者コメント・試し読み・朗読動画

閉鎖社会の闇へようこそ。
編著者の加藤一ほか、久田樹生、神沼三平太、つくね乱蔵、服部義史、松本エムザ、雨宮淳司、内藤駆、橘百花、渡部正和、ねこや堂、高野真、三雲央、ふうらい牡丹、夕暮怪雨、15人が総力取材。
隠された禁忌の風習、村と集落の怖い話25!

内容・あらすじ

「ここいらは、しびとの集落だ」
赤錆びた道路標識の先の廃村。
片目の老婆の語る恐ろしい話とは…
――「四人集落」より

日本の中の異界、村。独自の文化を持ち、様々な掟と共に生きる閉鎖社会の恐怖譚を聞き集めた現代の実話怪奇録。
●山梨の山中で迷い込んだ廃村。脱出するにはある問答に答える必要が…「四人集落」
●土葬の風習が残る村。棺に蓋をせずに故人と一夜過ごすと死者と話せるというが…「言うことなし」
●小倉南区にかつてあった集落では正月に餅を食べてはならない。禁を破ると…「カプグラ」
●初子が誕生したら家の年長者を山の縦穴に放り込んできた青森の村。山神への生贄だと言うが真実は…「山神穴」
●四国のとある村。真新しい公民館が建つ土地には禍々しき因縁が…「生焼け」
他、日本の闇に迫る最恐25話。

巻頭言 

 村、或いは邑とも。
 現代日本に於いて、村は地方行政自治体の最小単位であるが、小規模なコミュニティの
俗称として人が群れて生活していく為の共同体を、便宜的に村と呼ぶこともある。
 村という地域単位を聞いた我々が真っ先に思い浮かべるのは、郷愁であろうか。牧歌的な山間の農村、活気ある漁村、祖父母の暮らす鄙びた古民家、素朴で朴訥な人々の温かい歓待と、時に民話にのみ登場しそうな昔ながらの暮らしぶりや、古びた伝統や伝承を継承し続ける、時が止まったような懐旧の郷。
 ポジティブなニュアンスばかりではない。懐旧の郷は、同時に閉鎖的な地勢と排他性をちらつかせる。変化に取り残された場所として描かれ、旧弊を恃んで新奇・進化を許さず、余所者を激しく拒み、裏切り者・離脱者を逃がさない集落とされることもある。
 日本の総人口の七割以上は都市部で生活している。そして多くの日本人にとって、村は特別な機会なくば立ち寄ることもない未知の領域である。誰もが知るはずなのに、実のところよく分からない。故に知ろう。村を。村を巡る、その怪異譚についてを。
                      編著者・加藤一 

著者コメント

実は、以前にも近いテーマの実話アンソロをやったことがあります。2017年の『恐怖箱 閉鎖怪談』は閉ざされた場所の実話怪談を募ったんですが、そのときも村怪談結構あったなあ、って。著者各位も「村が舞台の話」というのを皆それぞれに見つけて下さってるんですが、見つかりやすいが故に「こないだ他の本に書いちゃった」とか「今、村怪談の手持ち……あるかなあ」と不安になってくるようなことを。ドキドキしながら原稿を待ってたら、漆黒の闇を覗き込むかのような話が次々と集まりまして。なんだあ、あるじゃんあるじゃん、という訳で、本作はこんな具合になりました。(加藤一)

子に過ぎたる宝なし。我が子のために決めた自然豊かな土地への移住。地域の子どもらの健康と成長を祈願する子ども神輿。どちらも子どものための行為であったのに、何故か生まれてしまった歪み。拙作「子ども神輿」はそんなお話です。
 四月を迎え、新しい地での生活を始めた方も多いことでしょう。江戸時代、村の数は六万以上あったとか。因習に縛られたそれらが名を変えて、貴方が暮らすすぐ傍に存在しているかもしれませんね。(松本エムザ)

試し読み 1話

子供神輿(松本エムザ)

「子育ては、自然に囲まれた土地で」
 結婚当初からそう考えていた須賀さん夫妻は、御長男が小学校へ上がるのを機に、過疎地域への移住促進の為の制度を利用し、念願の田舎暮らしを始めた。
 お子さんが入学した小学校には、他にも何組か同様の移住者家族がいたが、自治体が貸し出していた住居はそれぞれ離れており、須賀さん一家が借りることになった家は、彼ら以外の全戸が古くからの住民である地区に位置していた。とはいえ地元民からは大いに歓迎され、余所者呼ばわりされたり邪険にされたりなどは全くなく、快適な新生活を送ることができていた。
 祭りの季節が来るまでは──。
「子供神輿を担いでもらうよ」
 秋を迎えた収穫の季節、地域の各地で様々な祭りが予定される中、須賀さん宅を訪れた地区の自治会長にそう告げられた。若い家族が相次いで地区から出ていってしまい、年々担ぎ手の子供が減っていたらしく、須賀さんの子供達の参加を心から喜んでいるようであった。そして子供二人も、「御神輿を担ぐ」という初めての体験に、祭りの日が来るのを楽しみにしていた。
 当日、地区の公民館に朝早くから集合したのは、須賀さん親子を含め、お子さんがいる僅か数世帯の家族と、それより遙かに数の多い地区の長老達だった。その際に初めて気付いたのだが、公民館の建物の裏手にひっそりと、古びた鳥居と祠が存在していた。どうやら神輿は、この神社の神を祀るものらしい。
 長老達の手によって既に組まれた神輿は、小ぶりではあるが施された装飾も彫刻も見事な、非常に立派な代物だった。果たして、集まった十人程度の子供達だけで担いで回れるのだろうかと、不安になるほどの。
 不安はすぐに的中した。
 幼稚園児から小学生までの、身長も体力もバラバラな子供達が、一つの御神輿を担ぐことにまず無理があった。数メートル進んでは休み、数歩進んでは休みと、亀の歩みほどしか進まない。
「それ、わっしょいわっしょい。しっかり揺らせ。思いっきり揺らせ」
 掛け声を上げて張り切っているのは長老達だけで、必死に神輿を担ぐ子供達は、あっという間に疲れ果て声も出ない。
 聞けば神輿の順路は狭い地区を縫うように、半日以上掛けて巡るという。
 須賀さんの下のお子さんはまだ幼稚園児のお嬢さんで、既に半べそ状態であったが、周囲の長老達は、
「わっしょいわっしょい。ほら頑張れ」
 と、囃し立てるだけで、救いの手など出す気配はない。
「これ、ルート短縮とかしないと、キツイんじゃないんですかね?」
 肩や腕の痛みを訴え出した我が子を見かねて、須賀さんは他のお父さんに同意を求めたが、
「いやいや、それはあり得ないから」
 真っ向から否定された。彼の子供達も既に、泣き出しそうな顔で神輿を担いでいるというのに。
「じゃあせめて、大人が手伝ってあげることは……」
 新参者故、控えめに須賀さんが提案すると、
「駄目なんですよ。これ神事だから。決まり事だから、守らないと」
 若い父親は「これ以上は口を出すな」とでも言いたげな強い口調で、頑として譲らない。
 彼の話によると、この地区の子供神輿は三年に一度。担ぎ手は五歳から十歳の子供限定で、代々決まったルートを回っている。どんなに子供が音を上げても手出しは無用。最後
まで子供だけで、神輿を宮入りさせるのが決まりなのだという。
「俺も親父も爺さんも担いだから。こいつらもちゃんと責務を果たさないと」
 同世代ではありながら地元民の彼にそう力説されると、反論のしようがなかった。何とか子供達を励まし、おだて上げて、神輿を担がせ続けたが、
「もう無理。見ていられない」
 先に我慢の限界に達したのは、須賀さんの奥さんのほうだった。腫れあがった肩の皮膚が赤く剥け、泣きじゃくる下の子を抱え、
「この子はこれで失礼します」
 そう言って、周囲の制止の声を振り切り、逃げるように自宅へと戻ってしまった。
「……あーあ」
 それまで陽気に「わっしょいわっしょい」と子供らを盛り上げていた長老達が、笑顔を一切消した顔で発した声の重さに、須賀さんも奥さんの後を追って帰ることができず、どうにか長男を宥め賺して、子供神輿の全行程を終えた。しかし、
「お疲れさまでした」
 解散の際、須賀さんが周囲に声を掛けても、応えてくれるどころか、視線を合わせる者さえ誰もいなかったという。
 その日をきっかけに、平穏だった須賀家の日常が一変した。
 下の子の激しい夜泣きが始まった。泣く、というより絶叫だった。子供神輿の疲れが起
因か、肩の痛みが原因かとも考えたが、数週間経っても毎夜治まる気配がない。
 なのに、以前なら子供に不調が見られたらすぐに病院に連れていっていた奥さんが、何の行動も起こさない。奥さんも、子供神輿の日以来「疲れた」「だるい」を繰り返し、声を掛けても上の空のような状態が続いていた。更に夜になると奥さんは、
「……おかあちゃん、おかあちゃん」
 と、寝言を繰り返して魘されるようになった。奥さんは実母のことは「ママ」、義母である須賀さんの母親のことは「お義母さん」と普段から呼んでいるのに。
「あのねパパ、ママがおかしなこというの」
 須賀さんが仕事で不在の子供と奥さんだけで過ごす日中、奥さんが何故か自分のことを、
「ユキちゃんねぇ」
 などと言って話すのだという。それは奥さんの名前とは少しも似ておらず、近親者にもいない名前である。
 夜泣きの続く下の子は、起きている昼間の時間はいつも何かに怯え、布団を被って引きこもるようになってしまった。
 上の子は何とか学校に通っていたけれど、
「家の中で、変な足音が聞こえる」
 そう訴えるようになった。
 パタパタと小走りする、姿の見えない子供のような足音を須賀さんが耳にしたのは、
「暫く実家に帰らせてください」
 と、奥さんが二人の子供達を連れて出ていってしまってからだった。
 全ての発端は、あの子供神輿としか考えられなかった。近隣の人間を捕まえて問い詰めたかったが、祭りの日以来、地区の住民は誰も須賀さんと口を利こうとはせず、ほぼ村八分のような状態だった。
 一度だけ、近隣に住む老人が、一人仕事に向かおうと家を出た須賀さんに向かって、
「自業自得だわな。○○様を邪険にするなんてな」
 と吐き捨てたことがあった。はっきりと聞き取れなかった「○○様」とは何なのかは、調べてみても一切不明だった。
 実家で過ごすようになって、下の子の夜泣きも減り、奥さんも体調が落ち着いてきたとの連絡があり、須賀さんは妻子とともに実家近くの都市に移り住む決意をし、すぐに実行に移した。
 もし田舎暮らしに憧れて、計画を進めている人がいるのなら、
「その土地の風習や祭りについても、しっかり調べたほうがいいですよ」
 と、須賀さんはアドバイスをくれた。ただし、
「調べても出てこないものも、沢山あるとは思いますが」
 とのことである。

―了―

朗読動画

4/29 18:00公開!

著者プロフィール

加藤一 (かとう・はじめ)

1967年静岡県生まれ。老舗実話怪談シリーズ『「超」怖い話』四代目編著者。また新人発掘を目的とした実話怪談コンテスト「超-1」を企画主宰、そこから生まれた新レーベル「恐怖箱」シリーズの箱詰め職人(編者)としても活躍中。近刊編著に『「超」怖い話 寅』『恐怖箱 亡霊交差点』など。

シリーズ好評既刊

「鬼怪談 現代実話異録」


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