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金沢発、北陸最恐の霊感会社員の綴る本当にあった怖い話『闇塗怪談 祓エナイ恐怖』(営業のK)著者コメント+試し読み1話

北陸最恐の怪談ハンター、最新書き下ろし!
人気シリーズ第8弾!

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あらすじ・内容

金沢発、霊感営業マンが綴る実話怪談集。

・山間を撮影した映像に映る赤い屋根の家。だがそれは今は存在しない一家殺人のあった家で…「ドローン」
・著者の友人の住職もお手上げだという連続不審死のあった富山の家。霊能者のAさんと著者が現場で見たものは…「鏡の部屋」
・友人と霊はいるかいないか賭けをすることになった男。自殺の名所と言われる石川県の橋へ動画を撮りに行くが…「熊走大橋」
・村の火葬場で焼き縮む遺体を棒で押さえつける仕事。ある日、恐ろしいことが…「火葬」
・同僚男性に誘われて行った彼の家は人形だらけ。やがて二階から妙な物音が…「人形の家」

他、オール書き下ろし!

購入者特典として、人気怪談朗読YouTuber・136(イサム)氏による、文庫未収録の怪談2話が聴けるQRコードがついています!

著者コメント

この話を聞かせて頂いた時の母親の疲弊しきった声がとても印象に残っている。
辛いが話さなければいけないのだ、という使命感と気が狂いそうな悲しみが入り混じりギリギリの状態でバランスを取っている切迫感に身が震えた。
水道の水から感じていた違和感の正体が実は・・・・というのは後になって気付けたのだろうが、もっと前に気付けたのだとしてもきっと結末は同じだったように思える。
それでも母親は自分を責め続けている。
そうする事で精神のバランスを何とか維持できているのだろうか。
この話を聞き、そして書いているうちに俺にも「死」という定義がよくわからなくなってきた。
そして、これは巻末に載せられている「友人へ」という話にも相通じるものがある。
その理不尽さと死の曖昧さが読者の皆さんにもうまく伝わってくれると良いのだが。

試し読み1話

「水道の水」


彼女が最初に異変に気付いたのはシャワーを浴びている時だった。
 いつも仕事から帰るとすぐにシャワーを浴びる。
 一緒に住んでいる家族からはちゃんと湯船に浸かるように言われていたが、シャワーのほうが手軽で気分もさっぱりする。
 だから彼女にとってシャワータイムは、とても大切な楽しみだった。
 しかし、その夜シャワーを浴びていた彼女はそれまで感じたことのない違和感を覚えた。
 ほんの少しだけ口に入ったシャワーの湯が、少し生臭く感じたのだという。
 その時は気のせいだと思いそのままシャワーを浴び続けたが、その翌日にはさらに生臭さが強くなっているように感じた。

「ねえ、シャワーのお湯、変じゃない?」
 シャワーの後、彼女は家族にそれを訴えてみたが、どうやら彼女以外の家族は誰もそんな異変を感じてはいないようだった。
 そこで彼女は、もしかして……と思い、水道の水を飲んでみた。
 だが、キッチンの水道水からは特に生臭い味はしなかった。
 やはり、シャワーだ。
 そこで彼女は風呂場のシャワーヘッドを家族に頼んで調べてもらった。
 もしかしたらシャワーヘッドの中に何か生き物の死体が詰まっているのではないか?
 そんなふうに考えたのだという。
 しかし、父親がシャワーヘッドを外して中を見てもどこにも異物が挟まっている様子はなく、それでも気にする彼女のために、結局シャワーヘッドを新品に交換することで落ち着いたという。

だが、残念ながらシャワーヘッドを交換しても問題は解決しなかった。
 彼女だけは、相変わらずシャワー中に生臭い味を感じてしまう。
 そしてそれは、以前は感じなかった水道水のほうからも感じるようになっていった。
 ただやはり、家族は誰ひとりとして水道水に違和感は抱いていない。

もしかすると、自分は味覚障害なのではないか?
 そう思った彼女は、病院で診察を受けてみた。
 しかしそこでも異常は見つからず、彼女は悶々としたまま生活を続けた。
 大好きだったシャワータイムも楽しめなくなり、気分が塞ぎ込むことが多くなった。
 それでも原因が分からない以上、いつか違和感が消えること願って生活するしかない。

結局、違和感は消えるどころか、エスカレートしていった。
 それまでは「生臭い」と感じていた水の味が、次第に「酸っぱい」と感じるように。
「酸っぱい」は、最終的には「線香のような」味へと変わっていった。
 シャワーを浴びても、お茶を飲んでも、口の中には嫌な線香臭さが残った。
 水やお茶だけでなく、あらゆる飲み物と食事に臭いは混じり、どんなに素敵なレストランやお洒落なカフェで食事をしても、彼女が感じられるのは線香のような匂いの味だけになっていった。
 自分がこれだけ強烈に感じている匂いが、どうして友達や家族には分かってもらえないのだろうか?
 そのことで彼女はかなりのストレスを抱え込むようになっていった。

しかし、その頃から家族のほうにも、彼女に言えない秘密を抱えていた。
 それは彼女が帰宅すると、強い線香の匂いがするようになった、ということだ。
 彼女が仕事に行っている間にはまったくそんな匂いはしないのだが、彼女が帰宅すると途端に強烈な線香の匂いが家中に充満してしまう。
 だが、彼女が訴えるのは自身の味覚のことだけで、彼女自身が自分の匂いに気付いている様子はなかった。

そんなある日、なかなか起きてこない娘を起こしに行った母親が、自室で亡くなっている彼女を発見した。
 部屋の中には異様なほど濃い線香の匂いが充満し、つい今しがたまで線香を焚いていたかのように部屋の中が白く煙っていたという。
 警察の検証の結果、彼女の死因は心不全だったそうだが、なぜかかなり腐敗が進んでおり、死亡推定日は一か月ほど前。
 つまり彼女がシャワーのお湯の味に違和感を感じだした頃だった。

彼女が自分の死に気付かずに生活していたのか?
 それともその匂いが彼女の腐敗を速めたのか、いまとなっては検証の仕様がない。
 仏壇に線香だけはあげたくないのだという彼女の母親から聞いた話である。


ー了ー

🎬人気怪談師が収録話を朗読!

https://youtu.be/J9c6Ha1e7xM

12/25 20時公開予定

著者紹介

営業のK(えいぎょうのけー)

石川県金沢市出身。
高校までを金沢市で過ごし、大学4年間は関西にて過ごす。
職業は会社員(営業職)。
趣味は、バンド活動とバイクでの一人旅。
幼少期から数多の怪奇現象に遭遇し、そこから現在に至るまでに体験した恐怖事件、及び、周囲で発生した怪奇現象をメモにとり、それを文に綴ることをライフワークとしている。
勤務先のブログに実話怪談を執筆したことがYahoo!ニュースで話題となり、2017年『闇塗怪談』(竹書房)でデビュー。主な著書に「闇塗怪談」シリーズ、共著に『呪術怪談』『黄泉つなぎ百物語』『実録怪談 最恐事故物件』など。
好きな言葉は、「他力本願」「果報は寝て待て」。

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