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松村と深澤、異なる二色の恐怖が混じり合う戦慄の化学反応『「超」怖い話 壬』著者コメント・試し読み・朗読動画

体験者の肉声を直に聞き記した骨太実話怪談集。

口に含んでから押し寄せる
圧倒的な心許なさ。
ジワリ効く、怪の水!

内容・あらすじ

「池が子を喰らう。
すると、鐘が鳴るんだ。
どこからか…(「騒音」より)

乗ろうとしたエレベーターに自分そっくりの誰かが乗っている…「忘れ物」
山の神と言われた曾祖父が地上げ屋に飲ませた黒い水…「第三の水」
子供が何人も死んでいる神社の裏の溜め池。村に響く鐘の音は…「騒音」
家族が連続死した一家。残された娘がどんど焼きで焼いていたのは…「姉ちゃんだけはまとも」
認知症の症状が出始めた祖母の部屋から聞こえる異音。覗くと祖母は仏壇に向かって…「吸う」
紙と鋏で客の横顔を瞬時に切り抜いてみせる切り絵職人。彼には秘密のコレクションが…「リバイバル」
山道でへたり込む革靴の男。彼が必死に追うのは一体の西洋人形…「腹話術」
自殺した生徒の顔で作った十五パズル。顔を元に戻さないと恐ろしいことが…「パズル」

ほか、収録!

編著者コメント

「超」怖い話の十干シリーズも、いよいよセミファイナル。今回、深澤が持ち込んだお話は例年より更に「怖さ」にフォーカスされている気がして、唸ること多々であった。
実際、私は「怖さ」に消極的である。怪談屋を始めてすぐの頃は、当然なによりもそれを求めて書き散らしていたのだが、年数を重ねるごとにそのもう一枚裏側をめくりたい衝動に駆られるようになってしまったのだと思う。
そこにあるのが更なる恐怖なのか――あるいは一種の救済なのか。それは、読者諸賢の読み方ひとつ。是非、本書を手に取って確かめて頂きたい。
◆試し読み「腹話術」について
「山の怪」にも色々あるけれど、このお話はどちらかというと、「人里の怪」が山を目指したといった趣きがあり、とても印象に残っている。どんな因縁のなせる業なのか、勿論我々に知るすべはない。ただその光景を想像してみると、異様さの中にもひとつの物語が秘められているように感じて――危ないこととは知りながら、心惹かれるものがある。
                           松村進吉

共著者コメント

 noteに記事を書くのも随分久しぶりのような気がしています。深澤夜です。
 さて今年も「超」怖い話の夏がやって参りました。
 今年特にnotableなこととしては、なんと編著者・松村進吉先生の新作『丹吉』が七月の頭に発売になったのですよ。
 凄い! 最高! キャーッ マイケル・マドセン! 耳千切ってー!!
 先立って私は「早く超怖書かないと先に読んじゃうぞ」と編著者様を脅しており、無事著者より先に新刊を読むという栄誉を手にしたわけです。
 京極夏彦先生の『巷説百物語』の芝右衛門狸が好きな人は絶対ハマると思います。WOWOW版でも。
 これが本当に狸スペクタクルの超傑作でして、迂闊に外で読んでいると彼らの正直さに目頭が熱くなって困ること請け合い。
 いや私も、狸そっくりな近所の地域猫に「たぬきち」と名前を付けて仲良くしていたものです。家に近づくと交差点の信号のところでちゃんと待ってるんですよ、僕が帰ってくるのを。
 思い出しちゃいました。誰しも人生に狸があるものです。
 どうしてここで『丹吉』の宣伝をしているのかって? それは、2022年夏の「超」怖い話・壬にはそんな松村先生のすごいイイ話が採録されているからです。怖い話だけじゃなく、こういうのもね。
 共著として何度もご一緒させてもらってる私なんかから見ますと、小説『丹吉』は分厚い人間愛で貫かれています。自然だ八百万の神々だと言いつつ、「自然は素晴らしくて人間はダメだ」とは絶対ならない。(かつての)2ちゃんねるネタやネットミームの数々もただウケ狙いで使ってるわけじゃなくて、車や建物や料理と同列に人の作った愛すべきものとして使われてる。
 と、そういう視点で考えますと、それは同じものが松ちゃんの「超」怖い話ほか実話怪談シリーズの根底にあるものだったりします。実話怪談は人との対話からスタートするので、そこは全然無関係じゃないんですよね。
 松ちゃんのファンの私がどっちも読んでどっちも最高だぞと、本心から申し上げるわけです。「超」怖い話は私も書いてるぶんちょっと殺伐とするかも知れませんけど。
 ちなみに、「超」怖い話の十干シリーズは甲乙丙丁……壬と数えて今年九年目。どこからでも、どの巻のどの話からでもお読みになっていただけます。
 もちろん怖い話もちゃんとあって……というか一部いい話以外は本当に怖い話がいっぱいです。そこはもうちゃんと保証できる。
 宣伝なのでそこのところを推したいのですけど、ほら、宣伝ってできるものとできないものがあるじゃないですか。有害な広告をアドネットワークに出稿すると大問題になるし、ゲームだとCERO Z指定で広告が自由に打てなくなる。
 今回は概ね、その宣伝できないくらいの怖さだと思います。
 他ではまず読めない〝異常な怪談〟も多く取り揃えており、マニアの方にも安心の内容となっております。
 いや怪談自体が異常だろう、と仰る向きが殆どとは承知しております。ただどんな話も、それが不幸話だろうと自慢話だろうと、本当の異常性が露わになるのは正しく質問した後なんだと思うわけです。
「芝刈り機を買ったんだよ」と言われて「へー」で終わっちゃダメなんです。「なんで?」と訊くのは、まぁいいと思いますし、メーカーを尋ねるのがベストかも。でもここで「お前んち庭ないよね?」と訊かなきゃいけない場合がある。
 すると話がなんだかおかしな方向に向くことがあるんです。質問したこっちが「えっ?」ってなることが。やっちゃったな、と質問したことを後悔するようなことが。
 万人が肯首するとは言いませんが、私はそういう話を〝異常な怪談〟だと考えます。
 そうそう――宣伝だけでなく、コツコツと見えない努力もちゃんとやっておりますよ。
 そう、神頼みです。
 本書の執筆に先立つ六月初旬、私は取材のついでに千葉のとある神社を探しておりました。
 山中で――というとやや大袈裟になりますが、夏歩くにはだいぶしんどい場所に辿り着きました。
 噂には聞いていたのですが、見た瞬間というか、鳥居を潜った瞬間から自然に「うっわ」が漏れてしまうような廃れっぷりで雑草伸び放題。
 雑草も元々そんな生えないような砂利の地面ですから伸びこそすれみっちりとはならず簾ハゲ状にスカスカで、とにかく寂しいんですね。お社も周囲の枯れた地べたと同じような枯れ木の色ですし、ただまあ造りは良いのか、やたらと四角い。
 あちこち板が打ち付けられ、鐘も鈴緒もなくなっていたけれど賽銭箱だけがある。
 ここ、どう見ても廃神社なのですが、廃神社ではないらしいんです。聞いたところによると一応生きてはいるらしい。
 お社を見て「うっわ」から「うわあ……」という感じで若干引いていたのですが、一瞬仰け反ってから前のめりになりました。
 ここだ、とピンときた。
 ここがいい、ここしかない――そう思ったので、一応お参りすることにしました。
 どう見ても死んでいるけど、生きてるというならそうなんだろうってことでお賽銭もちゃんと投げて。昨今の事情も考慮して五円とかじゃなくて。両替の手数料で赤字がでないように配慮して。この上赤字まで出たら本当に死んでしまうので。
 ちゃんと「超」怖い話壬のヒット祈願をしておきました。
 まぁ、場所が場所だけに逆効果ということもあり得ますが、そのときはお察しください。売れたらちゃんとお礼参りに伺いますので。

 そのご利益かはわかりませんが、どうにか生まれました。
 執筆中に。
 破水寸前だったMacBookのバッテリが。
 メリメリとアルミの筐体を捻じ曲げて、底面から三つのバッテリセル。元気な男の子です!
 ……これも思い出の品で、2009年の夏、やはり怪談の取材中に突然死して膨らみ始めたMacBookなのでした。
 危な過ぎて安全なところに隔離して(放置して)いたのですが、執筆中にラップ現象が続いて見に行ってみたら、それはもう見事に……。
 どこかで回収してもらえないか、近所のヤマダ電器に電話を掛けたら引き取ってくれるらしいのですが「一筆書いてもらうかも知れません」と言われて持っていきました。
 このMacBookが死んだお陰でメモをとれなくなり、当日お話を伺った方には心配をかけてしまいました。mixiというサービスが下火になった以降、ご連絡がとれなくなってしまいました。お元気でしょうか。渋谷のセルリアンタワーの下のカフェレストランでお会いして、御作を頂戴いたしましたのが最後です。覚えておいででしたらぜひ私のTwitterにまでお知らせくださいますと喜びます。
 おっと私信になってしまいました。感想文で始まって私信で終わるなんて。
 色々ありましたが、どうにか皆様のお手元にこの恐怖をお届けすることができます。
 避暑のお供に、ぜひ「超」怖い話・壬をお願いいたします。

                            深澤夜

試し読み1話 

「腹話術」松村進吉

 関本氏は日帰りのトレッキングを趣味にしている。
「山ってのは、季節によって全然違う風景になるからね。同じコースを何十回歩いても、飽きることはないよ」
 今年で古希、七十歳を迎えるそうだが、背筋は伸びており動作も素早い。
 とはいえ若い頃のように歩けないことは自覚していて、現在は月に一度くらいしか出掛けないという。
「登りは平気なんだ。別に何時間だって歩けるし。……問題は下りでね、速度が出やすいからって調子に乗ってホイホイ進んでしまうと、その後が大変」
 平常あまり負荷のかからない向う脛の筋肉を酷使することになり、それが夜中に攣って、眠れなくなるらしい。
 確かに裏側のふくらはぎではなく、スネが攣ったという経験は思い当たらない。
 山歩きならではの弊害なのだろう。如何にも痛そうだ。
 なのでできるだけゆっくりと、意識的に速度を落としながら下っていくことが肝要だと、関本氏は言う。
 三年前の春先の話である。
 ほどなく昼になろうかという時間帯――関本氏はひとり、通いなれた地元の山を歩いていた。自生する二輪草やら銀蘭やらに目を細めながら、下りのコースに差し掛かったところで、ふと前方に座り込む人影に気付く。
 おや……、と思った。
 四十代くらいの、スーツ姿の男性。
 酷く汗をかき、疲れ切った様子だった。
 いくら整備された山道でも、足下が革靴というのは不似合い過ぎる。
 ――よもや自殺をしに来た訳ではあるまいが、目の前を素通りする訳にもゆかない。
 関本氏は近くまで行き、立ち止まった。
「……失礼ですが、どこか具合が悪いのですか? 私はこれから降りてゆくので、下に着いたら助けを呼びましょうか」
 ハッ、と男性は顔をあげた。
 気弱そうな表情。銀行か何かの営業職のようだ。
 誰かに連れられてここまで来たものの、革靴のせいで歩けなくなったのかもしれない。
 勿論それも、考え難い話ではあるが――。
「すみません。大丈夫です、ちょっと休憩してただけで……」
「足が痛いなら、タオルを差し上げます。靴の中に敷き込むといい」
「いえ、本当に……。それよりも、そちらから登って来られるとき、女の人とすれ違いませんでしたか?」
 女の人……? と、関本氏は首を傾げた。
 生憎そんな覚えはない。
 一本道なので、気付かなかったということもあり得ない。
 麓の駐車場からここまでの道中は、およそ一時間。このまま下りの道を進んでゆけば、三十分ほどで別の駐車場に出る。
 つまり山の西側と東側、どちらからでも登り始められるのだが、環状コースではないので端まで行ったらUターンすることになる。歩きどおしでも都合三時間はかかる道のり。
 この男性はそれを革靴で歩き始めてしまい、どうにか半時間は進んで来たものの、ここで限界になったのだろう。
 ……やれやれ、と肩をすくめながら関本氏は小さなリュックを下ろした。
 そして新しいタオルを取り出し、尚も固辞する男性の胸元に押しつけた。
「いいから、これをお使いなさい。半分に裂いて、靴の中に……」
「――ああっ! ゆ、ユミエさん! ちょっと待ってください!」
 突然男性が大声を上げ、関本氏を押しのけるようにして立つ。
 仰天し、草むらへ転げ落ちそうになったので、咄嗟に「お、おいッ! 危ないだろう!」と声を荒らげてしまった。
 が、男性の視線を追って背後を振り返り、ギクリとする。
 ほんの一、二分前に自分が歩いて来た道に、何かが置いてある。
 いつの間に。
 どこから。
「……なっ、何だ?」
 それは、西洋人形である。
 座った状態で置かれているが、頭からつま先まで四、五十センチほどであろうか。
 ひらひらとレースの付いた帽子をかぶり、エプロン姿。膨らんだスカート。
 白っぽい顔。十メートル以上離れているので、細部までは確認できない。
 じっとそれを凝視していると、関本氏の首筋にぞわぞわぞわ、と鳥肌が立った。
「何だあれは……。誰が置いたんだ?」
「……もう、見失ったかと思いましたよ! 酷いじゃないですか先に行くなんて!」
 スーツの男は顔を顰め、痛そうに足を引き摺りながら人形に向かっていく。
 一体何を言っているんだ。
 異常だ。
「ま、待て君。待て、おかしい……」
「うるさいッ、放せ!」
 関本氏は男の腕を取ろうとしたが、乱暴に振り払われる。
 男は歯を食いしばりながら人形に近づき、両手でそれを抱き上げると、媚びるような声で何かを呟きつつ、関本氏の来た道を歩いて行った。
「――で、まぁ、それっきりなんだけども。私は気を取り直して先まで進んで、反対側の登山口で飯を食ってね」
 そちら側の駐車場に、車は停まっていなかったという。
 あの男は一体何だったのかと思いながら、彼は早々に引き返した。
 どこかさほど進まぬ内に、また座っているだろうと思ったからである。
「……でも、いなかったね。もう会わなかった。山の中に入っていったのか、それとも誰かが、反対側の駐車場まで迎えに来たのか。どっちにしろ気味が悪かったし、あの日以来、あそこのコースには行ってないんだ」
 話を終えてからやや置いて、関本氏はためらいがちにこう付け加えた。
「勘違いだったのかもしれない、とは思うんだけどね……。その男が西洋人形を抱えて、
トボトボ歩いていくときに――」
 人形が女の声で、返事をしていたような気がする、と彼は言った。
 当然それは、腹話術の類だったのかもしれない。
 頭のおかしい男がひとり二役、裏声で呟いていただけなのかも。
「……ただ、なんか。変ではあったよ。凄く。私は、あんな上手に女の声を出す奴なんて、見たことがなかったから……」
 幸か不幸か、話の内容までは聞こえなかったという。

ー了ー

朗読動画

収録話より「ねじ式」深澤夜/著の朗読を公開しております。

著者紹介

○編著者

松村進吉(まつむら・しんきち)

1975年、徳島県生まれ。2006年「超-1/2006」に優勝し、デビュー。2009年から老舗実話怪談シリーズ「超」怖い話の五代目編著者として本シリーズの夏版を牽引する。主な著書に『怪談稼業 侵蝕』『「超」怖い話 ベストセレクション 奈落』など。共著に丸山政也、鳴崎朝寝とコラボした新感覚怪談『エモ怖』がある。twitter@out999

○共著者

深澤夜(ふかさわ・よる)

1979年、栃木県生まれ。2006年にデビュー。2014年から冬の「超」怖い話〈干支シリーズ〉に参加、2017年『「超」怖い話 丁』より〈十干シリーズ〉の共著も務める。単著に『「超」怖い話 鬼胎』、松村との共著に『恐怖箱 しおづけ手帖』がある。

シリーズ好評既刊

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