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『ファートンいきもの記』【19】

今日の「いきもの」は≪円卓の菌糸≫である。
シンガポールで私が日課にしていたサイクリングのお気に入りコースは、ウェストコーストパークとフェリーターミナルの間を通る見晴らしの良い一本道であった。ここは海沿いで貨物のターミナルに用事のある車両しか利用しないため、コンテナを積んだ大型トラックが通るが、時間帯によっては全く誰もいない状態になる。そんな素敵な場所で、ある時は黙々と自転車を漕ぎ、ある時は担任クラスの合唱曲を歌いながら漕ぎ、またある時は途中の休憩がてら趣味で少しだけかじったハーモニカの練習をしていた。人通りが少ないということで、たまに走り屋の車がすごいスピードで走ったり、怪しい連中(法に触れるようなブツを売買してそうな雰囲気の人たち)が集まっていたりということもあった。それらに紛れて、「秘密の会合」を開いている奴らがいた。奴らは道沿いにある一本の樹木を円く取り囲むように座っていた。お付きの者を含めるとかなりの数であったが、主要な者の数は「13」であり、それぞれが騎士道精神に溢れた歴戦の猛者だったのである。奴らは円形に座ることでお互いに上下関係はなく対等であることを確認し合っていた。

奴の「とくしゅ(特殊能力)」は「腐海浄土」である。
奴らの会合の目的は、この世界を破壊し穢している強大な敵と戦い、世界を正しい状態へと浄化するために何をすべきか真剣に議論することである。そして、奴らはそれぞれの身体から「胞子」を放出し、胞子から広がる菌の網によって世界を包み込んで、敵が生存できない環境である「腐海」を形成しようと考えたのである。奴らの作り出す腐海は、敵の傲慢を具現化した文明社会を飲み込み、浄化させ、世界が始まったときの正しい状態に戻してくれるのである。事実、奴らの腐海による「浄化プロジェクト」は、かつて別の大陸で確実な成果をあげたことがある。当時、その大陸の都市は腐海に飲み込まれ次々に浄化されていった。ただし伝え聞いた話によると、絶えず風が吹く辺境の谷の王女が奴らと話し合い、現在は、腐海との共存・共生が図られ、「持続可能性(サステナビリティ)プロジェクト」が進められているようである。

#キノコ   #シンガポール   #円卓の騎士   #腐海   #SDGs #ウェストコーストパーク
(以下で今日の「いきもの」をスライドにて紹介)

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