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一人呑みで恥を掻いたよ、というおはなし 【エッセイ】

どうも、大枝です。近頃朝晩の冷え込みがキツくなって参りましたね。
みなさん、冬には一家に一台必須・「松岡修造」の御準備はお済みでしょうか?
万が一お済みでない方がおりましたら、テニス協会へ一報入れてみて下さい。

「迷惑電話はおやめ下さい」

と怒られるはず。

はい、突然本編に突入します。

皆さんは呑みへ出掛けるのがお好きだろうか?

コロナになってしまったのでここ二年は外へ呑みに行く機会もすっかり無くなってしまったのだが、僕は一人で呑みへ出掛けることをちょっとした楽しみにしていた。

頻度は割と少なくて月に一度あるかどうかくらいだったけれど、自分で日頃作らないような料理や食材に出会えるのが愉しかった。

しかし、そこに人との交流はもちろん無いのが大枝である。
何故ならハナから酔ったもん同士の居酒屋での出会いなんて、大抵ロクなモンじゃないからだ。
※悲しいかな、特に男同士は。

以前、都心の居酒屋で隣り合わせた歯抜けのジジイがたまたま同郷だった。もちろん地元の話で盛り上がったのだが、「駅にSLが停車するか否か」という実に次元の低いレベルで口喧嘩になり、周りも巻き込んでしまったのでそれ以降呑みへ行っても無闇に人と話さなくなった。

正解は、停まります。

分かったかジジイ!!まだ許してねぇからな!!分かったら歯を入れろ!!金がねぇなら碁石か飛車でも詰めておけ!!

と、前置きが長くなったが(いつもだけど)居酒屋にもまぁ色んなタイプがあって、入った瞬間に元気な店員達が怒声さながら

「ああああーっしゃーせーーー💢!!!(輪唱)」

と出迎え、

「おまっどうざーーーー💢!!(おまちどうさまです)」

と酒や料理が運ばれ

「はい!カシオレ一丁💢!!」

というオーダーが五分に一度入るタイプの居酒屋なんかも、まぁまぁあったりする。

そういう所の店員のネームプレートには「ゆっぴ 将来の夢:ダンサー」などと書かれている事が多く、僕は優しい性格なのでゆっぴちゃんがバイトを退職し、世の中の現実に疲れ始めて来た十年後くらいに家のポストにその名札をこっそり届けてあげたくなってしまったりするので、その手の居酒屋にはあまり行かないようにしている。

埼玉県民なので繁華街のある場所なんてのは限られて来るが、昔から通っていた川越の隠れ家的な焼き鳥屋さんが潰れてしまったので僕は一時期どうしたもんかいのーと、路頭に迷ったりしていた。

そんな時、通院の為に隣町へ行くと新しい居酒屋さんが出来ているのをたけちゃんは発見したのであった。病院でしっかり身体を治して、また壊しに行く創作家らしいビルドアンドスクラップなスタイルである。

看板のメニューを観てみると、どうやら餃子がメインのお店でラーメンも提供しているようで、夜に居酒屋として機能するらしい。
完全なる個人経営のお店でチェーンじゃないのがポイントたかし君だったので、夜を待って早速呑みへ行ってみる事にした。

店内は左手に厨房、ラーメン屋らしい赤いカウンターの上には東北産の日本酒がずらりと並び、右手の框を上がった畳の上にはテーブル席が三つ並んでいた。あまり広くはないお店だったが、いかにも地元っぽい派手でも地味でもない若者グループがわいわいと愉しげに呑んでいた。

入った瞬間、ガタイのイイ店主が発した

「いらっしゃい!」

というサッパリし過ぎず、コッテリもしていない挨拶も良かった。ある程度の距離感があるってことが大切。

早速ビールと餃子を注文して店内を眺めてみたが、変にオシャレにしたりせず、街のラーメン屋がそのまま居酒屋になりましたという無骨さもポイントたかし君パート2なのだった。
おまけに店内BGMは一切無く、テレビはあるけれど点けられておらず、店に響くのがグループ客と店主の楽しげな会話のみって所もなんだか雰囲気良いなぁと思ったのだ。

良いなぁと思ったので、餃子が美味しかったら店主に声を掛けてみようと思いついた。
酔って声を掛けるなんて日頃そんな事はしないのだけれど、和気あいあいなホッコリした雰囲気の中ならば心から伝えられるんじゃないかなー、店主もウレピーなんじゃないかなー、なんて僕は思ったのだ。

運ばれて来た餃子は本当に美味しくて、噛めば溢れ出る肉汁の旨みを、これまたパリッとした皮がしっかりと包み込んでいるではありませんか。
これはンマイ!よし、これはちゃんと伝えなければならない!と、僕は調子をこきはじめた。

店主はキッチンから僕を挟んで背後のテーブル客と楽しげに会話を続けている。

「店長、この前来てたマミちゃんとユウくんやっと付き合ったんだよ!」
「へぇ!なんだよ、すっかりデキてるもんだと思ってたけどなぁ。今度うちから一杯奢ってやるかぁ」
「明日のフットサル、マサさん(店主)来れます?」
「おー!行く行く!運動不足でメタボ街道爆進中だからさぁ」

と、ドッとした笑い声で会話が一瞬止まった隙を捉えた僕は、店主に向かって親指を立て、笑顔でこう言った。

「餃子!うまいっすね!」
「マサさん、長瀞のボートは!」

伝えたまではよかったものの、なんと僕の声と背後のグループの声がドン被りしたのである。
店主は僕に顔を向けると、物凄く気まずそうな苦笑いを浮かべ、

「あぁ……はぁ、そうですか」

と蚊の鳴くような声で答え、背後のグループからは

「今なんか話してなかった?」
「やだ、被っちゃってたんじゃない?」
「おまえ、ちゃんと見てから話し掛けろよ……」

などと、しかもヒソヒソ、クスクスがしっかりと僕の耳に届いているのである。
それから店主もどうしよう……と思ったのか、オーダーも入っていないのに突然僕らの前から消え、厨房で炒飯を炒め出したのであった。

あれだけ愉しげだった店内は太平洋ひとりぼっちのように鎮まり返り、聞こえて来るのは敵前逃亡した店主が振る中華鍋の音のみ。僕はあまりの気まずさに恥ずかしくなり、そのうち耳まで真っ赤になって行くのが自分でも分かった。そして、椅子に座ったまま直立不動でゲロを吐きそうになったのだ。

あーあ!話しかけなきゃ良かった!

話しかけなきゃよかった話しかけなきゃよかった話しかけなきゃよかった話しかけなきゃよかった話しかけなきゃ良かった

とシンジくんのように心の中で呟き続け、虫の息で「ごちそうさまです……」を伝え、とっとと会計を済ませて店を出た。
店の扉をパタン、と閉めた瞬間。店内から

「ヒャーッヒャッヒャッヒャッヒャッ!!」

という悪魔集団みたいな笑い声がドッと聞こえて来たので、僕は冷たい路地を歩きながら心の中で毒づいた。

「くそー、あいつらフレンドリーっぽい空気醸し出しやがって!!なぁにが「あぁ、はい、そうですか」だ!「ありがとうございます!」だろ!餃子は出来ても人間の出来ねぇ店長だなぁおい!!つーか、結局は村八分根性なんじゃねぇか!!埼玉県民どもがぁ!!(※僕もです)うううおおおお死ねぇ!!死に腐れえええ!!あいつらにー、呪いあれー!!呪いあれー!!」

と責任転嫁した挙げ句、その場に居た全員に死が訪れる事を心からお祈りしながら帰ったのだった。
ただ、若者グループを振り返って
「被ってごめんね!」
と手刀を切れば丸く収まる話しなんだけれど、あの時は今よりも若くて、ずっと苦かったのだ。

今日は「一人で呑みへ行くとこんなハプニングもあるよ!」っておはなしでした。

それではまた次の作品でお会いしましょう。
飲み過ぎ!注意!!
最後までお読み頂き……

「あざーあーーたぁーーーー💢!!!!(ありがとうございました)」



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