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【前編】 宗教法人に拉致されたよ、というおはなし 【エッセイ】

春も深まり夏を予感させる陽射しに故・鈴木その子も蘇りそうな気候になって参りましたね。
みなさん、ご機嫌如何ですか?

え?
……え!?
嘘……マジで、それはちょっと……あの、その答えはさすがに想定外っていうか……。

はい。よく聞こえなかった事にして、本題に入ります。

タイトルにびっくりされた方も多いかと思うが、今回のエッセイの内容は実にそのままの内容なのでびっくり損をさせる事がなく、筆者(僕)は早速安心しているのである。

かつて、「新興宗教ブーム」というのがあった。
今では信じられないようなトンデモ宗教もあり、あちこちからヘンテコ宗教が生み出され、キャラの濃い新興宗教が一時期はストリートファイターのキャラ選択画面ばりにズラズラと並んでいたのだ。

嘘みたいな嘘は大声を出し続ける事によりそれっぽい真実となり、それを盲信する人達が跡を立たない時期がこの日本にはあった。
頭に銀紙を巻いてみたり、車に渦巻を書いてみたり、死んだ人間をミイラにして生き返らせようとしてみたり、何百万円もする教祖の体液を買ってみたりと、まぁ忙しそうな人達で日本はいっぱいだった訳である。
大体は淘汰されつつも、いまだに息を潜め、時には堂々と活動している生き残りもいたりする。

そんな生き残りの団体で、危険が危ないので名前はギリギリ伏せるが何かを検証し続けているとある会がある。
人生、一度や二度は絡まれたことがある方々も多いと思う。
これは僕が実際に体験し、いまだに恨みを持ち続けているある出来事について綴った大スペクタル新興宗教物語的ニューエイジメント・ストーリーだ。

なんと、あまりに壮大なのでエッセイのクセにわざわざ前後編に分けてお伝えするのである!
(ドドーン!波がザパーン!火薬がドーン!火山がボカーン!そこへ現れるのは空飛ぶ絨毯に乗る石原軍団)

僕が高校二年に上がったばかりのある日。あれはハルウララかな陽気に負ける事なく、おうちに引きこもってドラムのスティック練習をしていた時だった。
僕宛の電話だと、母親が階段の下で叫んだ。※母親はいつも階段の下から僕の名前を大声で呼ぶので、友人達がよく真似をしていた。しかも似ていた。

携帯ではなく、家電に先輩を名乗る人物から電話が掛かって来たのだ。
電話に出てみると妙にねちっこい喋り方の、しかも知らない男の先輩からの電話だった。

「あのう、僕は同じ高校の「イシイ」っていうんだけどぉ……わかるかなぁ?」

電話に出てみたけれど全く分からない名前だったので、僕は不審人物に違いないと思い、すぐに電話を切ろうと思った。

「いや、全く分からないっす。失礼します」
「待て待て待て、君に用事があるって言う人達がいるんで……至急商工会館に来てくれないか?」
「呼び出しっすか?」
「まぁ、そういう事だよ」

はぁ、呼び出しかぁ……。
そう、その時ちょうど思い当たる節が僕には全くない訳では無かったのだ。
僕は軽音楽部に所属していて、あるめちゃくちゃ怖い先輩が自分のギターを部室に持ち込んで置きっぱなしにしていた。
僕はそれが軽音楽部の物だとばっかり思っていて、そこへやって来た新人の後輩くんが

「あれ?このギター持って帰って練習していいっすか?」

なんて言うもんだから、何も知らなかったドラマー・たけちゃん(僕のことなのでアル!)は

「へぇー、いいんじゃない?(俺ドラムだし)」

と生返事を軽くしたところ、なんと持ち帰ったギターが盗まれた挙句、売り飛ばされるという大事件に発展してしまったのであった。
無惨なことに、持ち主のめちゃこわ先輩はハードオフで自分のギターと再会したらしい。
ことの発端はどう考えても、どの角度から見ても

「へぇー、いいんじゃない?」

と生返事をした僕以外有り得ない事件だったので、バレたかぁ、こりゃあきっとボコられるなぁ!と覚悟を生煮えにさせて電話を切ったのであった。

どうやって「知らなかったんです」の言い訳に説得力を持たせようか、嘘とフィクションと虚構を織り交ぜたストーリーを練りながら呼び出した電話の男を待っていると、全く見覚えのないガリガリで目がギョロギョロの剛毛かつ小さな小人のような人物と、竹のようにヒョロヒョロでロン毛を金髪にした顔が納豆のパッケージみたいなオカメっツラの二人組がやって来た。
小人は僕を見つけるなり、やたらフレンドリーな感じで片手を上げ、

「やぁ!」

と言うもんだから、僕は

「はい?」

と不信感丸出しの返事をした。どうやらめちゃくちゃ怖い先輩とは何の繋がりも無さそうな二人組なのは見た目だけで分かったので、一体僕は何故呼び出されたのかポカンしてしまったのである。
二人はそれぞれ名乗ったが、呼び出した目的が全く分からなかった。とりあえず歩こうというので歩いていると、オカメが慣れ慣れしく話し掛けて来た。

「最近ハマってるゲームとかある? ゲーセンとかさぁ、超行くっしょ?」

わぁ!なんだこの5軍の木村拓哉みたいな喋り方の男は!と思ったが、一応先輩らしいので話を合わせることにした。

「あー、バンドで忙しいんで行かないです。ゲームもやる暇ないです」
「へぇー、バンドやっちゃってるんだ。マジイケてるっしょ」

「バンドやっちゃってる」とは一体、どういうつもりの発言なのだろうか。それにマジイケてるっしょ、とはどの立場から物を申されているのか気になったが、全力で無視をした。

「あのー、何処に向かってるんですか?」
「しょ、商工会館へ、行こう」

小人はややどもりながらそう言ったが、そもそも思えば商工会館なんて高校生の行くような所じゃなかった。
いつもは町内会の会議が行われていたり、議員と町の人達との話し合いが行われていたり、つまり加齢臭がとっても漂っていて、そこへ訪れる人の全員が日曜朝に「サンデーモーニング」を必聴してるに違いない、というような激渋い場所だったのである。

商工会館へ着くと多くの人達が中へと入って行くのが見え、僕は小人に催促されるまま中の大会議場へ案内された。
そこにはパイプ椅子がズラズラと五十脚ほど並べられていて、どの椅子もほぼおばちゃん達で埋まっていた。
とりあえず座るように促されたので座っていると、あることに気が付いた。
どのおばちゃん達も正面を見ながら、数珠らしきものを必死に握り締めているのである。
その時になって、ようやく僕は気が付いた。
この怪しげな雰囲気……これは……

あ!宗教だ!

そう思ったが時既に遅し。後方の扉は悪魔の手先みたいな男性受付係によってバーン!!と閉められ、僕は両脇を小人とオカメに固められていた。
室内カーテンが下りると、係員がブラウン管の大型テレビジョンをコロコロさせながら持って来た。どうやらビデオを流すらしい。
ビデオが始まると団体の名前が映し出され、何やらでっかいホールで教祖らしき人物が登壇する様子が流れ始めた。

その途端である!

僕の周りに座っていた連中が全員拍手をしながら立ち上がり、口々に称賛の言葉を絶叫し始めたのである。
おばちゃん達の中には感極まって泣き出すババ、いや、人もいて、オカメに至っては

「フゥオーーーー!!」

と雄叫びを上げる始末。小人は必死な形相で僕に

「立って!ほら、立って!」

と催促したが、僕は関係ないので頑なに断り続けた。
画面の中の教祖はお金を前にしたら声がツートーンくらい上がりそうな成金ガマガエルのような見た目の人物で、話し始めたと思ったらやれ仏罰によって地球に隕石が落ちるだの、X JAPANでもないクセにやれ我々は破滅へ向かうだのとウダウダグダグダしゃべっていた。

こんなんまるでオウムと変わらないじゃないか!!
そう思ったが、周りの人達は手に汗握る……!と言った表情で必死に画面に食いついていた。
あー、変な場所に連れて来られたなぁ……そう思っているとビデオが終わり、僕は案の定過ぎるほど案の定、勧誘された。この時の案の定はビックリするくらいの案の定だったので、是非角界に入って頂き、幕内力士「案乃定」として頑張ってもらいたい!とさえ思った。

小人とオカメの勧誘を真顔で断り続けていたら地方少年部だか何だかという部隊長らしき人物が現れ、こんな事を言い始めた。

「ねぇ、君は幸せを増やせることが出来たら最高だなって思わない?」

なんだこのイケすかねぇ男は!俺の方がイケメンなのに俺の前でイケメンぶるな!!そう思った僕は、淡々と答えた。

「思わないですね。幸せを感じ続けていたらいつか慣れに変わるんで、結局意味ないと思いますし」
「いや……そうではなくて……」
「そもそも何で幸せになろうとしてるんですか?」
「いや、それは……その、人は幸せな方が良いに決まってるじゃないか」
「はぁ?不幸からは多くのことを学べますよ。なんなら教えましょうか?」

そう。この頃の僕はめちゃくちゃ屁理屈をこねる嫌な性格をしていたのだ。時には屁理屈を言い過ぎて大人からブン殴られる事さえあった。常に相手の言うこと成すこと全て叩き潰そうという姿勢をとっていたのである。

向こうは宗教家、こちらはパンクロッカー。ナメんなこの野郎と思っていると、諦め顔の部隊長が突然電話をし始めた。

「あのー……どうしても折伏不可能なんですが……はい、はい……あっ、本当ですか?待ってます」

部隊長は電話を切るなり、パァッ!とチューリップが満開になったような顔になり、こんなことを言って来た。

「青年部長がわざわざこれからいらしてくれるから、部長の折伏が受けられますよ!ラッキーですね!!」

僕にはその意味が全く分からず、心が動く事もなく、とにかく「帰りたい」と歩き回って足が疲れた時のギャルのように「帰りたい」を連呼していた。
しかし、ここは敵の団体が借りている大会議場。もちろん「帰りたい」が通じるはずもなかった。
しばらくして後方の扉が開かれると、「バカボンのパパ」のような見た目の、鼻毛ボーボーの小太りのオッサンが突然現れた。

「やぁ、待たせたね」

うわぁ!なんか変なの来た!僕はそう思ったが、この後にバカボンパパに言われた一言は今でも胸に深く刻まれる呪いの言葉となるのであった。
おまけに、かなり強引な手段を取られた。

そんな事になろうとはつゆ知らず、僕は「帰りたい」をひたすら連呼し続けていた。

後半へ続く



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