写真と土の関係
「写真と土の関係」とは?はて?
土を触っていれば、「強い」写真になるのではないか。より強い表現になるのではないか。ここ最近、私はそう思っている。
そんなことを思い始めたのは2年ほど前。初めてお味噌汁を作ってからだ。その後、少しずつ料理をするようにもなった。すると不思議なもので、大地や地球とシンクロするような感触を得た。そうか、こういうことだったのか!と腑に落ちた。自分が何か大きなサイクル、循環の一部となり、自然の一部になったような気がした。それは日増しに、包丁を握る度に強く感じるようになった。またその頃に読んだ坂口恭平さんの「cook」という本にとても共感し、私が感じたことが全てここに、そしてより深く書いてあると思った。私は何か大きなことに気付き始めた予感がした。それは百姓の血というか、性でもあるだろうと思った。
冒頭の写真は郷里の鳥取県での、在りし日の私の祖父。90歳にもなろうとする老人が、真夏に畑で汗する姿だ。私が写真を始めて以来、帰省する度に祖父の生きる姿をフィルムに収めてきた。そしてその生き方に深く感銘を受けてきた。下記の記事でもそんな祖父の生き方に触れている。
田畑で働く祖父を撮りながら、よく祖父にこう言われていた。「撮るよりも手伝え。」結局撮ることに集中してしまったが、その時一緒に農作業をしていれば私の写真も違っていただろうし、私の生き方も変わっていただろうと今では思う。写真云々はさておき、人間としてのプリミティブな部分に触れる機会でもあっただろう。いつも祖父を撮っている時に少し後ろめたい気分と違和感を感じていた。後ろめたさは祖父を手伝わないことによるものだろうが、違和感はその原始の衝動、ヒトとして動物として生きていくために必要な所業に触れずにいたことによるものだったと、今では思う。
私は写真をする前に自然に触れ、土を触らなければならなかったのだ。もちろん、少しの記憶や体験はある。両親の実家はそれぞれ農家であり、小学生の頃までは家族総出で稲刈りや梨の袋掛けをしていた。そして祖父母は毎日のように野菜や苺などを届けてくれた。動物性たんぱく質以外の食べ物は、ほぼ全て祖父母が作ってくれたものを食べて育った。祖父母が田畑で汗し、家で苺のパック詰めをする姿が私の記憶に深く刻まれており、勤め人だった両親の仕事の内容はほとんど知らなかったが、代わりに祖父母の姿が「働く」という最初のロールモデルになったと思う。
そんなことを感じ始めると、今までの私の写真は何か土台が頼りない、絵空事だったような気がするのだ。何か大切なものを置き去りにしたまま、しないまま創っていたような気がするのだ。もちろん精魂込めて創ってきて何の悔いもないけど、おそらく次の段階に進むタイミングなのだろう。いまの私には土を触ること、祖先の生き方を辿ることがおそらく必要なのだろう。
これは百姓の系譜である私の話で、例えば都会の勤め人の系譜の人にも当てはまることかどうか、よくわからないけど、私は私のプリミティブな生き方に気付き始めたということだろう。舞踏家の田中泯さんや写真家の田附勝さんが田畑をされている意味も、最近ようやくわかり始めた。でも、それは小さな予感に過ぎない。実感や共感を持ち始めるのはこれからだろう。
そんな私はこの4月から市民農園を借りて畑をやってみることにした。生活に「土」が入ることになった。わずか3✕5メートルの小さな大地である。昨日、畑のペーハーを測定してきた。近所のホームセンターで鍬とスコップを見てきた。わからないことだらけである。幸いなことに私の自宅の周辺には畑や農園があり、観察できる環境にある。今までは流れる景色の一部だったそれらが、目を凝らし耳を澄ます教材になってゆく。行動が変われば視点も変わる。生き方も変わり、私の作品や発する言葉や着る服も変わってくるだろう。おそらく、「セレクト」が変わってくるのだ。変化するのは不安もあるけど、楽しんでそれを受け容れようと思う。これまで重きを置いていたことから開放されてしまうかもしれない。「自然」に従順に、流れるままに。アクセプト。ケ・セラ・セラ。多分そんな大袈裟なことではなく、当たり前のことなのだろう。私の祖先は生涯やってきた。自分の遺伝子や太古の記憶に寄り添うだけだ。言葉にすると壮大な感じがするけど、土と戯れるだけだ。サステナビリティとか、コモンの話はずっと遠いものだ。
週末は少し歩いたところにある金物屋で鍬とスコップを買って、畑を耕す予定だ。写真と土の関係。それは人間の太古の記憶に触れていくことだろうし、やがて私も土に還ってゆくまでの、その心の変化や有り様を記録してゆくことかもしれない。そして私自身が「身体性」を取り戻し、写真に身体性を引き戻すことになるかもしれない。
あまり言葉に頼ると頭でっかちになるので、書くのはこのあたりで。最近は俳優の東出昌大さんが気になっている。
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