「前頭葉に咲いた花」は、 僕を月へ連れて行った

あの日、子供だった僕の、
小さな前頭葉に花が咲き、

目の前の霧は晴れ、
そして大人になっていった。

あるいは、
大人になっていってしまった。
のかも知れない。


夏の熱さを、冷ますように、
雨が続いた後のTOKYO。

たちこめる霧で、
空へ向かって立つ、スカイツリーが見えない。


あの日の日付は憶えていない。
まだ「 霧 」という漢字も書けなかった頃、
という記憶だけだ。



ノートに鉛筆で漢数字を書きながら、

「 一、二、三 」と、

次の

「 四 」の間には、


何か、ひと続きではない、
大きな違いに戸惑ってしまった。

よこ棒「一」を、
ひとつづつ増やせば良い、
体感型の世界、
これなら僕にもできる!

から、

「形からして、ぜんぜん違うじゃん!」
それまでとは次元が違う、
「 四 」
形而上型の世界。
こ、これは・・・。

はじめは手が動かなかった。
一、二、三、までは大丈夫。

でも四に差し掛かると、
「ー」をもう一本、
自動的に4本書きたくなってしまう。


でも、練習するうちに、
何とか書けるようにはなった。


書けたときには、
「山に登ったら雲の上の世界、
そこには、知らない花が咲いていました」
みたいな感じ。


でも、
突然それは来た。


もう昔の僕とは違うんだぜ!! 


何だろう?
あの前頭葉に咲いた花を揺らした、
強い横風は。


それまで世界は、
掴みどころのない、大きな霧で、
ただただ頑張るしか術がない小さな男の子が、

「一、二、三」と「四」の間を、
ジャンプしたとき、

この世界の一端を、
垣間見ちゃった気がしたのかもしれない。


「もう昔の僕とは違うんだぜ」 感は、
ハンパなかった。

まるで20世紀末の大晦日に、
「サンタクロースはいなかった」と知って、
「声変わり」を終え、
「これからは、お酒を飲めるんだぞ!」
「明日から21世紀だからな!!」

ぐらいの熱さがあった。


でもそれは、

「もう、戻れないんだ・・・。」感を、


少し隠していた、
精一杯の虚勢だったのかも知れない。


あの頃、

男も女も、

猫も、

アポロ11号も

みんな大きな霧に向かって、

「行って来るぜ!」感が 

漂っていたから、かもしれない。


前頭葉に咲いた花は、
雨が続いた後、霧が立ち込めると、
今でも顔を出す。

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