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海外留学 よい推薦状に必要な情報

秋葉丈志

毎年たくさんの学生から大学・大学院留学やそのための奨学金の推薦状を依頼されます。その都度メールで必要書類などを書き送ってきたのですが、この際一か所に情報をまとめることにしました。

また、自分の学生に限らず、海外留学を考える方々にはこうした情報が役に立つかもしれないのでnoteで記事化することにしました。

さらに、「なぜそのような情報が必要か、それは自分の留学や将来のチャンスにどういう影響を与えうるか」をプラスアルファとして書き加えました(通常この部分は一々説明しない)。

留学とその先のチャンスへ、何ができるかを考えている方の参考になればと思います。


留学における推薦状はなぜ重要か


特に欧米の大学・大学院の場合、基本的に「入学試験」というものがありません。(SATやGREといった標準試験のスコアやTOEFLなどの語学のスコアは求められることがあります)

個々の大学は、上記のスコアを満たした学生の中から、志望理由書や成績証明などの書類で合否を判断します。そして、提出書類の一つである推薦状(通常2~3通)は、実際に合否を左右する材料になります。

従って、その学生のことをよく知る人(基本的に教員)が、その学生のことを真剣に、具体的に、かつ志望先が欲しがる資質を証明する形で推薦状を出してきているかが、重要になります。

これは裏を返すと、推薦状を書く側にとっても大変な作業です。すべての学生に同じ定型的な文章というわけにはいかないのです(それはプラスにならず、マイナスになる可能性すらある)。その学生に合わせて、最適の推薦状を書くためには下記のような様々な情報が必要になります。よい推薦状を書いてもらうためにも、こうした情報を丁寧に提供することが大切です。

補足1:日本では推薦状の下書きを学生自身が作る場合もあるようですが、これは本来は禁止行為です。客観的な評価を尋ねる推薦状の目的が損なわれるからです。提出の際に推薦状は推薦者自身が書いたものであることの宣誓を求めるところも増えています。

補足2:学部の交換留学の場合、所属大学の選考を経たこと自体でほとんどの場合、先方の大学も受け入れに至るので、推薦状はより形式的なもので済むかもしれません。他方で、私費での留学など、入試同等の選考を先方が行う場合は、推薦状はより重要になります。

推薦状を書いてほしいときはどういう情報を添えるか、それはどうプラスになり得るのか。

志望先の大学・学部・プログラムの情報

 当然ながら、どういう学部(プログラム)に留学するのかがわからなければ、それに適した推薦状を書くことはできません。学生が希望する履修分野がある場合、自身の授業での取り組み状況に加えて、その分野での授業の取り組みにも言及をしたいところです。
 また、大学院の場合は特に、志望する専攻分野と学部の卒業研究などの実績を関連付けた推薦状にできれば、より説得力があるものになります。

自身のstatement of purpose(志望理由書)

 これも上と同じで、本人の志望理由がわかった方が、より適切な推薦状を書けます。留学の志望理由には、留学先で学びたいことやその理由、そして将来の目標などを書くことが一般的です。そこで本人は「将来は国際公務員になりたい」と書いているのに、推薦状には「この学生は大変研究熱心で、将来は研究者になることを熱望しているし、その資質がある」と書いてあったら、内容がずれてしまいます。

成績証明書(履修科目と成績がわかるもの)の写し

 成績証明書を参照するのは大きく2つの理由があります。

 一つ目は、その学生の全体的な成績を把握すること。推薦状は、もちろん書き方は工夫しますが、ある程度「正直」である必要があります。そうでないと、推薦状全体の信用性が損なわれてしまいます。たとえば、ずば抜けた成績ではないのに「この学生は極めて成績優秀で…」と書いたなら、本当にこの教員はこの学生のことを知っていて書いているのか?と思われてしまいます。なぜなら、通常志願書類の中には成績証明書が含まれるので、審査員は両方の情報を持っているはずだからです。

 二つ目は、志望する学部や専攻と、これまでに履修した科目や成績との一致を確認するためです。たとえば政治学を志望しているのに、履修科目に政治学系の科目がなかったり、あってもBやCといった成績が並んでいたら、不利になる可能性が高いです。逆にその領域でAが並んでいたら、そのことに言及してプラスの推薦材料にすることができます。

補足:たとえば全体の成績が一見秀でていない場合でも、「1年生から4年生になるに連れて次第に成績が上がり(steady progress)、努力の成果が出ている」といった点に気づけば、言及することがあります。

CV(英文履歴書)

 学歴、職歴、などを定型的に書く和文履歴書と異なり、英文履歴書(Curriculum Vitae=CV)は、用途に応じて、自分で項目や書き方を決めて、見栄えの良い形に仕上げていきます。たとえば研究職になるための英文履歴書なら研究実績を前面に、学会報告や出版歴、受賞歴を項目として先に出すでしょう。また就職のための英文履歴書は、就職先の企業がほしがるようなスキルとそれを裏付ける経験を前面に出して書きます。

 この情報を求めるのは、課外活動経験やインターン・ボランティアなどの経験が豊富だったり、社会的なインパクトのある活動に取り組んでいたり、何かしら突出した経験を持っている学生は、英文履歴書をまとめるとそれが浮き彫りになるからです。
 それが志望先が求めるもの(志望先にもよりますが、リーダーシップ、創造性、自発性、社会性、コミュニケーション能力、専門スキル等)と関わる場合は、推薦状で言及することがあります。

 また、特に欧米に留学する学生や国際的なキャリア志望の学生には、今後も進学やインターン、就職の場面で英文履歴書が必要になる可能性が高いので、その訓練としても作ってもらっています。

授業での提出課題のサンプル

 私は基本的に自身の授業を履修したことのある学生にのみ推薦状を書いています。そしてライティング(提出課題)が比較的多い授業を行っているため、それに少し目を通してから推薦状を書きます。
 授業で書いたものを見れば、語彙や論理的思考能力、整理して記述する能力、理由を示しながら丁寧に説得力を持って書く能力などがわかります。そして、推薦状に求められる重要な要素(多くの機関が明示的にこの要素を入れるよう求める)に、上記に連なるintellectual capacity(知的能力)やwritten communication(文章力)があります。
 もし手元にこれを判断する材料が乏しい場合には、あらためて提出課題のサンプルを求めることがあります。

その他の留意点

 以上は、これまで私が推薦状を書くと決めた学生に求めてきた情報です。丁寧に情報を出してきた学生には、自分も丁寧に推薦状を書く意欲が増します。そういう学生はだいたい志望していた留学先に合格していきます。

 個々の推薦者が求める情報は、上記と異なる場合もあると思います。ただ、概ねこのバリエーションで、推薦状を書くための素材になります。ちなみにこれらは追加的に求める情報であって、推薦者にとって一番の素材は「日頃の授業でのパフォーマンスや態度」です。

書く人にも時間を

 忙しい時期には同時に多数の執筆依頼があり、数週先まで執筆日程が埋まっていることがあります。
 教員も授業や授業準備、採点、面談、研究、会議、また家庭や育児の合間を縫って、推薦状の考案・執筆を行います(多くの場合、週末や夜間・早朝にこの仕事をせざるを得ません)。
 その時間を考えると、基本的には一カ月程度の余裕を持って執筆者に依頼してほしいと思います。直前の依頼になってしまうこともあるかもしれませんが、その時は執筆者の時間にも配慮して、丁寧に事情を説明し打診するとよいと思います(私もかつて多くの先生方にお世話になりました…)。

 
 以上、参考になったなら幸いです!

(2022年3月23日初版公開、11月23日最新更新)

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