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🇹🇭「巨大な象がいるの」@カオサン通りから2005

「511番のバスに乗りなさい、真っ直ぐ行けば巨大な象の像に会えるから」

カオサン通りのインターネットカフェでメールチェックをしていると、学生時代の友人からこのメールがあった。

当時のタイではとっくに携帯は普及していたが、貧乏旅行を気取る私は携帯はおろか、クレジットカードすら持っていなかった。

カオサンの一泊150バーツくらいの水しか出ない共同トイレ付きのシングルに泊まっていた時代だ。

表に出た。2005年当時のカオサンの写真だ。まだゲストハウスに囲まれてはいたが、タイの若者向けのクラブも出来、バックパッカー街としての役割の終わりの始まりの頃だ。

「511番のバスに乗りなさい」
このメールの主は年下の女性だった。私に影響力を与えた人だ。私がこうして何度目かのタイに来てるのも彼女がきっかけだった。

「巨大な象の像ってなんだよ?」

パッタイは一皿20バーツ。
(今では50くらいするだろう)

地面に座り、パッタイを喉に押し込みながら明日の予定をボーッと考えていた。

陸路でカンボジアに行くバスは明後日ファランポーンから出る。明日は暇だ。

バンコクのバスに乗ったことがなかったし、当時の私にとって、カオサン通り以外のバンコクは未知だった。

「511だな」

朝、バックパックをベッドにワイヤーでくくりつけ、現金を小分けにして部屋のあちこちに隠してから表に出た。(いまならセーフティボックスのあるホテルに泊まるのだが)

「511, ハーヌンヌン」

そのバスはカオサン近くの大通りからすぐ乗れた。オレンジ色の冷房車だった。

乗るなり、運賃を回収するおばさんに「大きな象がある場所に着いたら教えて欲しい」と頼んだ。私は一枚のコピー用紙を渡した。それは昨夜ネットカフェで印刷した「大きな象」と思わしき写真だった。

周りの乗客達も身を乗り出して、

「サムプラカーンのあれちゃうか?」
「いや、こんなもの知らんわ」
「いや、間違いないわ、サムプラカーンや」

勝手に関西弁に変換されて会話が聞こえて来る。1人の女性が(大丈夫、マイペンライ)と言いながらバシバシと私の肩を叩いてガハハと笑ってきた。

バスはスクンビットをひたすら南下を続けた。
エカマイを過ぎた辺りから未知の世界だった。

周囲の建物もめっきり減り、不安が募るばかりだった。

小一時間ほど走ると、さっきの「サムプラカーンのあれや」と言っていたおばさんがニヤニヤしながらタイ語で話しかけてきた。

「あれや、あれ見えるか?あれやろ、な?あれに決まってるやろ。だから言ったやん。あれに決まってるんや、見て見いや」

と言っている(ように見える)

それは突然視界に現れた。

ドーン!!
なんだあれは?

関西弁のおばちゃん達を先頭に他の乗客もザワつき始めた。「早く降りなさい」と言っている。

思った以上のインパクトだ。
私のネットカフェで印刷した画像では大きさが分からなかった。せいぜい、お参りできる仏像くらいかと思っていたのに。

「たまげたなぁ、自由の女神像かよ」

真下に来ると気付くことがある。
この像、頭が三つあるのだ。

真下から見上げた。
たまげたなぁ、ホントに。

「体内に入れるわよ」
受付係なのか、アイス売りのおばさんなのか見分けのつかない女性が言う。

体内?どういう事だ。
このおばさんに入場料を払うことにした。

ズーン!!

象の体内は、ステンドグラスを天井に持つドーム型をしていた。奥には仏像が鎮座している。

もう気付いていた。
バスの乗客達も知らなかったわけだ。
この三頭の「象の像」は歴史ある像でもなんでもなかった。最近出来たばかりだった。

帰り際、トボトボと反対車線のバス停に向かう陸橋から撮った写真だ。つくづくシュールだ。

「511のバスに乗りなさい、大きな象が…」

大きすぎるわ(笑)

ネットカフェでたまたま彼女のメールをキャッチできてラッキーだった。

明日はチェックアウトしてアランヤプラテートに向かう、そこから陸路でアンコールワットへ行くのだ。

「今夜もパッタイにしよう」

ーータケシ




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