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コーチ・テック カオスマップ2020

アクセラレーターという仕事において、"メンタリング"という形で、起業前の起業家/社内起業家の方とお話させて頂くことがしばしばあります。事業テーマ、課題仮説等が決まっていない状態で、"そもそも何がしたいのか?"であったり、"なぜ行動に落とせていないのか?"、"どのような資源が自分の周りにあるのか?”などを引き出し、実行に落とし込んでいくためのおプロセスです。これはいわゆるコーチングという手法であり、この分野は北米ではマインドフルネスと同様にめちゃくちゃ普及してます。("メンタリング"と"コーチング"は違う等の議論に入ると沼なのでスキップします。あと私自身はメンタリング得意ではなく・・。)

じゃあこのような1on1で抽象的な問いかけをしていく活動が現在どのようにテックでアシストされているんだろう?という素朴な疑問から、世界のコーチング x テックなスタートアップについて調べてみました。

1. そもそもコーチングとは?

コーチングを「目標達成に必要な知識、スキル、ツールが何であるかを棚卸しし、それをテーラーメイド(個別対応)で備えさせるプロセスである」と定義しています。つまり、コーチングとは自発的行動を促進するコミュニケーションのことをいいます。現在では組織のマネジメントにおける人材開発手法として、多くの企業・組織が、人材開発、リーダー育成、組織開発のためにコーチングを導入しています。(出典:https://coachacademia.com/coaching/

日本でコーチングといえばコーチ・エィさんだと思いますが、上記のように定義されてます!

どちらかというと、コーチングはエグゼクティブ・コーチングという形で、企業のCEOやCレベルの人間に伴走するモデルから広く普及したようですね。従って、元来高価なサービスであり、プロフェッショナルファームや名コーチによる、スケーラブルではないビジネスモデルです。ところが、組織開発やリーダー育成の重要度が上がっていくにつれ、コーチングの対象となるn数が増えたり、また、マネージャー=コーチとしての1on1が興隆することにより、コーチングのスキルを内製化する必要が増したり等と、コーチングのあり方が変化して来ています。その中で、コーチングをスケーラブルにすべく、今回まとめたスタートアップが出てきているようですね。

資本が集中している領域ではないですが、100Mドル以上の調達をしているスタートアップもいたり、にわかに盛り上がっているように見えます。特にSales Enablement文脈での営業向けコーチングはアツいですね。

ちなみにアメリカでは、1.2兆円の市場規模だとか。

2. コーチングフロー

ではコーチングがどのような流れで実施されるか簡単に見てみましょう。

ステップ1. 現状を把握し明確にする
ステップ2. 理想の状況をイメージし明確にする
ステップ3. 現状と理想の状況の違いとギャップを明らかにし、その原因を見出す
ステップ4. 行動プランを策定する
ステップ5. フォロー&振り返り(出典:https://conlabo.jp/coachinglab/skill/coaching-flow/)

上記の5段階でフローが進んでいきます。この中で、ステップ1と2のためのアセスメント(多くのチェックリスト。現状を明確にするため、どのような状況に置かれているかをチェックリストからクリアにする)、

このフローはある意味SaaSが得意な"ワークフロー"であることから、コーチを支援するSaaSがこの辺をカバーしています。

それでは見ていきましょう。

3. コーチ・テックカオスマップ2020

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定量的に把握できてはおりませんが、調べていたらめちゃくちゃ出てきたので結構絞ってしまいました。(転職/キャリアプラニングに関するコーチング、ジム/ウェルネス系のコーチング、ヘルスケア/マインドフルネス系のコーチング等。これはどこかでアップデートできれば)

B2Cがもっとあるかと思いきやあまり見つからず。Enterprise SaaS中心ですね。業務プロセス単位でのプロダクトの住み分けはあまり見当たらず。

以下各カテゴリーの代表的なスタートアップになります。(資金調達額やステージの情報は全てCrunchbaseより出典)

4. 事業会社向け(全社員向け)

SoundingBoard

ここはどちらかというとコンサルメイン+SaaSでアシストというビジネスモデルに見えます。

1. 企業の風土をアセスメント 
2. コーチング対象となる社員とコーチをマッチング
3. コーチによる週次のリモート1on1
4. フィードバックがダッシュボードに溜まっていきHRが改善

このような、シンプルにワークフロー最適化+ダッシュボードによるKPI管理の組み合わせがこの分野では多い気がします。(そもそも、コンサルをSaaSで部分的に代替しようとすると大体このパターンになる。)RakutenやAirTableが顧客のようです。

BetterUp(Series C:累計調達額144.8M USD)

ここはSoundingBoardよりも若干テックのフレイバーがあります。ほぼSoundingBoardとほぼ同様のワークフローに対して、以下が追加されています。

Evidence Based Assessments (サーベイとなる従業員ごとにパーソナライズド?されたアセスメント)
機械学習によるコーチとのマッチング
Micro-Learningコンテンツの提供(担当コーチがコンテンツをキュレーションして提供)

Workday, Airbnb, Lyftなどとそうそうたるスタートアップが顧客リストに。

Torch(Series A : 累計調達額18.9M USD)

ここは去年バズったa16z(アドリーセンホロウィッツという名門VC)のPassion Economyの記事でも取り上げられていますね。Passion Economyは基本的にMarketplace x SaaSです。TorchがEnterprise顧客を連れてきて、そこで各個人事業主であるコーチが収益をあげる。その際に、複雑な行為をシンプルにするためのSaaSをコーチに提供して、プラットフォームからの離脱リスクを下げる。コーチ向けのサービスの中身が見えないので、あくまで推測ですが・・。カタログスペック上はほぼBetterUpと同じに見えます。

CoachHub(Series A:累計調達額22M USD)

ここは欧州のスタートアップですね。顧客も欧州企業が中心。基本このカテゴリーのプロダクトはほぼ同じです。コーチングのワークフローの最適化 x Enterprise SaaS。Webからわかる情報で判断すると、ここはモバイルファーストなUIに力を入れている感じ?また、24時間コーチにチャットできるのがユニークもですね。

5. 事業会社向け(営業/Sales Enablement)

Sales Enablementは2019年に日本のSaaS界隈でも盛り上がりましたね。

Showpad(累計調達額 159.5M USD/6社買収)

既にカテゴリーキングと言っても良さそうですね。シングルプロダクトではないので、あくまでコーチングの文脈で言及すると、営業のセールストークを録画して、ハイパフォーマーな営業のそれと比較した上で最適化していき、そのギャップをプロダクトによるスコアリング及びコーチングで埋めていくものです。適切なコーチングを施すために、"どのようなスピードで話しているか"、"相手の話を聞いているか"などスコアリングしてあげるのが特徴です。

Sales Enablementについては詳しくは下記の書籍をご参考に。ざっくり言うとデータドリブンな営業組織を作り、実際に成果を出すための仕組みです。(各セールスチームのサイロ化予防、データドリブンな教育制度など様々な要素が・・・。)

6. 事業会社向け(マネージャー向け)

Pathlight(累計調達額 2.2M USD)

マネージャーが部下のパフォーマンスを評価・分析し、サポートするためのSaaSです。サポートが必要そう、目標への達成度が低いシーンで1クリックでコーチングのブッキングができる、と言う仕組みなので。あくまでコーチングはone of themな機能ですね。

7. 事業会社向け(OKR特化型)

WorkBoard(Series C:累計調達額 66.6M USD)

OKRは日本でも大分流行りましたね。組織のOKR Transofrmationを導入コンサル的に入れつつ、SaaSで定着させる事業は世界でも結構あります。

8. 事業会社向け(メンタルヘルス)

Modern Health(Series B:42.4M USD)

9. その他事業者向け(コーチ向け)

CoachLogix

コーチがコーチングをよりやり易くなるためのツールです。
セッションのスケジューリング、資料共有、サーベイの発行・管理、進捗管理などがまとまってます。コーチングに必要な要素がテンプレート化されており、また、API連携も多く、中々使い勝手は良さそう。

クライアントとのワークスペースも兼ねているので、White labelでの展開も可能な点がユニークです。他方でEnterprise側にも複数のコーチをマネージするためのCRMのようなものも提供しており、中々良さそう。

Satori

こちらはCoachLogixの機能に加えて、コーチのマーケティングサポート機能が充実しているように見えます。(Mailchimp連携によるキャンペーン+リード管理、決済、レビュー等)

Nudge(累計調達額1.5M USD)

今回見た中で最もコーチングに最適化されている度合いは希薄な気がしました。グループを作れて、グループチャレンジが設定できて、その進捗がダッシュボードで見れる・・・・。かなりピボットしているスタートアップなようなので、まだ検証中なのかもしれません。

10. その他事業者向け(スタートアップ向け)

Mentornity

従業員向けや学生向けのプログラムを用意しつつ、スタートアップファウンダーに特化したものを持っている点が面白い。(スタートアップ向けは海外ではアクセラレータープログラムが広くカバーしていることもあって、この領域に張っているスタートアップはレアです。)

複数のメンターをワークスペースに招待し、メンタリングセッションがカレンダーで予約できる。トピック毎にメンタリングを通じた成果をダッシュボードで管理ができる。メンターとスタートアップファウンダーのマッチングルールなど、個別にルール設定ができる。プラットフォーム上でビデオ会議ができる・・・。等等。確かに、アクセラレーターやメンターのペインをおさえてますね・・。

11. テック/ビジネスモデル(AI)

Cultivate(累計調達額10M USD)

既存のコーチング系のソリューションが大体サーベイの取得による組織・人物の情報収集から始まるのに対して、Cultivateはサーベイいらずと言うのがユニーク。マネージャーの過去3ヶ月分のメールやSlackの情報をAIが解析し、メールのレスポンスのスピードなどの行動データから、マネージャーが何をどう変えるべきかAIがコーチングしていきます。(どの部下とのインタラクションが足りてないか等)コーチをテックで代替するPassive Coaching Solution。

※気が向いたら追記していきます!

コンサル x SaaSでどれ程スケーラブルな事業を作れるか?と言うのを個人的なテーマにして追っているのもあり、BetterUpやTorchは結構参考になりました。。。

The Prosumerization of the Enterpriseの文脈でもコーチをエンパワーメントするSaaSも面白い。

有難うございました🙏


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