ベンチャーキャピタルのDX-AIを活用したData Driven VCの登場-
久しぶりのnoteです。イノベーション・ソーシング 管理SaaSを展開しているInnoScouterの川島です。
今年の3月に、Gartnerより結構衝撃的なレポートが出ました。
"2025年までに75%のVCが投資の意思決定にAIを活用するようになる。"
営業のAI化などSalestech領域では既に言われていることではありますが、同様のトレンドシフトがベンチャー投資でも起こるだろう、と。
実際この予測を裏付けるべく、ここ1ヶ月でAIを活用したVCがデビューしてたりします。
TLC Collective:畳み込みニューラルネットワークを活用したベンチャー投資モデルを実験中
(その他AI投資にチャレンジしているVCは後述します。)
是非は置いておいて、このような投資スタイルの現実性が増してきた背景には、未上場株式に関する情報量の増加があります。CrunchbaseやCB Insightなどのスタートアップデータベースは勿論、OwlerやLinkedinなどの3rdパーティーデータを組み合わせ、さらに社内外の独自データソースを活用することにより膨大なデータ量を取り扱うことができます。例えば、WebのトラフィックやPRでのmention数などからGrowthを測定したり、シード期のチームであれば、対象市場の魅力やチームのバックグラウンドをスコア化するなどして、可視化することができます。(実際に、後述する"Data Driven VC事例集"で取り上げているVCの多くは、シード期のスタートアップの分析・数値化にフォーカスしています。)
このようにして、ソーシング からスクリーニングまでを自動化する"Sourcing Automation"を実現し、投資後サポートなどのバリューアップ活動により時間を投下する。このような世界観を実現するのがData Driven投資になります。
とはいえ、従来のベンチャー投資は"スタートアップ村"と揶揄されるようなクローズドなコミュ二ティの中で得られる独自の情報やネットワークにより支えられていました。それが有効な投資戦略として機能していた中で、なぜAIをベンチャー投資に取りいれるのか?
1.【背景】世界的なスタートアップブーム
日本国内では1万社程度と言われているスタートアップですが、韓国は3万社、中国は10万社、北米では39万社と言われています。いわゆるユニコーンの件数も年々増加傾向にあります。(正確な統計データはありませんが、恐らくスタートアップ数も近似したペースで増加しているのでは)
(出典:"THE GLOBAL STARTUP ECOSYSTEM REPORT 2020 State of the Global Startup Economy")
結果として、スタートアップのソーシング 及びスクリーニングにかけるコストが膨大になってきています。
(出典:"The Future of VC: Augmenting Humans with AI" Andre Retterath)
このような課題はVCのみならずCVCにも存在しており、グローバルのトップクラスCVCだと、2,000~2,500社が平均的なソーシング 数になります。(自社調査によると、日本では1,000社前後のようです。)
ファンズ・オブ・ファンズの活用等により、ソーシング 数を増加させることは可能ですが、それらをちゃんとスクリーニングしていくにはシンプルにチームの頭数が必要になるのが現状です。
AIの活用により、
1. ソーシング できるスタートアップ数増加
2. 独自の評価基準を学習させることによりスクリーニングもある程度自動化
のいずれも実現できるため、チームの規模化が難しいベンチャー投資・コーポレートイノベーションの世界での現実的なソリューションとして注目されているというのが考えられます。
2.【背景】 Diversity & Inclusion問題
これは特に欧米では大きな問題になっていますが、ベンチャー投資を受けられる起業家には偏りがあります。
2013年から17年にかけてヴェンチャーキャピタル(VC)が投資した起業家の77パーセント以上が白人だった。黒人はわずか1パーセントにすぎない。(下記記事より引用)
とも言われており、VCとしてDiversity & Inclusionにどう取り組むのかというのが大きなトピックになっています。
パターン認識、既存のネットワーク、そして直感による投資にはバイアスがかかりやすい中、Data Driven投資ではバイアスフリーな投資が実行できる可能性があります。実際に、アルゴリズムによる投資を行なった結果、42%が女性ファウンダーの企業となったというSocial Capital (Capital-as a serviceというData Driven投資を提供していた)のデータもあります。
3.【背景】不安定な投資リターン
(ここはまだ理解が追いついてない所ではありますが・・・)ベンチャー投資の世界は、500社に投資することによってファンドとしてのパフォーマンスの予見性が高まると言われています。
(出典:"The Pervasive, Head-Scratching, RiskExploding Problem With Venture Capital:Three VC experts run the numbers and conclude: Everyone’s doing it wrong." By Kamal Hassan & Monisha Varadan & Claudia Zeisberger)
こちらのペーパーでは、モンテカルロ法でVCのリターンをシミュレーションた結果、地理・Vertical共に分散させ、500社に投資することによってベンチャーキャピタルをIndex Fund的に安定運用できるという結果が出ています。
4.【考察】Data Driven投資は薔薇色か?
しかし、勿論、AIを活用したData Driven投資だけで全てがうまくいくというわけではないでしょう。
Harvard Business Reviewが独自で構築した投資アルゴリズムと255名のエンジェル投資家による投資のリターン比較実験を実施した結果、初心者投資家より優れていたが、他方で熟達投資家よりは劣っていたという結果が出ています。
このように、ダウンサイドリスクを可視化する目的には活用できるが、何倍ものリターンを出すにはまだまだ経験と勘が必要になるというのが現在地でしょうか。従って、ハイブリッドモデルでの運用(データを参照しつつ意思決定を行う)が現実的です。
5.【考察】インバウンドからアウトバウンド中心へのソーシング 手法のシフト
グローバルでもまだまだ実験フェーズではありますが、Data Driven投資を実装すると、ソーシング 手法は、国内でのインバウンド中心からグローバルでのアウトバウンド型にシフトしていくと言われています。
(出典:"The Future of VC: Augmenting Humans with AI" Andre Retterath)
Sourcing Automationにより、処理可能なソーシング 数が増加します。総当たり的ではなく、ある程度スクリーニングができている状態でのアプローチになるため、確度の向上にも役立ちます。これはZoominfoなどによりSalestechの世界では当たり前になっていたアプローチですね。
6.【考察】日本での展開
とはいえ、日本でも同じようにVCにおけるData Driven投資の導入が進むかというと、必ずしもそうではないと考えています。というのも、多くのVCが国内投資にフォーカスしており、日本国内単体で見ると、スタートアップ全体でも約1万社と世界に比べてまだまだ少ない状態だからです。
しかし、海外投資を中心に行なっているCVCにとっては必須な方法論となるかもしれません。ただ、現状この手のサービスはSaaS型では提供されておらず、インハウス型で各VCが構築しております。(かつコスト的にもそこそこ・・・)
InnoScouterもこの領域にアプローチしておりますので、ご興味があれば是非ご相談ください。
7. 【参考】Data Driven VC事例集
こちら代表的な企業のまとめです。おいおいカオスマップとか作ろうかなと!
Social Capital
SPACブームの火付け役ともされるVC。業界のディスラプター。
2017年より、AIを用いたデューデリジェンスを活用して$250,000までを自動で投資していくプログラムを実施。
Hatcher+
シンガポールのVCで、独自のソーシング ソフトウェアを活用したData Driven投資を実行している。
ファンドのリターンの安定化という観点から世界中で投資活動を行なっている。
InReach Ventures
他の誰よりも早く見つけ出して投資するために、2年+£5mをかけて"DIG"というソフトウェアを内製化した欧州VC。
EQT Ventures
"Motherbrain"というシステムを独自で構築している欧州VC。毎日200万社の企業をモニタリングしている。投資の30%はこのシステムで意思決定している。
SignalFire
データサイエンティストとエンジニアを抱えるVC。Beaconというプラットフォームを開発。1000万以上のデータソースを持つ。
GV
GoogleのCVC。“The Machine” というアルゴリズムを活用した投資を行う。詳細は不明だが、ソーシング とスクリーニングに活用されており、"投資すべき/注意して行うべき/投資すべきいではない"等方向性を示唆する。
NGP Capital
NokiaのCVC。"Q"というAI投資システムを活用して投資先を早期発見。他のVCがプレシード/シード期でのスタートアップの発見にアルゴリズムを研ぎ澄ませているのに対して、ここはミドル・レイター特化なのが特徴。
8.【参考】その他参考リンク
9. シンガポールのData Driven VCとの共催イベント実施
最後に宣伝です!
本文中でも紹介した、シンガポールのData Driven VCのHatcher+のManaging PartnerのJohnさんと、5/24 18:00-19:00にイベントを開催致します。日英同時通訳つきですので、本テーマに少しでもご関心ある方は是非ご参加ください🙏(Hatcher+はAIを活用した投資システムを構築して既に世界のスタートアップへの投資を開始しているFintech VCです。)
最後までお読み頂き有難うございました!
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