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電池ボックス座(ショートショート)

 もしも夜空を起動するための電源があるとしたら、どんな形だろう。
 夜風が髪を撫でるのに身を任せながら、そんなことを考えた。
 夜のジョギング中。今日はほんの少し、足取りが重い気がする。いつもより多めに働いたからだろうか。
 疲れでよどんだ肺の中を掃除するように、夜の空気を胸いっぱい吸い込む。
 ほんの少し体が楽になった気がする。それでは。と、先ほどの思考の続きをする。
 夜空に電源があるとしたら。
 空に輝く星のどれかがプラスのネジになっていて、そのネジをすべて外すと中から電池が出てきます! みたいな想像をする。
 夜空をパカっと開いてその中から電池を取り出す。すると、途端に世界中の星たちが消灯して、街の外灯だけが夜道の頼りになる。
 けれど、空を見上げても何もないというのは、少し寂しい。
 せめて月の一つでも出てくれていればいいけれど、夜空の明かりが全て消えるのであれば、きっとあの大きな月も消えてしまうのだろう。

 ちょうど頭上に、綺麗に四角に並んだ星がある。それこそ本当に、その中に電池が入っていそうなほど、そこに電池ボックスが取り付けてあります。と言われても、納得してしまいかねないほど綺麗に並んだ星。

 ……正直そんなものがあったら、こっそりと一度だけ開いてみたい。
 ほんの一瞬。本当に、少しだけ、そう思った。

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