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じゃぐち座(ショートショート)

 ……のどが渇いた。
 ジョギングをしながら思う。ふと見た腕時計の時間は午後八時。
 光る文字盤を振り払うような形で腕を下ろし、再びジョギングに集中する。
 けれど、依然のどの渇きは収まらない。そういえば今日、あまり水分補給をしなかったな、と、少し後悔する。
 足取りは比較的いつもと変わらないように思う。実際に体がどうなっているかはさておき。
 そんな状態で空を見上げたものだから、そこに浮かぶ星の並びが、まるで蛇口のように見えた。
 まだ小学生だった頃、校舎の手洗い場の蛇口から直接水を飲んでいた。
 夜空に見出した蛇口の形が、当時の記憶を呼び覚ます。
 同時に、今、空に浮かんでいる蛇口をひねると、一体何が出てくるのだろうと思った。
 そういえばいつだったか、レモン座という星座を作ったことを思い出した。もしかしたら蛇口からは爽やかな酸味を含んだレモン水が出てくるだろうか。
 それか、今から新しくコーラ座なんてものを作れば、空の蛇口からコーラが出てくるかもしれない。
 妄想は膨らむばかり。そんなことが起こったら、きっととても楽しいだろう。様々な飲み物を蛇口から出して、気分はすっかりドリンクバーだ。
 そこまで考えたところで、足がふらつく。
「おわっと……」
 危うくねん挫しかけるところだった。水分補給が足りないだけで、これほどまで運動能力に影響が出るとは。実に恐ろしいものだ。
「ああ、なにか飲みたいなあ」
 道の途中に自動販売機はあるけれど、財布は家に置きっぱなしだ。
 しょんぼりしながら、無理のない速度で家に帰る。家に帰ればきっと何か飲むものがあったはず。あれ、無かったっけ? どうだったかな……。
 淡い期待に胸を膨らませる午後八時過ぎ。

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