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5G線上のアリサ【第5章#9話】別れ

#9話:別れ



【視聴時間=02:30】


「……そうね、Siri“シンデレラ 魔法使い”で検索」

『検索が完了しました』

「読み上げて」

『シンデレラを助けてくれた魔女・魔法使いフェアリーゴッドマザー』

「この魔女であり魔法使いは最後、シンデレラに恨まれたかしら?」
清水/Siri

何百万もの日本住民が一斉に検索。

事実確認。

アニメ版では泣き崩れているシンデレラをスッと慰め、実写版では乞食で現れ恵んでくれたシンレデラに、感謝の気持ちで魔法を唱え変身させたと告げました。

「加護さんと八名蜂谷やなはちさんもスッと現れました。ネットの知識しかないあたしから色々なものを受け取って、100万人のフォロワーを与えてくれました」

優しい心と勇気に気付かれシンデレラは選ばれた。

姫は自分を愛する気持ちをきちんと他者へも向けられた。

ビビデ・バビデ・ブーの呪文は自分の人生を変えてしまったが―――

「―――許すことにします。あたしはあたし自身の不甲斐ない過去も、加護さんと八名蜂谷さんのことも。VRとリアル、変わっていくこの現実をもう恐れない」

〈やった! 5G線上のアリサ!〉

「これからも日本を導いて。IOE化の社会を作るまで続けて。あたしにとっての魔法使いだった総理大臣とその秘書様。老害とは言わせないで!」

〈GG! やなはち大勝利!〉

愛利沙も大人の階段を登り自分と社会を許しだした。

傷付くことを恐れることなく他人の気持ちも尊重しつつ、意見の言える女性のまま八名と加護を認めた。

「池田町民も、清水ちゃんを受け入れるツリートばかりが流れとるわ。わしからもみんなへ感謝しとくわ!」

「先生! 外で買い物しとった人も―――」

「―――あらあら、まぁまぁ……ずっとつんけんしていた隣の店の方々も―――」
池田/井口/平野

許し、許され壊れたガラスの靴は綺麗に修復される。

アリサの足へとピッタリはまりハッピーエンドを迎えていくが、加護はこの場で責任を取り東京に帰ると言いだした。

「清水先生、私はあなたと池田さんたちを傷付けてしまいました。ここにいた5年間は楽しく、豊かな学びの時間でした。明日、東京に帰ります」

「私からの謝罪会見もここまでです。これからも岐阜県揖斐郡池田町の発展を見届けます。洋次郎、無事許されたようだし、帰って来なさい。これは総理からの命令です」

「了解しました。名残惜しいですが帰還します。アリサのパソコン教室の皆様、5年間本当にお世話になりました」
加護/八名

なった以上、自分はいない方が良いと判断をした。

最後に総理は自身のツリッターアカウントのサブを消して、「アイムソーリー」と一言残し今日の議会をすべて終えた。

「ネット上の直接的な民意の反映、とても楽しかったです。今日でアイムソーリーは最後になりますが、地方が各々協力し合えば、池田町のように経済効果を生み出すことができます。それでは洋次郎、アイムソーリーアカウントの削除を」

「了解しました」

すると加護がもう一台のスマホを手にして操作を始め、無数に流れる感謝の気持ちと別れの寂しいツリートログへ、謝りながらアイムソーリーのアカウントを削除した。

「清水先生、この5年間、私の身におかしなことが起きていましたか?」

「いいえ……」

「私の人生が何か大きく変わりましたか?」

「いいえ」

「そうです。100万人に好かれるより、1人に愛されること。例え1000万人にフォローされても、実際はこんなものです。私のような将来独り身の者が、何を言っても説得力はないと思いますがーーー」

「ーーーいいえ! 加護さんがアイムソーリーだったからこそ、こんなにも幸せな気持ちになれたのです! あたしのようにロクな人生経験も積んでいない女は100万人にフォローされても何もできなかった。あなただからこそ―――」

「―――愛利沙さんがいたからこそ、私と八名は日本をここまで変えることができたのです。池田さん、井口さん、平野さん、あなたたちが出したアイデアが多くの人々のためになっていたのです。そのことには自信と誇りを持ってください」

「……ちょっと待ちいやーーー」

「―――先いただくで」

乗り出す池田の身体を制し井口が最初に殴り飛ばした。

VRメガネが宙に浮かぶ中、次は池田が殴りにかかる、けれども拳を合気で躱し逆に軽々と投げ捨てた後―――

「―――あ、すいません!」

池田の身体が宙を舞う中、井口に対して柔道を極め、条件反射で今までお世話になった二人を食い止めた。

「もぉ! 昨日飲んだ時に聞いたわよ。愛利沙ちゃんは優し過ぎるから、いざとなったら自分たちが食い止めようって! それなのにもう……」

「……加護さんが……」

「……強すぎる……」

総理の秘書は只者でははない。

あらゆる躾を習得している。

自分を止めるためだと分かった加護は安心しながら言った、「皆には心底感謝をしているからこそここにはいられない」と。

「空手と合気、柔道の帯以外にも複数。結論から言います。二人の戦力では私を止めることはできません。素直に諦めてください」

この時、愛利沙は加護を打つか何か言おうか迷っていたが、最後の最後で自分が傷付くことを恐れ、難を避け、惜しみながらパソコン教室を去る意中の背中を見つめ―――

「―――これっきりで終わりなの? 加護さんとあたしたちは……」

「……住む世界が違います。3年以内に終える職務のはずでしたが、総理のわがままで5年も……このような形ですいません……」

「謝れば済むというわけではない!」

「アイムソーリー。さようなら、清水先生。池田町の皆さん」

ツリッターは削除をされた。

VR機能も音信不通。

物理的にも精神的にも絶対勝てない相手と思い、愛利沙は加護のいない教室で3000億の小切手を掴み、涙を流し池田に渡し池田町へと還元をした。

「5年間の授業料……十分お釣りが来るわ!」

「……これが東京の人間のやり方かい……」

「そんなわけないでしょう! 加護さんとの時間はお金なんかで……ねぇ、愛利沙ちゃん?」

桜吹雪の舞うVRメガネを片手でちょこんと上げた。

清水愛利沙はもらったお金をどう使うかこの場で決めた。

自分が育てた生徒を町から逃がしはしないと言い出した。

「あたしのパソコン教室から退会したいのなら、先生に挨拶をしてからじゃないと筋が通らないわよね?」

3億円で岐阜県中を巻き込む捕獲計画を送信―ーー

G戦場ネットを駆使して生徒を捉える狂騒劇が始まった。


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『”Goodbye for Now”perfomed by Black Rhomb,used under license from Shutterstock』

『”Reconciliation”perfomed by Elliot Middleton,used under license from Shutterstock』

『”Heroes Never Last”perfomed by Tea Time,used under license from Shutterstock』

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