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アパートの窓[episode#03]

今回はepisodeシリーズの第三回。
お話のテーマは「アパートの窓」です。賃貸のアパートを探した経験のある人も多いと思います。でもアパートに住んで「暮らしやすいな」って思ったことのある人ってどのくらいいるでしょう?「暮らしやすいアパート」なんてあるんでしょうか?

今日はそんなお話を。


段ボールだらけの事務所で

2017年の3月。建てたばかりの我が事務所の中は、デスク廻りだけなんとか作業スペースを確保して、山積みの段ボールだらけでした。仕事に追われ片付けが進まない中、電話が鳴りました。

「不動産会社 Kさん」

それは以前住んでいたアパートの管理会社の担当者 Kさんからでした。
電話を取ると、慌てたような声のKさん。

「ちょっと急ぎでご相談があるんですけど、伺ってもいいですか?」

前述の通り段ボールだらけの事務所。お客さんを通すのはちょっとはばかられるけど…Kさんのただ事ではない様子に、狭いけどどうぞと言う他ありませんでした。電話を切り、急いでとりあえずKさんが座れるスペースを確保。Kさんの来所を待ちました。

慌てた様子で来所したKさん。段ボールの山に目もくれず、バサバサと図面を広げて「見てください」と。図面はごくごく普通な二階建て賃貸アパートの図面。そして状況を話し始めました。

Kさんの言い分

少し前にKさんのお母さんが亡くなり遺産を相続した。勤め先の不動産会社の社長から、その遺産を使ってアパートを建てたらいいと言われ、不労所得になるからいいかな、と言われるまま進めていたが自分の知らないところで間取りも決まり、今にも着工しようとしている。図面を見ると間取りも使いにくそうで窓の位置や大きさも適当に決めたように見える。この建物をこのまま建てていいのか不安だ。

実際に図面を見る

畳み掛けるように話すKさん。よほど不安なんだろうと思いました。僕は図面に目を落とし、内容を見ていきます。そしてすぐに「この平面図、敷地は描いてないけど配置は考えてるんですか?」と聞くと、社長さんは何も考えず、玄関前に駐車スペースを取るから逆に寄せるとしか言わないそう。

たまたまその土地は良く知っている場所にあり、周辺の環境も知っていました。その上でストリートビューを使って再確認したところ、確かに窓の配置は悪い。隣家の窓と位置が合ってしまったり、必要のない2階の大きな窓が中の様子を隣家に知らしめることになり、住人のプライバシーも隣家の不快感も目に浮かぶようでした。きっとこれでは住人が長く住まないだろうな、と想像しました。

結論と提案

そこでKさんに提案しました。どうせこれから確認申請を出すのなら、大きく変えられないにしても窓や少しの調整はした方がいい。ウチと直接契約してそこは修正しませんか?不快感なく暮らしやすい窓の設計ができるはずです。社長には僕から話をしてもいいですから、そうしましょうよ、と。

そして設計の調整へ

後日すぐに会社へ赴き、社長さんにも承認されてウチが設計に入ることに。現地の調査で周辺建物の窓の位置や高さを全て確認して、プランの調整と窓の再検討をしました。銀行決済の関係でスケジュールを急がされる中、なんとか納得するカタチにまで持ち込めました。

工事がはじまり、構造が進み窓の位置が確認できる段階になった時、Kさんはものすごく嬉しそうに「どの窓から外を見てても周りの家の窓が気にならないんですよ!これなら大丈夫って今ようやく安心しました!!」と言って下さいました。急がされて疲れたけど…引き受けてよかったなと思えた時でした。

完成、その後

Kさんも長年不動産賃貸の仲介をお仕事にされていて、住人が長く住んでくれる、空きの期間が短い建物があるという事は知ってらっしゃいます。でも普段何気なく見ている窓の外の状況が暮らしやすさに影響するとは思っておらず、こちらが恥ずかしくなるくらい思い切り誉めちぎって下さいました。

そして数年後に通りかかった時にも満室が続いているようで、改めてホッとしました。

アパートは事業物件です。持ち主が住むわけでもなければクオリティが少し下がっても安く早くつくることが良いとされています。
だけどやっぱり人が暮らす建物ですから、住み良くつくる、そのためにきちんと考える事は大切な事なんだな、そしてそれが事業物件だとしても安定した入居を支えてくれてるんだな、と教えられたエピソードでした。

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