ホフマニアーナ(著:アンドレイ・タルコフスキー)読書感想文
ホフマニアーナ(著:アンドレイ・タルコフスキー・訳:前田和泉・挿画:山下陽子、エクリ、2015)
映画監督タルコフスキーの死により幻になった8作目の映画のシナリオであり小説である。
自分にとっては難解な物語だった。
しかし印象に残った場面がいくつかあったのも確かである。
モーツァルトの『ドン・ジョヴァンニ』を観るため劇場のボックス席に入ったホフマンが壁にかけられた鏡を見ると舞台に登場しているドンナ・アンナの顔が映っている。
ホフマンは勇気を振り絞って尋ねる。
すばらしい芸術論であり、同時にどこか情けなくも感じる。
「夢だって現実と同じぐらい現実ではないかしら」←夢と現実の境界線が曖昧である。夢想家としてのタルコフスキー自身がだぶる。
「恐くないの?どうしてそんなことをする必要が?」←こういうふうに聞くのがとても良いと思った。
「何でもいいからどこか動物とは違うところを持っていたいからかもしれない……」←どことなく頼りなく、しかし真理を突いているようにも思える。
この難しい物語を訳者の前田和泉氏が解題でわかりやすく説明されていてとても助かった。
例えばタルコフスキーは幻視する人であり、
なぜなら執筆時のタルコフスキーもホフマンと同様の身体の不調を抱き、ホフマンの最期の姿はタルコフスキー自身の最期の姿を暗示しているかのようでもあり、タルコフスキーの「もう一人の私」であると言えるからである。
そして、「タルコフスキーの映画では、あるはずのない奇跡のような情景が描かれ、それが主人公に一種の救いをもたらすことがままある」。だから、ラストシーンの、色とりどりの気球が上空を舞い上がっていき気球に乗ったホフマンが家の窓から最愛の女性ユリア・マルクの後ろ姿を見、彼女が振り向いた時に暗闇が訪れる、というシーンが非常に切なく美しく印象的である。
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