詩381 悲しみに代わる景色 ~ 神をたぶらかすTに向けて
海の路傍
嘆きに暮れるTの霊魂は 朝暮に揺蕩う………
〈悲しみ〉に代わる言葉を探しながら
いつの日も
勝るのは面倒臭さの方
天上の園は いくら手を伸ばしても
Tには ただ拝むだけの場所
灯が照らし出す敗者
勝負で蒙った後遺症で
鼻を詰まらせて微熱(辛うじて息は通る。)
夢の匂いは次第にぼやけ
沸々として限りないものに思われた胆力も 徐々に枯れてゆく
けれども 置かれっ放しの夢は
腐らず飽きず 彼の傍にある
悪を蹴散らす胆力は
〈悲しみ〉の裏返し
真夜中の大重力に 気を狂わされ 死にたくなるような時
Sは変わらず ココにおられること
そして 初めから在る 言葉 というのに頼ることが
渇き切ったTを 天まで救い上げてくれる
************ ************
嘆きの向こうに ポメラニアン
他者との触合いを恐れず
周囲と比して 最小ながらも活発な………
癒しとは しばしば得難くなるものか
気紛れに跳ねる度 フサフサと揺れる巻き尾に
Tは露骨に恋をした
周囲をジロジロと観察せずにいられない故
悔しく軽率なことに
──── 誰もTを見ていない
──── 誰からもTのことが見えていない
なのに 無闇に気にする性を 誰がTに譲った?
味が強めの料理しか 今のTは受け付けない:
舌は 痛みとして
味
という刺激を受け取ってしまうから
************ ************
Aは口を利かない
なのに 猛暑で焼いた素肌を覗かせる
無声を以て訊こう:
噛み潰された弱虫に 1億光年かかって 寝取られる気がYにはあるか、と
同じ出来事が 恐ろしいほどに 繰り返される
此のターン ──── おそらく 一時期において ────
昨日も 今日も 明日も 明後日までも 延々と
川底を浚うような溜め息を
色を失くした都会が 吸い取ってゆく
嗚呼 どのような物語を
此のターンに用意されているのですか 神様!
胸焼けで崩れ落ちるT曰く
大小・善悪・寒暖………
貴方の望みの様を知りたいのです!
いや 胸の奥では 既に 知らされている という気もしますが
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毎朝 あれほど起床が苦痛でも
変わり映えしない一日が過ぎれば
そうか 終えられたのか………と
無色透明の感情が 心の水面を飾る
不思議でない
憎らしくない
況してや 愛おしくはない
地球が回るのは
可視の色の数を殖やすため
1周する度 T等には見分けも付かぬほど似通った色を
次々と産んでゆく ────
1公転もすれば 純白を漆黒にさえ塗り変えてしまう
幸せはいつも 不意に額に触れてくる
対して〈悲しみ〉というキャツは 懐に居着いて
大概うっとうしくなる
悩み踠きながら
ギコチナくも
Tが筆を走らせたところで
Tがsmartphoneに嘆きの塊を打ち出したところで
世界の何が変わるのか
どれほど世界が広いか 想像に難くはない
けれども Tの居る部屋の窓は小さくたった一つ
屋根裏部屋と同様の光量で
意思の明らかな あいだ 絶えず
閉塞したブルーを 無機質に吸って吐きつづける
************ ************
裏切る術では犯せない 天上の園が
遠すぎて近すぎる所だ という悟りに
終にTは導かれる
それでも
それでも だ!
虚しさから逃れられずに 足掻きつづけているのだ
無心に飯に喰らい付く姿をば
無心で見詰めていられる!
恋は いうに及ばず 強力だ
◼︎◼︎◼︎ワンコ メンコ アンコ
大好き!
超好き!
まぢでやゔぁい!◼︎◼︎◼︎
刺激には弱いのに 相変わらず求めたがる性は
呆れるほど飽かない
喜ぼう!
そうだ、
まず 喜べ!
〈悲しみ〉が胸の内に溶け出すことを喜べ!
──── “ワクワク”や“ウキウキ”が 胸を昂めるときと同様に
休日の過ぎる様は まるでアーク放電
終わることに想いが及ぶ度 熱電離が激化する
高圧の虚しさで 胸がビリビリ痺れる
気の遠くなるような 切れ間ない日常から
笑顔を奪う真夏の清流………
溜め息がいくつ垂れても 決して枯れるようなものではないのに
今や 活力はあり過ぎても胸焼けを悪化させるだけ
素直でいることは奥床しく
もたらすものは いっそ 落涙
試しに「ありがとう」と
無声で唱えてみないか?
騙されたようにして 実践したところ
頑なでさえあったAの口が 俄に開いた
どれだけ似通っていても
遠い神代から 今なお回りつづける地球のように
Tは瞳を乱し 産み出しつづける、
嘆きの塊を。
たとえ無関心になることなどがあっても!
無意味だと非難されても!
Sよ!
我がSよ!
貴方の懐で幸せに包まれたいのです
貴方のすべてを 全力で 全霊で信じつづけていられる 最強の信仰心が
ほしい………ほしい
従順な者は 嘘を吐きがちな者
素直な者は 疑い深い者
このまま止め処なく喰われつづける疲労の末に
Tの躰はどのように変容するのか
恐れもまた 止め処なく
底が見えない
〈悲しみ〉の郷も住めば都か
余りにも巨大なSの愛に
それとすら気付かず
海の荒い繁吹きを浴びつづけるのは
Sの命に因るのか
楽しそうに笑い歌う花々に 意識下で惹かれ
T自らは解かせぬ後遺症に
生来からの震えの症も
いつしか 治まっていた
狂気で奇怪な自惚れへとTを酔わす酒が満ちる井戸へ………
自身の所在を失い 這い上がってこられないのは宿命だろう
少なくとも五万年以上つづいたターンのなかで
しばしばTは
異常精神を醸す休日の経過をアースする
折に触れ 自身の無為な身軽さに頭を抱えながら向かうのは
そもそも他の話を聞く気などない者たちとの酒席
この先のTの行く道には
苦しみと辛さと重たさだけが横たわっている
曰く
貴方にだけは分かってほしいのです!
返事だけでも聞かせてください!
キレイ事など欠片もいりません!
周囲の優しさが乏しく そのせいで息苦しくなるほどに
TとA共々 潤っていない心が浮き彫りになる
あらゆる問いを虚空へと消してゆく〈悲しみ〉に代わる景色を探して
祈りを忘れ あるいは (確信犯的に)怠り 時間を無駄にするくらいなら
必要な事物は 漏れなく 用意が済んでいる
だから Sからのお応えが一向に得られないように感じるのである
おそれ多く も
掛けまく も
綾に畏きSよ!
創造の主にして天の父・唯一無二のSよ!
信じ抜こうとして も
挫けながら も
………やはり………
貴方だけを選びながら も
情けないながら も
識らずに 他と張り合った末に与えられた贈りものを
頑なに自分のものとしないような
最強の信仰心………
存分にお与えになれるだけ 貴方が誇れる 子どもとしてください
Sの そこはかとない 無限の 愛の
溢れる 天上の園………
我が内に
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