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【歴史本の山を崩せ#029】『昭和天皇と鰻茶漬』谷部金次郎

《天皇の料理番が見た聖上の顔》

杉本久英の小説『天皇の料理番』のモデルである秋山徳蔵に採用され、昭和39年から約四半世紀の間、宮内庁の大膳課で昭和天皇の料理番として奉職した谷部金次郎が当時を振り返った本です。
谷部は天皇の日常の料理や様々な宮中行事で和食を担当。

著者が宮内庁に入ったのはすでに戦後20年を迎えようとした頃です。
大膳という職務を通じてその人柄に触れたことで昭和天皇を使えるべき唯一の存在と定めます。
1946年生まれの著者は「現人神」であった頃の昭和天皇を見ていないにも関わらず、です。
侍従長や宮内庁長官などの証言録とはまた違い、政治的な要素から無縁な「料理番」から見た天皇の姿がそこには描かれています。

宮中行事で用意する料理こそ特殊ではある(しかし、贅沢な食材をふんだんに使うというわけではなく、個々の料理に特別な意味を持たせている)ものの、日常の献立や食器類は私たちと変わらない驚くほど平凡なものであるとか、タイトルにもなっている鰻茶漬や焼き芋を好まれたなど、昭和天皇を身近に感じられる証言はこの本ならではのものでしょう。
宮中の外からは伺いみることができない「聖上(おかみ:天皇)」の日常や人柄が感じられるエピソードが満載です。

人間としての昭和天皇を、食事という私たちと変わらない日常からのぞき見たユニークな本です。
片意地張らずに読むことができます。

『昭和天皇と鰻茶漬』
著者:谷部金次郎
出版:河出書房新社(河出文庫)
初版:2015年
定価:680円+税

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